2018年3月31日土曜日
【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 5 神劇の巨人
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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。
諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。
おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。
キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。
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チーム雅璃羅屋の活動は、時にまじめに政情を語り、時にバカまるだしのどんちゃん騒ぎをしたりで、悠太は本当に楽しかった。
もう、石狩の自分の家を戻ることなどすっかり忘れていて、・・・・・・といえば大げさで嘘になるが、いくら悠太でも、そろそろ自分がどこか遠い異国や別世界に流れ着いて、元の世界には戻れないかもしれないことは薄々気付き始めていた。
でもそれならそれでいい、とも思えるようになっている。ケンカに明け暮れ、親や先生に反抗するだけの毎日よりかは、今のほうがずっと生き生きしているように感じられた。
もしかすると、自分はもうあの時川で溺れ死んでいて、ここは死後の世界なのかもしれないと考えたりもした。
でも、もしそうだとしたら、生きることや生きているって一体なんなのか。つまんねえ授業を受け、バカもやったけど誰かと傷つけ合い、将来に対してものすごい不安を抱える生活が生きているってことで、逆にこっちの世界が死んでいるってことなのだとしたら、悠太にとっては「あっちの世界でこそ死んでいた」ようなものに感じられたのである。
チーム雅璃羅屋の評判が高まるにつれて、悩み相談に訪れる人が増えたのも、悠太にとっては大きな転機だった。
寄る辺のない老人の世話をしたり、病人の話相手をしたり、貧しい人の手助けをして感謝されたりすることは、かつての悠太が体験したことのないことばかりだったからである。
悠太がジェシー兄ちゃんを心から尊敬したのは、彼がまったく分け隔てをせず、どんな人にも笑顔で接することであった。
ネトウヨってのはこう、なんていうか。もっとヘイトスピーチとか、そういうのに明け暮れている印象があったから、悠太から見ればおなじネトウヨでも、ジェシーのやり方はかなりマイルドなんだなあ、と思うようになった。
あるとき、ずっとふさぎ込んでいる女の子の両親が、メンバーに相談に来たことがあった。もう長い間ベッドに臥せっていて、起き上がることができない、という。
「なんか辛いことがあったんすかね。メンヘラなんすよ、きっと」
悠太はそう言って、両親の相談を聞いているジェシーの話に割って入った。
「娘さん、好きだった男の子が亡くなったとか、そういうことがあったんじゃないすかね」
「そういえば・・・・・・」
思い当たる節があったのか、両親は娘が思いを寄せていた男との仲を無理やり引き裂いたことを認めた。
「クララには、悪いことをしたのかもしれません」
そう言って、両親は肩を落とした。
「さあ、早く行ってそのことを娘さんと話し合いなさい」
ジェシーがそう勧めると、二人は急いで家へ戻っていった。
「クララが立った!クララが立った!と評判になってるぜ」
と、ピーターが町のうわさを聞きつけたのは、それからほどなくのことだった。
そうして、ジェシー達の活動がどんどん勢いを増して、地元では知らぬものが誰一人としてないくらいになった頃のことだった。
「一生に一度くらいは、神殿にお参りしてえもんだな」と言い出したのは、チーム誰だったか、今となっては定かではない。
「お伊勢参りみたいなもんっすね」
と、知ったような口を利いたのは、もちろん悠太だった。もっとも悠太だって伊勢へ参拝したことなどなく、それどころか東京へも行ったことがない。せいぜい中学校の修学旅行で札幌へ行って時計台とクラーク博士の銅像を拝んだくらいのもんである。
「東京かあ、行ってみたかったなあ!」
もうずいぶんとこちらの暮らしに馴染んでしまったが、ひょんなことで昔をたまに思い出してしまうものである。
「エルサレム、ってのは、どんなとこなんすか?」
悠太が尋ねると、みんな口々に「そりゃあ、大都会だよ」とか「この国のいちばんの神殿があって、そこには綺麗なお姉ちゃんもいるらしいぜ」とか騒ぎはじめる。
「エルサレムか・・・・・・」
そんな中ジェシー兄ちゃんは、一人真面目な顔をして何か考え込んでいる。そしておもむろに言った。
「行くか、みんなで。エルサレムへ行こう!私だって神殿に行ってみたい。神の国の証を体感したい。首都であれば、ローマがどんな政治をしているのかもこの目で見ることができる。行こう、ぜひ
行ってみようじゃないか」
「じゃあ!ツーリングで行きましょう!」
思わず悠太が言った。
「ロバ買ってきて、みんなで乗っていくんすよ!連れ立って!ぜったい楽しいって!」
さすがに、盗んだロバで走り出そう、なんてことはもう言わなかった。
かくしてイージーライダーのテーマが脳内で流れる中、チーム雅羅利屋ののぼりをはためかせながら肺活量750CCのロバたちが隊列を組んで走っているのは、エルサレムへ向かう街道である。
はじめはたいして関心もなかった沿道の人々であったが、一行ののぼりに「チーム雅璃羅屋」の文字があるのを見て、もしや彼らが今話題になっているホットでクールなあのメンバーたちか!と一部のマニアには感付かれるようになっていた。
しだいに、エルサレムの町の入り口に近づくにつれ、噂を聞きつけたギャラリーが増え、伝聞で彼らのことを知っていた一部の熱狂的ファンからは熱烈な歓迎を受けることになってしまったのである。
「きゃー!」
と中には黄色い声援を上げる女子たちもいて、野郎ばかりのむさくるしい集団だったチームのメンバーにも、照れ笑いが生じている。取り囲まれるように、ロバは歩みを遅くせざるを得なかった。
「知ってますよ!みなさんのこと!サインくださいよ!」
と羊皮紙に下手糞な文字で、雅璃羅屋と書かれたステッカーのようなものを両手で掲げているオタク風の若者が近づいてきて、ジェシーも愛想良くサインに応じている。
ははあ、これはもうエルサレムでも「どうでしょう」ぐらいの人気になってるんだな、と悠太は逆に驚いた。ネットもスマホもないのに、口伝えの話だけで、こんなにも俺たちのことを知っているだなんて、この時代かこの世界よくわかんないけど、なんだかすごいことなんだと実感したのであった。
エルサレムの町は、中央にそびえ立つ神殿を取り囲むように、城壁があつらえられている城砦都市であった。テレビでみたことのあるような円形競技場のような建物も遠くに見える。こりゃたしかに、「ローマが支配している」だのジェシー兄ちゃんが言ってたとおりだ、と浅学な悠太でも納得せざるを得なかった。
「すごい町っすね、エルサレム・・・・・・巨人でも出てきそうだ」
今にもあの壁の向こうから、大男の顔がぬっと覗き込みそうな雰囲気だったので、そうつぶやいてみたが、さすがに自分でもアニメの見すぎだと思う。
するとジェシーが笑って答えた。
「ああ、そうだ。私たちの民には巨人の伝説もある。初代の王デイビッドは、ゴライアスという異国の巨人を倒して最初の王として認められたんだ。そのデイビッドが神への信仰を表明して築いたのが、あの神殿というわけさ」
「マジで巨人がいたんすか!」
ごくん、と思わず悠太は息を呑んだ。
「伝説だよ、伝説。はるか昔のことだって、心配すんな」
ジェイコブやトーマスはバカにしたように笑っている。
「それじゃあ、まずは、その神殿を目指して行ってみようか」
一向は、エルサレムの中央へと進んでいった。
(6へつづく)
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