2018年3月29日木曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 4   走れ!ユーチューバー!




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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 「チーム雅璃羅屋」という若者の集団が活動を開始したのは、それからほどなくしてのことである。

 自分のチームを作ること。その話を聞いて一念発起したジェシー兄ちゃんは、さっそく行動を起こしたのだ。

 一度故郷へ帰って、自分なりの生き方を見つけたいとジョン師匠に申し出たジェシー兄ちゃんに、師匠は喜んで免許皆伝を授けた。

「そうか、ジェシー。私は当局にも目をつけられているし、ここでこういう活動しかできない。お前が志を継いでくれるなら心から応援しよう。ぜひ、故郷へ帰って、地方の若者たちへもこの国のあり方を大いに啓蒙してほしい」

「もちろんです師匠。いつかまた、師匠にも会いにきます。それまでどうかお元気で」

 二人が熱い抱擁を交わすのを、これまたマジテンションぱねえ感じで悠太も見ていた。それから師匠は、心から優しそうな目で、悠太を見つめた。

「悠太、お前も行くのか」

「はい、師匠。これまで本当に世話になりました。とりあえずはジェシー兄ちゃんについていけば、家へ戻れる道へ出られるかもしれないし、一人で行ったらヒグマにやられるかもしれないじゃないっすか。師匠のこと、俺も忘れねえっす」

「そうか、気をつけてゆきなさい。困ったことがあれば、いつでも戻ればいい」

 そうして悠太も熱い抱擁をジョン師匠と交わした。どうやらこの人たちは、熱烈なハグがとても好きらしい。さすがは外人さんだよな、と悠太はいつも思うのだった。

「ああ、そうだ」

 去り際に、師匠は思い出したように言った。

「少し待ちなさい。渡すものがある」

 ほどなくして師匠が持ってきたのは、悠太があの日身につけていた服一式だった。

「特攻服!とっておいてくれてたんすか!」

「もちろんだよ。君の大事な衣服だ。これはしっかりしたものだね。すばらしい獅子のペルシア刺繍が入っている」

「ちなみに、ここに縫ってある文字は、悠太の国のものかい?なんて書いてあるんだ?」
ジェシー兄ちゃんが指差した先には、こう刺繍で書かれている。

『石狩川 小田悠太』

「・・・・・・たいしたことは書いてないっすよ。俺が所属していた学校と、名前だけです。イシカリガワ、オダユウタって書いてるだけです」

「イス・・・・・・カリオダの・・・・・・ユータか。そこが君の故郷なんだね」

 ジェシー兄ちゃんは、にっこり笑ってそう言った。




 それから二人は、十分な荷物を整えてガリラヤへと旅していった。ガリラヤ地方はジェシーの故郷があり、近辺で彼の兄弟やいとこたちがたくさん暮らしているという。ジェシーが言うには、そこでまずは地元のチームを作って、基礎を固めたいというわけだった。

 ジョン師匠たちといた場所も十分田舎のように感じたが、ガリラヤはこの国ではさらに田舎だという。それが 夕張ぐらいの田舎なのか、それとも網走なのか。もちろん悠太にはその田舎具合はさっぱりわからない。そして当然、この物語を読む読者諸君にだって根室と稚内がどれくらい辺境の地かはわからないはずである。もはやそれくらいガリラヤがどんなとこなのかは、悠太にはわからないのだが、すでに今いるここがどこかわからないのだから、そこはもう達観している。


 
 時には荒野、時にはオアシスのような町を、そして時には砂ぼこりの道を旅をしながら二人はいろんな話をした。

「へえ、兄ちゃんのきょうだいは漁師やってるんすか。うちも親戚に漁師いますよ。イカ釣り漁船に乗ってます」

とか

「そうか悠太の運ぶ牧草を巻いたものは350キロもあるのか!そんな重いものは、さすがの私たちでも動かしたことはないなあ」

とか、

「断食をしてみようと試してみたことがあるんだけど、途中で幻覚に襲われてね、あれはキツかったなあ」

とか

「バイクっていう乗り物があるんすけど、あれで走りまわると何もかも忘れられるっているか、楽しいんすよ!こんど馬かなんかでやりましょうよ!・・・・・・あ、そういやロバがそこらへんにいますよね」

とか、本当にどうでもいいような話ばかりして、二人は笑い続けていた。
 


 ガリラヤでは、すぐに地元のチームが結成され、悠太はジェシーの仲間や親族に紹介してもらった。

「みんな、彼はジョン師匠のもとで一緒に修行をした悠太だ。悠太、彼らは地元の友人だったり親族だよ。こちらがピーター、フリップやトーマスだ。漁師だったり、こちらは税務署に勤めていたマシューもいる。弟のジェーコブもいるし、サイモンは過激派上がりだ。彼も武術に長けていて、ナイフの扱いは超一流だよ」

「どうも、はじめまして。悠太です。一人だけ地元民じゃなくて、申し訳ないっすけど」

 当たり前といえば当たり前だが、ジェシーの仲間はみなヒゲ面だったり濃厚な顔立ちをしている、悠太自身はどちらかと言えば自分は掘りが深いイケメンではないかと自分ではこっそり思っていたのだが、ジェシーたちの中では、顔立ちが薄いことこの上ない。っていうか自分が平たい顔に思えて仕方がない。

 あきらかにアウェー感があるなあ、と思いつつ、その分気合で乗り切るぜ!と悠太は決意を新たにする。幸いなことに、みんな明るくてアホそうで。いわゆるインテリじみたメンバーがいないのが気に入った。ここならうまくやっていけそうだ、と悠太も安心したのだ。

 総勢13名のチームは、こうしてスタートしたのである。



 「チーム雅璃羅屋」ののぼりを、慣れない手つきで筆文字で書いたのは、もちろん悠太である。さすがに刺繍の特攻服を揃えるというわけにはいかないけれど、田舎町で若者のチームが結成された噂は、意外と早く評判を呼んだ。

 それも町へ出ていて、あの有名なジョン師匠の元にいたジェシーが帰ってきたらしい。なんでも、ムキムキになっていろんな技が使えるようになっているだとか、あるいは何か不可思議な術を学んできたらしいとか、噂にはすぐにおひれがついて、「チーム雅璃羅屋」は、謎のチーマー集団としてすぐに若者の羨望の的になった。

 悠太としては、ちょっと思っていた「暴走族チーム」のイメージとはズレていっている気がしたが、まあリーダーのジェシー兄ちゃんのキャラクターから言えば、単なる暴走族っていう柄じゃあないか、と意外に納得していた。

 特に評判を呼んだのは、まるでテレビの池上さんのようにわかりやすいジェシー兄ちゃんのニュース解説だった。

 都会ではいまこんなことが起きているとか、ローマの支配がこんなふうに圧力を増しているとか、我々は今こそ国のあり方について真面目に考えねばならないとか、そういう難しい話を悠太にでもわかりやすく「たとえ話」を使って話すもんだから、ジェシー兄ちゃんの話には多くの人が集まって、皆が熱心に聞き入るのだった。

 ジェシー兄ちゃんは、この地方の一人でも多くの人に話を聞いて欲しいといつも考えているので、悠太たちも新しい町でどうやってまずは自分たちのチームが話題になるのかを苦心していた。

「なあ、悠太。地元の人は私たちのことを知ってるけれど、隣の町では私たちは全くの無名だ。どうしたら、話を聞いてくれるかな。何かいい方法はないだろうか」

 13人は、いつもああでもない、こうでもないとネタを考えては、実際に試したりしてみた。

 ピーターが手品をやればウケるんじゃないか、というので、悠太は昔小学校の時にやった二重のコップを使って水とワインを入れ替えるようなネタを必死で思い出したりした。壷の中に皮袋を仕込んでおき、注ぐときに皮袋のほうからワインが出るように仕掛けを作ったりしたのは、大いにウケた。

 そうなるとyoutuberみたいなもので、人々のアクセス数が増えることばっかり考えるようになる。今度は悠太が言いだしっぺになって、長い布を買ってきて、それを湖に浮かべ、誰が水面に浮かべてメンバーの漁船まで走り抜けられるか競争したりもした。

 ギャラリーがたくさん集まり、まるでお祭り騒ぎのようなイベントになった。動画を撮っておけば、お金になったのになあ!と心から悠太が思ったくらいである。

「さあ!よってらっしゃい見てらっしゃい!チーム雅璃羅屋がお届けするビッグイベント!題して水の上を走る男たちのはじまりだよ!。

 岸辺から向こうに浮かべた小船まで、無事にたどりつけられるのは一体どこのどいつだい?さあさあ!賭けた賭けた!出場者は全部で五人!なんだい?そっちのお兄さんも飛び入りで参加するってかい?いいともさ!掛け金は、優勝者に賭けたやつらで山分けだ!さあ、よってらっしゃい!」

 チームのメンバーから飛び入りの兄ちゃんまで、気合十分で岸から布の上を全力で走りぬけようとする。

 でも、その大半が、走りながらどんどん沈んでいくか、叫び声を上げながら布から外れていくかのどちらかだった。見ている観客は大笑いする。チームのメンバーもバカみたいにはしゃいで、アホ面を晒している。両手を挙げてアピールする者、派手に悔しがる者、勝手にそこらへんでビールを売り始めるやつもいれば、果物や菓子を売り出すやつもいた。

 観衆の盛り上がりも絶好調になった頃、まだ誰も成功していないところへジェシー兄ちゃんが自ら手を上げた。

「よし!私も挑戦してみよう!」

 おもむろに上着とサンダルを脱いで、スタート位置につく。そして合図とともに走る、走る、走る。まるで水面が地面かのように、ジェシー兄ちゃんは走った。布は足元に沈み込もうとするが、鍛えられた兄ちゃんの脚力はそれよりも早かった。

「すごい!」

と誰もが歓声を上げる。

「頑張れ!もうちょっとだ!」

 興奮のるつぼの中、ジェシー兄ちゃんはこれでもかというほど走った、走った、そして走った。そしてそのまま倒れこむように浮かべた船の中へ飛び込んだのである。

「うおおおお!あいつはすけえぜ!やりやがった!」

「掛け金総取りだ!誰だジェシーに賭けたやつは!」

「まるで奇跡だ!」

 口々に皆が賞賛し、大いにジェシーを讃えた。奇跡を起こす男、誰かがそういい始めると、その噂はすぐに広まったのである。



(5へつづく)

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