2018年3月25日日曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 2   ジェシーにいたん、とフルメンバー



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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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「おい、大丈夫か?しっかりしろ!」

 誰かが、自分の体を大きく揺さぶっているのをまるで他人事のように思いながら、最初、悠太はぼんやりとその声がしているのを聞いていた。

 ・・・・・・何か声が聞こえるなあ。なんだべか。これ、誰の声だっけ。

 ・・・・・・クラスのやつにしては、聞いたことのない声だし、それよりもう少し寝かせてくれや・・・・・・。

 だが、胸を強く押されて

「げほっ!」

と大量の水を吐いた瞬間、それが自分の意識であることに気付いて、ゆっくりと目を開けた。

 そこには悠太を覗き込むヒゲ面の兄ちゃんの姿があった。 いや、厳密に言えば、ヒゲ面どころか、たぶん胸毛も濃いだろうなと思わせるような、日本人離れした、いや、ぶっちゃけていえば日本人ではない、あきらかにどこからどう見ても外国人の兄ちゃんが、自分を抱きかかえているらしい。

 ほの明るい日差しと陽気が水で濡れた悠太の身体をふんわりと温めている。もう、朝になったのか。俺、どんだけ寝てたんだろう。そんなことをぼんやりと想っていると、兄ちゃんが喋った。

「ああ、気付いた!よかった、大丈夫か少年」

 ・・・・・・なんだこの外人さん。日本語超うめえじゃん。観光客かな。

 薄目がちに外人さんの兄ちゃんを見ようと気持ちだけはするのだが、まだ悠太にはその体力が戻ってはいなかった。

 とりあえず、生きてたっぽい。その安心感からか、悠太は再び意識が遠のくのを感じていた。・・・・・・石狩川と北斗星の戦いは、どうなったんだろう。でもまあ、なんかよくわかんねーけど、今はとっても眠いんだ・・・・・・。

 そのまま、悠太は意識をまた失っていた。



 次に悠太が気付いた時は、毛布のようなものをかけられて寝かされている自分の姿だけで、周囲には人の気配がなかった。

「ここはどこだ?病院じゃねえな」

 ゆっくりと身体を起こそうとするが、昨日暴れ倒したせいか、体が痛くてうまく起き上がれない。毛布だと思っていたのは、もう少し織り目の荒いよくわからない布だし、身体が痛いと思ったら、寝かされているのはおそらくは岩の上だ。

 身体はズキズキするし、背中はゴリゴリする。おしりだって体温を吸われてやや冷たくなっている。
 さっきよりは幾分と目が慣れてきたと思えば、自分がいるのがなんだかほんのりと光が入る洞窟のようなところだとわかってきた。

「なんだここ・・・・・・。イテテテ」

 まだ、事態がよく飲み込めない。よく見ると、悠太自身は特攻服やら制服を脱がされ、これまたなんだかよくわからない麻布のような茶色にくすんだ服をまとわされている。手足は乱闘のせいか痣だらけになっているし、これまたよくわからない油のようなものを塗られているところもある。思わず匂いをかいでみると、意外にいい香りがする。

『オリーブオイルみたいだ』

と悠太は思ったが、なんで自分の体にオリーブオイルが塗りたくられているのか全く意味がわからなかった。

 ゆっくりと立ち上がってみる。すると、どこかからか美味しそうな匂いがただよってくるのを感じた。薄暗かった洞窟だが、明かりの差してくる方向がある。どうやら、あっちが外らしいなと思いながら、悠太はゆっくりと歩き出した。はだしのせいか、洞窟の岩がやたら冷たく感じられた。

 それにしても、昨日の決着はついたのだろうか。その前に石狩川の河川敷に洞窟なんてあったっけな。それとも、いくらか流されて、知らない所に流れ着いたのかな。そういえば、さっき外人さんの兄ちゃんに声をかけられたけど、あの人はどうしたんだろう。

 いろんなことがぐるぐると頭を回っているが、まだ全然すっきりとはしない。ただ、美味しそうな匂いにつられて、本能的にふらふらと歩いてゆくだけである。

「誰か、河原でジンギスカンでもやってるんだべか」

 そう!そうだ。これはジンギスカンの匂いだ!そう気付くと、悠太はちょっと元気になった。北海道民のソウルフード、ジンギスカン。たれでもいい、最近なら塩で出すところもあるが、ジンギスカン鍋でたっぷりの野菜とともに食うジンギスカンは、命の源と言っていい。

 ちなみに美食家たる読者のために豆知識を披露することが許されるなら、ジンギスカンには「生肉タイプ」と「たれ漬け込みタイプ」とでっかいハムみたいに見える「冷凍ロール肉タイプ」の3種類ある。悠太はもちろん、生肉タイプに目がない。だが、値段が高いので、仲間内でジンギスカンをやるときはロール肉しか食べられないのが残念でもあった。



 ところで洞窟を出た悠太は、目を疑った。石狩川沿いのどこかだと思っていたが、見渡す限り北海道らしい初夏の緑はまったく見えず、どちらかといえば砂っぽい黄土色の荒野が広がっている。たしかに緑らしいものはすこし点在しているが、ほんのわずかで、そもそも道路が一切見えないのだ。

「なんだこれ!石狩じゃねえのか?」

 一体、どこに連れてこられたんだ。そう思うと急に怖くなったが、その瞬間に腹がきゅうううと鳴って、体は正直なもんだなとちょっと呆れた。煙が立ち昇っているのは、すぐ近くの岩陰のようだった。ジンギスカンをやっているとすれば、あそこか。

 だが、岩陰をひょいと覗いた悠太は、さらにめまいを覚えた。なんだ。なんなんだこれは。

 そこには、半裸に布をまとったような、悠太からみれば原始人のような格好をしたおっさんが数名、焚き火を囲んで焼いている肉にかぶりついていたのである。

 それも、肉はたしかにジンギスカンの匂いではあるが、たれ漬けでもロールでも、あるいは生肉タイプのどれとも形容しがたい、もっと巨大な肉塊をナイフでそぎ落としながら、焚き火の周りで石の上やら木切れにぶっ刺した形で、肉片は焼き焦がされているのである。

 そして、その全員は、悠太の知っている北海道の人間でも、あるいは観光客でもなく、全員が外国人の毛深いおっさんなのである。おまけに何度も言うが、半分裸族のため「これでもか」と言わんばかりにあちこちから毛やらなにやらがはみ出しているのだ。もはやはじめ人間なんとかの世界のほうが近いくらいで、全く意味がわからないにもほどがある。

「おお!少年!気が付いたか」

 おっさんたちの中で、悠太を見つけて笑顔で駆け寄ってきた人物がいた。見覚えのある外国人の兄ちゃんだった。彼だけが、おっさんたちの中でやや若く、ちょうど20代後半から30代前半くらいに見えるのだが、外国人の年齢は悠太にはちょっとわからない。いや、そもそも、原始な人たちの年齢は、ちょっとどころかさっぱりわからない。

 それでもその兄ちゃんは、駆け寄るなり悠太に熱いハグをした。満面の笑みで、本当に悠太が助かったことを喜んでくれているように見えた。

「良かった!とにかく元気そうだ。ちょうどいい、みんな食事をしているところだから、一緒に食べよう!今日は、いい羊肉が手に入ったんだ」

 兄ちゃんは相変わらず流暢な日本語でそう言った。すると、兄ちゃんのうしろから、ちょっと体格のいい、マッチョな初老のおっさんが顔を覗かせた。

「少年、君は溺れていたのだが、その感じなら大丈夫そうだな。旅の者か?我々とはかなり違う服装をしていたようだが、ペルシアから来たのか?」

 おっさんは、上半身裸で、鍛え抜かれた体がオイルでぬらりと光っている。

 ペルシア?なんだそれ!〇ルシアなら緑茶だけどもさ。

 混乱している悠太に、兄ちゃんが笑顔で語りかける。

「少年、この人は私の師匠だ。ちょっと変わっているが、信頼できる心配ない。ジョンって言うんだ。ああ、それから俺はジェシー。あとで向こうのみんなも紹介するが、ここで一緒に暮らしている。君はずいぶんと遠くから来たようだが、エジプト方面の格好じゃないな」

 何を言っているのか、悠太にはさっぱりわからなかった。

 いや、確かに言葉はしっかりとわかるのだが、ペルシアだのエジプトだの。北海道は、日本はどうなったんだ。石狩支庁は、札幌は、小樽はどこへ行った!

 だが、ここで何も言わないのは、さすがに助けてくれた兄ちゃんたちに失礼だということは、悠太にもわかっている。だから必死の思いで、伝わるかわからないけれど悠太は伝えようとする。

「お、俺は・・・・・・、小田悠太です。助けてくれて、ありがとう。本当に感謝しています」

 そう悠太が言うと、師匠と呼ばれたジョンと、ジェシーは驚いた表情を見せた。

「少年!君はヘブライ語が上手いな!東方なまりが全くない!こちらに誰か身内の方でもいるのか」

 ヘブライ語?フビライハン?

 やっぱり何を言っているのかわからない。さすがの悠太も、もっとしっかり英語を勉強しとけば良かった!と後悔した。ディスイズアペンと、アッポーとパイナッポーしかわからないのは、さすがに恥ずかしい。

「ご、ごめんなさい。ちょっとよくわからないです」

 わけがわからず、悠太はおじぎをしたままうつむいてしまう。

「まあ、頭を打ったんだろう。そのうち記憶もしっかりするだろうて。まずはしっかり食事を取るといい」

 ジョン師匠が、肩をぽんぽんと叩いて促してくれた。たぶんそうだ、記憶とか、そういうのがおかしくなってるんだ、と悠太も自分にそう言い聞かせた。

 きっと、そのうちにちゃんと思い出すだろうし、この人たちのことも理解できるに違いない
、と。

「さあ、悠太。歓迎するよ、とりあえずは、私たちと一緒にいれば大丈夫さ!」

 ジェシーはにこにこしている。少なくとも、彼は悪いヤツには見えないのが安心だった。

 ジェシーって、そういえば昔アメリカのテレビドラマにおなじ名前の人がいたよな、と悠太は酪農作業をサボって見ていたテレビのことを思い出していた。3人のおっさんだか兄ちゃんと、女の子ばかりの3姉妹の話だ。

『ジェシーおいたん、だっけか』

 厳密に言えば、悠太は聞き違いをしているのだが、それはこの際どうでもいいことだった。ジェシー兄ちゃんは、厳密には「ジョシュア」と発音したのだが、悠太には聞き取れなかったのである。ジェシーとジョシュアは、アメリカ人の名前としても別の読み方なのだが、それは試験には出ないので気にしなくていいことである。

 『でも、そういえば、ここの人たちテレビとか冷蔵庫とか、そういう類のものがまったくなさそうなんだけど、どうしてなんだろう。肉だって、せめてバーベキューコンロで焼こうぜ。これじゃあ、完全にただの焚き火だべ。』

 火を囲みながら、男たちは談笑している。おずおずと悠太も輪に入る。

 でも、羊肉はうまい。勧められてかぶりついた肉の塊に、悠太は夢中になった。『たれ』はなかったけれど、荒く砕かれた岩塩だけの味付けも、また格別だ。

 これだよ!これこそ、北海道の味だべさ!、と悠太もやっと笑顔になった。



(3へつづく)

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