2018年4月29日日曜日

ミドルエイジクライシス ~中年の闇の正体~ なあ、そこの45歳のおっさんへ



 はてな界隈でここ数日「中年の闇」についての話が出ていて、かくいう解脱者にもその心境の一部についてわからんでもないので書き留めておこうと今回はメモ程度に書いておきましょう。


 元ネタ

 中年の心の闇がイマイチわからない (シロクマさん)
 http://blogos.com/article/293679/



 中年の危機について (Phaさん)
 http://pha.hateblo.jp/entry/2018/04/28/132055



 女性バージョン(toyaさん)
http://toya.hatenablog.com/entry/2018/04/28/153511





 ”中年の危機”というのは、ウィキペディアにもわかりやすい解説が載っているので、そちらを参考にしてもらえばよいのですが、

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%B9%B4%E3%81%AE%E5%8D%B1%E6%A9%9F




簡単にいえば、「中年になると、いろいろ第二の思春期がやってくるよね」というものですな。


 それが自分の発信としてプラスに表現されることもあるし、マイナスに表現されることもあるし、いい意味でも変われるし、悪い意味ではやらかしてしまう、ということでもありましょう。


 かくいう私も誕生日が来れば今年44歳なので、まさにこの「中年の危機」にぴったりんこ合う年頃というわけです。



~~~~~~~~~~



 たとえば、先日、緑内障が発覚した、なんて記事
https://satori-awake.blogspot.jp/2018/04/blog-post_7.html

を書いたわけですが、その中で、


「わしの人生70歳説」


なんかを論じてしまうのは、まさに中年の虚無感そのものなのでありましょうか。


 こうして肉体的な衰えを実感すると、解脱者でなくとも


「ああ、私の人生は有限なのだな」


ということを自覚せずにはいられません。その終焉が、すぐそこに迫っていないだけに、それはじわりじわりとやってくる恐怖となるのでしょうか。

(解脱者は解脱してるので、べつに怖いとかはないです。しかし、そこに思うことがあるのは解脱者ゆえ!いまからその本題へ)



 しかし、そんなことを考えているうちに、ふと気付いてしまったことがあるのです。


 解脱者武庫川が、この悟りの根幹とも言うべき「この世は存在しない説」について一番はじめに発見したのは、18歳もしくは19歳のことでした。

 そしてそれをすぐに文章にまとめて、自分の中だけで通用する論文集に書き留めて置いてあるのですが、実はそのときから44歳になる今まで、


「その理論の根幹は一切揺るいでいないし、それを反する論説も一切出てきていない」


ことは確かです。ああ、わたしは最初の解脱を19歳でやっちまったというわけです。




 ・・・ここでふと気付きます。


 ムコガワが今の考え方に到達したのが19歳の時、ああ、忘れもしないコンピュータな何かの基礎的な大学の授業を受けていて、チューリングマシンの話を先生から聞いていたあの夏の日!(ほんとに夏かはしらんけど)だとしましょう。


 その19歳から、44歳の今まで、なんと25年も経っているというのです。


 そして、こないだのブログ記事で書いていたとおり、70歳までわたしの寿命があと25年だとすれば、


ああ、残された時間は、あの大学生の夏の日からの時間とおなじなのだ!!!


という気付きが、ものすごい発見としてやってきたというわけです。



 これは大変にまずい!



 このブログを読んでいる45歳のおっさんがいたら、ぜひ思い出してください。高校を卒業して、大学1年生か2年生の夏の日のことを。あるいは就職して、1年が経つか立たないかのあの日のことを!


 あなたの人生が、あの日から今日までとおなじくらいしか残されていないとすれば、


 ああ、あまりにも人生の期間は足りない!


と感じるのではないでしょうか。


 あるいは、また


 ああ、あまりにも早くここまで来ちまったぜ!


と!



 ・・・これが中年の危機の正体なんですね。あるいは中年の闇を引き起こす原点なのです。


 これが60代とか70代になれば、「あと何年生きれるかな」というほとんど


「お迎え待っとります」


の境地にも近づくため、この中年の折り返し間よりかは達観したものとなっていることでしょう。たぶん、しらんけど。



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 最初の悟りからはや25年、残された時間が25年。だとすれば、残りの半分を漫然と過ごすわけにはいかない、というのが解脱者としてのわたくしの思いでございます。


 すでに、このセカイの全てについて悟ってしまった今、今度はそれを次の世代に伝達することも、新たな役目なのではないかな~と思う今日このごろ。


 私は宗教家でもなければ、超能力者でもないし、神でもないのでかならず死にます。


 人類を救うつもりなんて毛頭ない、ただの人(ただし魂の全裸)です。


 それでも、このセカイとは何かだけは知っている。それだけは、世界中の誰よりもきっと私が伝えることのできる唯一のアドバンテージであろうと思います。


 死が訪れるその日まで、このセカイの真実をすこしでも多くこのブログには書いてゆきますが、おっさんには残り時間が少ないので、応援よろしくね!

2018年4月28日土曜日

なぜ19歳警察官は上司を射殺し、塀のない服役囚は逃げ出すのか。 ~正義が主観になってしまった時代~



 世紀の解脱者、ムコガワ散歩が沈黙を守っている間、俗世では大変な事件が立て続けに起きているようです。


 たとえば、19歳の警察官が、上司に叱られたので背後から頭を拳銃で撃って射殺したり、あるいは、塀に無い刑務所にいた模範囚が、立場が上の人に叱られたので脱走したり。




 一般的には、これが「ゆとり世代」なのか?と、「最近の若者は」論のテイストで論じられることが多いようですが、これから日本社会はどうなってしまうのか戦々恐々としている人も多いことでしょう。




 武庫川は解脱者なので、その理由がはっきり見えています。



 「まるっとごりっとお見通しだ!」



と、山田奈緒子風に、今回のお話をお読みください。



 さて、その前に、参考程度に2つの記事をざっと読んでいただきましょう。





 若手社員が「自分がやりたいことと違う!」と思ってしまう理由
http://diamond.jp/articles/-/167078

(ダイヤモンドオンライン)



 子を褒めて伸ばすと、こどもがつぶれる
http://president.jp/articles/-/24944


(プレジデントオンライン)




 これらの話はみな実は共通しているのですが、識者と解脱者は現在の風潮の問題点について


「早くも気付きはじめている」


ということでもあります。では一体全体、何が問題だというのでしょうか。




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 怒られただけで上司を射殺してしまう警察官の問題と、おとなしく我慢していれば刑期満了で自由になれるはずの受刑者が逃げ出してしまうという事実が起きた時、今の世界は世代によって2つの大きな受け止め方の違いが生じています。



<Aの受け止め方>


「いや、仮にものすごい罵倒されたとしても、撃ったらあかんやろ、それは当たり前のことだ」

「仮に刑務の仕事で怒られても、もうちょっと耐えればすぐそこに自由の身があったのに」




<Bの受け止め方>


「相手を撃ちたくなるくらい、罵倒されたってことやな」

「ブラックな仕打ちがあったので、逃げ出したくなってもある意味仕方ないな」





 現在、これらの事件の受け止め方には、この2種類がはっきり分かれるのですが、あなたはどちらの立場でしょうか?




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 この2つの視点・受け止め方はわかりやすく言い換えると、次のようなことです。



Aの方は、


■ 罵倒するような行為、あるいは怒鳴るような指導法は悪である。

■ しかし、その悪よりもたとえば拳銃で撃つことのほうがもっと悪である。

■ あるいは、その悪よりも我慢して手に入れられる自由のほうが、自分にとって善である。



という善悪、利益と不利益の客観視が出来ていて、仮に相手が押し付けてくるものに悪が含まれていても、全体としての善悪、利益不利益で判断することができる、ということです。



Bの方は、


■ 罵倒するような行為、あるいは怒鳴るような指導法は悪である。

■ 悪は倒してもよい。あるいは逃げても良い。相手は悪であるから、相手は確実に悪い存在なのだ。

■ 自分にとって悪である他者は問題である。その悪はなんらかの方法で解決もしくは排除されるべきである。



という考え方です。一方から見ればたしかに相手は悪で、こちらは善です。善が悪に征圧されている状況は望ましくないので、なんらかの方法で、悪を排除せねばなりません。


 その方法が結果として良い方法だったか、悪い方法だったかは「周囲が勝手に判断していること」であり、当人にとってはその対応策は「悪に対する善」である、ということです。





~~~~~~~



 Bの考え方では、「善悪・正義の判定」があくまでも主観的になっていることがわかります。しかし、この世の中では、主観的な正義ではなく、


「時に常識と呼ばれるような」客観的な正義


によって判定がなされます。


 それはもう、悪い上司に対して射殺することは、客観的判定においては、悪い上司よりもさらなる巨悪ということになります。




 Bのタイプの人は、こうした場合ついつい「おまえは悪い上司の方を持つのか!」と感情的になる場合がありますが、そうではなく、


「自分の視点、立場」

「悪い上司の視点、立場」

「神様や観客の視点、立場」


の3つの視座がそこにはあるんだ、ということが大切なのです。 彼と我の話だけで考えるから単なる感情対立になるのであって、


第三者の神様の視点


が最終的な正義や善悪を定めるのだ、ということが、Bの視点からは欠落しているということなのです。




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 社会というのは、本来、「主観的な正義」がぶつかり合う中で、「擦りあわせ」や「落としどころ」を探りながら発展してきたものです。


「俺はこれを食べねば飢えてしまう。食うことは正義だ」

「俺だってこれを食べねば飢えてしまう。食うことは正義だ」

「では、なんらかの方法で分け合うことにしよう。俺の正義の一部を曲げて」

「俺だって正義の一部を我慢して分け合うことにしよう。そして生きるのだ」


というのが社会が出来てゆくということです。


 つまり、「主観的な正義」を「客観的な正義」へと変化させてゆくことが、文化文明であり、人類の進歩と調和だったわけですね。




 解脱者武庫川的には、このことは



「セカイは正義の執行のためにあるのではなく、そもそも正義なんてないのだ。だから正義を追求することはある意味悪だ」


と定義しますが、(だってこのセカイは空虚なんだもの) 大切なことは



「正義を執行することが大事なのではない!悪を減じてゆくことだけが大事なのだ」


ということなのですが、このことは衆生にはなかなかわかりにくいようです。



 そうです。人々は「正義は執行されるべきだ」と信じて疑わないからです。




  そうして、「主観的な正義の肥大」が起きてしまうと、人々は戦国時代へと逆戻りすることへなるでしょう。



 互いが、互いの「主観的な正義を最大にすることこそ、真の正義である」ということが、これからの時代ではどんどん起きてくるということなのです!



 こうして人類は、滅びに向かうことになるのです!



 さあ、悔い改めなさい!



 なーんちゃって。

 


 ☆ ちなみに撃たれて殺されたくないための回避方法については、


「叱られたことのない人を叱ると殺される」
http://president.jp/articles/-/24964


という記事が参考になります。



 なので、ワタクシ武庫川は「仏の武庫川」なんですが、自分の息子については「怒られても耐えられる不屈の精神」を身につけさせるべく、毎日怒鳴りつけております。

なーんてね。 きゃぴっ!




2018年4月27日金曜日

緑内障で失明する日まで。



 この世界の片隅でひっそりと生きる稀代の解脱者、武庫川散歩は今日、病院へ行ってきて、


 緑内障


と診断されました。そう!あの失明するやつですよ。



 先日”40歳を過ぎたら20人に1人は緑内障予備軍”というネット記事が配信されていて、思わず簡易的な視野の検査を自分でやってみたら



 「目が!目がああああああ!」



ムスカ大佐なことを発見、さっそく先日より眼科へ行って、今日本格的な検査を終えての診断でございます。




 さっそく本日より、眼圧を下げる治療が開始されるわけですが、血圧も高いし眼圧も高いし、人生とは無常なものだ、と相変わらず枯れております。





 しかし、まあ、なんですねえ~(今は懐かしき桂小枝風に読んでね)



 ふだん、解脱者を名乗ってはいるものの、これで本当に視力を失った暁には、




「盲目で解脱者を名乗る男」



として、あ、あ、あ、あのシト(ヴィルデモートか!)になってしまうではないですか!!!!



 これで、空中に浮遊でもできたら、もはや完璧なのですが、残念ながらわたくし武庫川は、プールに行くのが好きなので



 水中浮遊



は得意ですが、空中は無理です。




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 さて、そもそも小学生から中学生ぐらいには、「わしは作家になって太宰のように自殺するのだ、きっと」と思っていたムコガワなので、死というものを恐れる気はあまりありません。



 むしろふだん言っているように、人間とはコンピュータと同じ機械のようなものだとさえ思っているので、



 ああ、こうして人は、今日もまた死に一歩ずつ近づいているのだ



と、さらなる解脱の境地へと誘(いざな)われるわけです。



 緑内障というのは、視神経が圧迫されて死んでしまう病気です。なので、失われた視神経は、再び回復することはなく視野は減少する一方で、



  死ぬのが先か、失明するのが先か



という先陣争いを寿命と視神経が繰り広げるという「チキンレース」なのであります。




 ちなみにうちの祖父は76歳で亡くなり、叔父は73歳、父は63歳と比較的短命家系のため、


ムコガワもたぶん、70越せたらまあ御の字


という寿命であろうと日々思っています。なので、 残り25年ですよ、ワタクシの人生なんて。



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 そう考えると、残り25年をどう生きるのか。この目に映るすべてのものを、日々、いやこの瞬間瞬間で大事にしなければならぬと感じるのですね。


 これが


「このセカイは無常で、無であるからこそ、有と感じられることに感謝できる」


 という解脱の心境なのです。失われることがわかっているからこそ、今は尊いのです。




 今日見ることができたお姉さんのパンチラは、まさに記憶に焼き付けるべきものでございましょう。


 あるいは明日見ることができるエロサイトのおっぱいについても然りです。



 万物に感謝しながら生きる!これこそ仏性なのでございます。


 (ちなみに、昨今はセクハラに対してかなり厳しくなっておりますので、女性の方は今後、当ブログを見てはいけませんよ。ダメ・ぜったい!)





2018年4月26日木曜日

女性が進化すると、ハイエナになってしまうという不都合な真実 ~ついてますか?!1・2・3・ダー!~



 ワタクシ、武庫川散歩は、男女は平等だとは思っていますが、そこには歴然とした性差があると考えているタイプです。



 なので、たとえば仕事における業務や、行動行為の内容において男女が平等の名の下に同一であろうとすることには、反対の立場を取っています。



 それは人生のキャリアパスにおいても同じ考え方で、 女性の妊娠や出産を無視した、男女同一に進行する学校卒業後の一括採用や、あるいは昇進ルートなども、もっともっと変化球であるべきだと考えています。



 ところが、現実には、この日本社会で男女平等を進行させようとすると、 結果として


「女子をオス化させるだけ」


のルートを歩ませることになります。なので、そうした意味での男女平等には、解脱者ムコガワは大反対の立場を取るのです。






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 先日とあるテレビ番組でハイエナの生態について放送されていて、その反響が大きかったとのこと。もちろん私も見ています。


 女子が、男性ホルモンを浴びながら進化するとどうなるのか。


 あるいは、女子が、男性ホルモンを出しながら頑張るとどうなるのか。



 それは




1) おchiんchiんが出来てしまう。


2) おtiんtiんから赤ちゃんを出産することになる。


3) 出産時に某所が破けて、かなり死ぬ




というえげつないことになるのです。それがハイエナが辿ってしまった進化です。




メスに男性 器?!
https://withnews.jp/article/f0180413000qq000000000000000W06w10101qq000017106A




ハイエナさんの身体にナニが起きているかは↑記事にたくさん書かれていますが、その原因は


「女性優位社会による、男性ホルモンの分泌の増加による進化(変化)」


だと考えられています。



ウィキ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%8A



引用

”メスには高い血中濃度のアンドロゲン(雄性ホルモン物質)ホルモンが保たれている”




 つまり、一生懸命男性同様に働くバリキャリウーマンには、いつか女子子孫に「CHIんCOOL!」ができてしまうということですね。



 

 ・・・・亡くなられた月亭可朝さんも言ってました。



 ♪ボインは、赤ちゃんが吸う為にあるんやで、 お父ちゃんのもんとちがうのんやで~



  社会というのは、赤ちゃんのためにあるべきであり、女子を男性化させるためにあるわけではありません。


 ボインは、男社会とは隔絶したものであってもよいのだと、ムコガワは考えます。

2018年4月25日水曜日

■この世界とドラゴンクエストは同じなのか。 




 ここのところしばらく、当ブログの愛読者のみなさんをほったらかしにして放浪の旅・・・否、仕事に明け暮れていた武庫川ですが、けして解脱者を休んでいたわけではありません。




 まるで泉の湧き出るがごとくに、このセカイの真実に気付いたり目覚めたりしながら、日々覚醒しております。 だいたい、朝6:45分ぐらいに。




 さて、そんな著者休載期間に考えていたことがいくつかあるのですが、その一つが、



「このセカイとドラゴンクエストはおなじなのか、それとも違うのか」



という超哲学的な難問です。



 この手の話は、武庫川的にはこのブログでもけっこうな頻度で書いていて、



なぜセカイは存在しないのか
https://satori-awake.blogspot.jp/2016/09/blog-post_56.html



あたりでもその持論を述べていますね。



 もう一度簡単にまとめておくと、



■ 私たちはこのセカイの中で自由に動き回ったり存在していると思っているが

■ それとほぼおなじことは「ドラゴンクエスト」などのRPGの中でも起こりえる。

■ セカイはもしかすると、神(のようなもの)によって書かれたプログラムなのかもしれない。

■ もしプログラムなのだったら、電源を入れようが電源を切った状態であろうが、セカイは存在する。

■ とすればセカイは、稼動していようといまいと、ほぼ同等であり、このセカイも私たちが認識しているような形で「存在していようと、実は記号に過ぎないとしても」同等である。



という考え方です。




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 で、ここからが新ネタです。


 上記のような考え方を提示すると、「いや、セカイはプログラムではなく、実際に存在して動いているだろう」という反論があると思われます。


(それが内部の認知にすぎない、という論考はさておき、もっとベタに普通に考えて、「実際に私たちは生きているじゃん!」という素直な感覚での話です)


 そこで、止まっているプログラムと動いているドラゴンクエストのセカイと一体何が違うのかを考えてみました。



 これは、すごく簡単で素人でもわかります。



 「電気が流れているか流れていないか」


にほかなりません。コンピュータやゲーム機が通電していれば、プログラムは動きます。電気が流れなければ止まったままです。


 つまり、ドラゴンクエストのセカイがプログラムとしてまず存在するとして、その上で電気によって「稼動」しているというわけです。



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 では、このドラクエのセカイは、私たちの住む世界とどう異なるのか。あるいは同じなのか。


 いよいよディープな部分に入っていきます。


 電気が通電しているというのは、簡単に言えば「電子が移動している」ということです。プラスとマイナスがあって、その間の物質間の電子が受け渡されながら移動することを電気が流れていると呼ぶわけですね。



  これ、大事です。



 めっちゃ大事です。



 電子が移動する。これが電気のセカイで、コンピュータのセカイで、ドラクエのセカイを成立させています。




 一方私たちはどうして今生きているかわかりますか?あるいは、どうしてこのセカイは動いているかわかりますか?


 ・・・それはすごくぶっちゃけて言えば、太陽があるからで、太陽が無くなるであろう確実に訪れる未来には、とりあえず「宇宙全体はなくならないけれど、地球の世界は無くなる」と言えるでしょう。




 太陽があるとどうしてこのセカイは稼動できるのか。それもとっても簡単で、太陽エネルギーが地球に降り注ぐことで、分子が動くことができるからです。



 つまり、熱量がある、だから分子が動くことができて、さまざまな化学反応を生じさせることができるから、地球や生命は稼動することができるのです。



 たとえば絶対零度のセカイを想像してみてください。



 絶対零度になると、分子は動けないため、セカイは止まります。停止します。通電しないプログラム状態ということです。


(厳密には、絶対零度でも原子は振動できる、という説があります)



 
 こうして考えると、プログラム上のセカイも、このセカイも驚くほど似ていることがわかります。


 電子が移動できればプログラムの世界は生きることができ、分子が移動できれば、宇宙のセカイは今の状態を維持できるということです。



 地球においては太陽エネルギーがゲーム機の電池や電源に相当します。


 宇宙レベルでは、仮に太陽がなくなっても地球には内部マントルもあるし、熱源はまだまだあるのでゼロにはなりませんが、もし宇宙全体の熱量がゼロになれば、それは通電しないプログラムのようなものとなるでしょう。




  だから武庫川は、このセカイも実は記号にすぎないと言うわけです。幸いなことに太陽があるので、現在は通電していますが、ただそれだけのことで、私たちは単なるプログラムに過ぎません。



 とすれば、そもそも人生に大きな目的もなければ、思い悩むこともない、ということです。




 さあ、レッツ解脱!!!








 

2018年4月24日火曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 17   終章   小田悠太の慟哭




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


■ はやく続きが読みたい人は↓ べ、べつに課金なんかないんだからね。

 https://talkmaker.com/works/b0c04591422427ceda5bc3fbf689e1ff.html




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17


  夜通しロバに引かせた荷車と共に歩き続けた二人は、ほんのりと明るくなり始めた川辺で、静かに祈りを捧げていた。この祈りが神にきっと届くように、と悠太は心から願った。

 よるだん川の流れを見つめながら、悠太は思う。あの日、あの夜にこの世界へ来てからどれくらいの時間が経ったのだろう。北海道は今頃どうなっていて、親や友達はどうしているだろう。そんなことを思い出しながら、そこへ外国人の若者が突然現れたら、みんなはどう思うだろう、とも考えた。それはちょっぴり可笑しな光景だとも思った。

 でも、ジェシーなら、きっと誰からも愛されて幸せに暮らせるはずだ、と悠太は少しだけ微笑んだ。彼なら、どこへ行っても、どこへいてもきっといい奴で、すばらしい奴に違いないからだった。

「ジェシー、さようなら」

 そう言いながら、悠太とマリアはジェシーの身体をそっと岸辺から水へ浸けた。すっと、ほとんど音もなく、滑るようにジェシーの体は足のほうからゆっくりと沈み始めた。

 太陽が山陰から姿を現し、朝焼けのように空と大地を照らし出した。水面が、金色に輝こうとしているのが見えた。

「ああ!マリア、奇跡のようだ!」

「悠太・・・・・・、こんなことって!ああ、神様!」

 水中に沈んだジェシーの足の先から、金色の光が輝いた。それが両足、腰へとどんどん広がって、水に沈んだジェシーの身体が、その全てが金色に輝き始めたのだ。そのきらきらした輝きは、それからまるで水の中でふわっと広がるように拡散し、何かが溶けてしまうように川の流れに乗って動きだした。

「ジェシー!ジェシー!」

 悠太は、思わず川の中へ足を入れた。まるでジェシーが溶けてなくなってしまうような、そんな感覚に襲われたからだった。

 お別れなのはわかっているけれど、その身体が溶けてしまうのは、とても哀しいような、寂しいような、なんとも説明できない気持ちだった。

 だから必死でその金色の光の中に、自分も飛び込もうとしたのだった。

「悠太!」

 マリアが叫ぶ。

「だめよ!あなたも行ってしまうの!」

 その意味がわからなかった。だが、見ると、悠太自身の身体もが、ジェシーと全く同じように光輝き、そしてまるで水中に溶けてゆくように感じられた。

 ああ、俺も、俺もお別れなんだ、と悠太は直感した。すでに、水に浸かった下半身が、この世界にいないことを、悠太は知った。

「マリア!・・・マリア!」

 振り返って両手を挙げて、彼女を呼ぶ。川岸からこちらへ必死で手をのばそうとするマリアの姿があった。

「きっともう、会えないかもしれない!ジェシーと俺は、どこへ行ってしまうのかもわからない!でも、これは奇跡なんだ!神様を信じて、きっと大丈夫だから!」

 マリアと悠太の指先が触れた。しかし、ゆっくりとそれは離れてゆく。

「愛してるわ!悠太!あなたを愛してる!」

「俺もだ!マリア、君を愛してる!」

 それが最後の言葉だったように思う。金色の輝きをまとって、悠太は底のない水の中へ自分が溶けて行くのを感じていた。薄れゆく記憶の中で、悠太は昔、こんな場面を映画で見たような気がしていた。

 ああ、そうだよな。

 やっぱりディカプリオは、絵描きじゃねえわ。

 あれは映画俳優だっけ。

 タイタニックのラストシーンを思い出したのが、悠太の最後の記憶になった。




 人の感覚で、最後まで残っているのは「聴覚」だ、なんてことを雑学で聞いたことがある。だから人が死んでも、最後まで周りにいる人たちの言葉は聞こえてるんだ、なんて話があったような気がする。

 どこか近くで、ずっと耳障りな音がしているなあ、と悠太は思っていた。

 ぴこん、ぴこんと、一定の間隔で鳴り続けるゲーム音みたいなやつが、まとわりついて離れない。

 ぴこん、ぴこん。

 うるせえなあ。眠れねーべや。

 そう思いながら、ふと気付いた。電子音?これは電子音だ。今となっては懐かしい、機械の音だ、と。

 そっと目を開けると、真っ白な天井が見えた。柔らかな感触が、身体を包んでいるのもわかった。

「悠太?悠太!・・・・・・お父さん、悠太が目を開けてるって!」

「悠太!わかるか!悠太!」

 ・・・・・・親父とお袋の顔だべ。わかるよ。

 懐かしい顔が覗きこんでいる。 ぼんやりとしていた意識が、しっかり戻ってくる実感があった。ああ、帰ってきたんだ。あの世界から、こっちへ戻ってきたんだ、と思った。

「ああ、もう死んだかと思ったべさ。悠太あ、みんな心配したんだよお。3日も経ってるんだもの」

 お袋が取りすがって泣いている。

「水から上がった時は、息してなかったもなあ、こりゃあだめだと父ちゃんも覚悟したんだべ」

 親父もくしゃくしゃの顔をしてそう言っている。

「今日は、学校のセンセやお友達も、お見舞いに来てくれてんだ。先生、ほら、悠太が」

「小田くん・・・・・・本当に良かった!」

 担任の女の先生の声だった。ああ、先生まで来てくれたんだ、と素直に悠太は嬉しくなった。

 待て、と急にそこで悠太は思った。待て、いや、そんなどころじゃない。

 大事なことを一つ忘れてるじゃないか!

 突然悠太はガバッと上体を起こす。白いベッドの上で、まだふわふわするけれど、本当にそれどころじゃなかった。

「親父!俺が見つかった時、近くに外人の兄ちゃんがいなかったか?」

「まだ寝てなくちゃダメだって!・・・外人さんの話は、警察からも聞かなかったけどもさ」

「お袋も先生も知らないか?歳が30くらいの外国の人だよ。俺の近くに倒れたりしてなかったかって聞いてるんだ!」

 あまりの剣幕にみんなはただ、驚いている。意識が戻ったと聞いてかけつけてきた医者が、『起きたばかりで、ちょっと錯乱があるのでしょう』なんてことを囁いているのが聞こえた。

「錯乱なんてしてねえよ。外人さんがいたはずだって!」

 全員が、なんのことかわからないという顔をしている。

 ジェシーは、ジェシーはどうなったんだ。

 こっちへは来ていないのか。

 それより、生き返ってないのか。

 いろんな言葉が、頭の中をグルグル回る。

 いや、俺がこっちへ戻ってきたってことは、ジェシーはこっちへ来てないってことか。

 神様は、ジェシーを助けてくれなかったのかよ。でも、俺もジェシーも二人とも金ぴかになって、・・・・・・あれは何だったんだよ!奇跡じゃなかったのか!

 その時、カラカラと乾いた扉の音がして、何人かの制服姿の女生徒が病室へ静かに入ってくるのが見えた。

「ああ、みんな小田君の意識が戻ったのよ」

「わあ!よかった!」

 口々に言う女の子たちは外で待っていたらしい。クラス委員の連中だ。そして・・・・・・。

「マリア・・・・・・」

 悠太は呟いた。牧田真理恵の姿もそこにあった。真理恵は心配そうにこちらを見ている。その姿を見て、悠太の意識ははっきりとクリアになった。

・・・・・・そうだ!

・・・・・・そうだ!そうだ!

「先生、イエスキリストはどうなったんだ!」

 突然そんなことを言うので、担任の先生も目を丸くしている。

「イエスキリスト?どうして?」

「いいから!教えてくれよ!いつも授業とか儀式とかで言ってるしょや。イエスキリストが磔になった話、教えてくれてるべさ。イエスは磔になってから、それからどうなったんだよ」

「・・・・・・そりゃまあ、聖書には3日後に復活して、生き返ったって書いてあるけど」

 それだ!と悠太は満面の笑みになる。

「お袋!俺が眠ってて、今日で何日経ってる?何日目だ!」

「3日目だけどもさ・・・・・・」

 それを聞いて確信する。俺がこっちへ戻り、ジェシーはあっちへ戻れたんだ。そして、3日後に、生き返れたんだ!きっとそうだ!

「神様!神様!神様!ありがとう、ありがとう!ジェシーを助けてくれて、本当にありがとう!」

 思わず天を見上げてボロボロと悠太は泣いた。あっけにとられる面々を他所に、悠太はいつまでも笑いながら泣き続けた。



 それから数日後のことである。

 病院を退院した悠太は、その日誰よりも早く石狩川高校へ登校し、一人で礼拝堂にいた。

 十字架とイエスキリストの像の前で、ひざまづいて彼の顔をただじっと見上げていた。

「兄ちゃん・・・・・・。助けられなかったけど、兄ちゃんの言ってた神様を俺は信じるよ。神様がついてるなら、何にももう怖くねえよ」

 自分の力が及ばなかったこと、そしてそれでも、人間の力が及ばぬ先にもきっと何かがあるということを悠太は考えていた。

 そして自分の身の回りに起きたことや、ジェシーやジェシーたちの身の回りに起きたことも、それもきっと神様の考えの内なのだ、と思うようになっていた。

 人間にできることは小さい。ジェシー一人を助けることすらできない、小さなものだと思う。でも、できることはある。小さなことだけれど、できることはきっとある。

「・・・・・・根性を改めよ」

 師匠の言葉が身にしみる。もう、ケンカに明け暮れるようなことはしない、と悠太は心に誓った。

 その時、ギィと扉が開く音がした。振り返ると、制服姿の牧田真理恵が微笑んで立っていた。

「マリア・・・・・・、いや、牧田さん」

「小田君、元気になって良かった」

 そう言いながら、真理恵はジェシーのいる十字架の下まで歩いてきた。

「さっき、あなたがここへ入るのを見かけたからさ」

 あれだけマリアとは話したけれど、牧田真理恵と話をしたことなんてなかった。近づけば近づくほどマリアと瓜二つな真理恵の顔を見て、悠太はドキドキした。

「病院で、変なことを言ってたでしょ?小田君」

「や、あの、あれは・・・・・・」

 よく考えれば、クラスメイトの前で突然イエスキリストがどうとか、泣き出したりとか、不良で知られた小田悠太としては、こっぱずかしい姿を見せたには違いない。

「あたしね、夢を見たの」

 くるっとかかとを中心に真理恵は回りながら、そんなことを突然言った。

「不思議な夢。イエス様の仲間になって、彼を助けようとするんだけれど、ダメで、イエス様は結局十字架にかけられてしまう、そんな夢」

「え?・・・牧田さん。それって・・・・・・」

 悠太は驚いた。同じときに、牧田真理恵が、そんな夢を見た、ということに、心底驚いたのだ。

 ふふふ、と真理恵はいたずらな笑い方をして、続ける。

「でね、なんでか知らないけど、小田君がイエス様の12使徒の中にいたのよ。それでこの間お見舞いに行った時に、あんなことを言い出すんだもん。笑っちゃうよね」

 ははは、と悠太は愛想笑いをする。どうやら真理恵にとっては、夢の中の物語で、悠太とのことはなんでもなかったようになっているらしい。

 いや、そんな考え方こそただの勘違いで、真理恵は偶然そんな夢を見ただけで、マリアではない、悠太の愛したマリアとは関係ないってことだと、悠太は自分に言い聞かせた。

 そういうもんだ、と。

「ばかみたいでしょ?でもなんか小田君にその話したかったから、朝見かけておいかけてきたのよ」

 無邪気にそう言いながら、じゃあまたあとで、と真理恵は手を振ってきびすを返した。

「あ、あの、牧田さん・・・・・・」

 思わず呼び止める悠太。

「なあに?」

 この際、ひとつだけどうしても気になっていることがある。

 これだけは、こんなチャンスにしか聞けないことだ、とも思った。

 とてもとても悩んだけれど、ついに尋ねてしまった。

「あの・・・・・・、あの・・・・・・。牧田さんって、不倫みたいな、そういうのってしたことあるの?」

「なにそれ!」

 あはは、と真理恵は爆笑した。あまりにも想定外な質問をぶつけられたからに違いなかった。

「・・・・・・どうだと思う?」

 それから、この世で一番妖艶な笑みを浮かべて、真理恵は小声で言った。

「一回だけね。妻子ある男性と援交しちゃった!・・・・・・うちの学校みたいとこじゃ、みんなやってるけど、内緒ね」

 うふふ、と真理恵は唇に人差し指を当てながら、後ろ向きにちょっとバックして、それから走って礼拝堂を出て行った。



 ・・・・・・その後、童貞小田悠太が、別の意味で天を仰いで慟哭したことは、言うまでもない。

 小田悠太の慟哭、・・・・・・って、そっちやったんかい!と読者全員から石打の刑にさせられそうだが、物語はこの辺でお開きということにしよう。

 神のご加護が私にありますように。アーメン。





(終わり・・・なのかな?本当に?)






 ここで終わったと思ったあなた!伏線回収が新たな形で待ってるよ!


 続きはここだ!!!
https://satori-awake.blogspot.com/2018/05/blog-post_19.html



2018年4月22日日曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 16   ああっ神様っ!




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


■ はやく続きが読みたい人は↓ べ、べつに課金なんかないんだからね。

 https://talkmaker.com/works/b0c04591422427ceda5bc3fbf689e1ff.html




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16




 再び悠太が意識を取り戻した時は、すでに石牢の中だった。窓がなく。格子の向こうに火がかすかにともしてあるだけの冷たい部屋であった。

 体中がズキズキと傷む。どうやら胸にしまった短剣も、奪われているらしい。意識が戻るにつれて、悠太は涙が伝うのを感じた。

 ダメだった。ジェシーに近づくことすらできなかった。たった一人では、何をすることもできなかった。そんな無力感が、悠太を包む。

 すると、ガチャガチャと金属のすれあう鎧の音がして、誰かが牢の前に立った。

「出ろ、異邦人」

 牢番のローマ兵だ。鍵をおもむろに開け、悠太を引きずり出す。

「総督さまは忙しい。・・・・・・お前など相手にしている暇はない」

 悠太には、自分が許される理由が全くわからなかった。

「どうして、どうして出られるんだ!」

 思わずそう尋ねると、ローマ兵は首をかしげながら言った。

「そもそも、お前はどこの者だ。エルサレムの者でもない、ましてやローマ人でもない。ローマ属州にお前のような者がいる土地はない。そして、誰もお前のことを知る者もいなかった」

 それがなんなんだ、と悠太は思う。ローマ兵は、さっさと出ろといわんばかりに追い出そうとする。

「お前を裁く法がないのだ。それに、今日は処刑やら裁きが立て込んでいて、忙しい」

 処刑、と聞いてビクッとする。

「ジェシーは、ジェシーはどうなったんだ?」

「ジェシーとは誰だ」

 番兵は、エルサレムのことなどまるで興味がなさそうだった。

「総督が裁いた罪人は、どうなるんだ」

「ああ、それならゴルゴダの丘で磔だ。そうだな、ちょうど今頃か。そんなことはどうでもいい、お前こそさっさと消えてしまえ。次に暴れたら今度こそ磔にしてやる」

 蹴られるように牢を出て、悠太は官舎の外へ転がり出た。

 もう、日が傾き始めていた。

 礼拝堂のイエスキリストの姿が、浮かぶ。人通りの無くなった馬車道の石畳の上で、悠太は声を上げて泣いた。激しく拳を地面に叩きつけ、慟哭した。天を仰いで、頭を石畳に打ちつけた。胃液だけを何度も吐いた。一生分の涙を流し続けた。



 それから、どこをどう歩いたのか。歩く気力すらあったのかどうかわからないまま、悠太はゴルゴダと呼ばれる丘についた。遠くに三本の十字架が立っているのが見えた。

 哀れな傷だらけのジェシーの姿を遠くに見て、悠太は膝をついた。もうそれ以上、近づくことすらできなかった。すでに涙は枯れ果てていた。

「・・・・・・悠太、悠太でしょう!」

 急に、背後から声をかけられて驚いた。振り向くとマリアの姿があった。

「マリア・・・・・・。間に合わなかったよ・・・・・・」

 そう言うのがやっとだった。マリアは悠太を抱えるように抱きしめた。

「もういいのよ、何もかも、もういいの・・・・・・」

 それ以上何も言わず、マリアはただ悠太を抱く。

 マリアと一緒に来ていた人たちが、悠太とマリアの姿を見て神に祈りを捧げていた。人々は手にいろいろな道具のようなものを持ち、荷車と、それに大きな麻布が何枚も積まれている。それは、ジェシーの遺体を包むためのものだった。

 彼らは、ジェシーの支援者たちだった。マリアも同行して、遺体を引き取りに来たという。チームの仲間たちは、逮捕を恐れてまだ散り散りになっているらしい。マリアとて、安全な身ではない。しかし、彼女は言った。

「これは、あたしにしかできない最後の勤めなの。だから、あたしがやらなくちゃいけないことだと・・・・・・」

 その気持ちは、痛いほどよくわかった。そして、そうなってしまったことを、心から悔いた。
そしてまた、そう思わせてしまったことも、激しく後悔した。



 それから数時間後のことである。

たいまつのともし火を厳かにかかげながら、悠太は岩をくり抜いて作られた大きな墓の中で、いつまでも布をまかれて横たわったジェシーと向き合っていた。大きな石の戸でふさいでしまえば、もうジェシーと二度と会うことはない。傍らではマリアもじっと黙って座っている。

「祈りましょう悠太。ジェシーのために」

「ああ」

 二人は並んで、両手を組んで祈った。悠太は心の中で願う。できることなら、ジェシーを生き返らせてください。それがダメなら、どうか彼の魂が永遠に安らかであるように、と。

 けれど、神様は本当にいるんだろうか、とも思った。ジェシーやマリアは、確かに神を信じていた。しかし俺には、わからない。もし本当に神がいたなら、どうしてジェシーがこんなことになってしまったのか、その理由だってわからないじゃないか、と。

 エルサレムがローマに支配されていることだって、裕福な人たちと貧しい人たちがいることだって、みんなが救世主を望んでいるこんな時勢だって、全部神様が見ているのなら、どうしてこんなことになっているのか、それも全然わからない。

 神様を呪う気持ちはないけれど、せめて、そのどれか一つでも理由を教えてほしかった。でも、きっと神様は何も答えてくれないのだ、と悠太は絶望した。

「さあ、もう行きましょう」

 マリアが言う。

「あたしたちには、まだ彼の遺志を継ぐ仕事が残っているんだもの」

「・・・・・・そうだな」

 悠太も頷いて、立ち上がろうとした時だった。

 それはまさに天から降ってきたような、そんな思いというか感覚だった。

 そうだ、そうだ、・・・・・・そうだ!

「マリア!まだだ、もう一つだけ、きっともう一つだけチャンスがある」

 そう悠太は叫んだ。突然のことに、マリアはきょとんとしている。

「ああ、どうして俺はいままで気付かなかったんだ!きっとこれは神様の思し召しなんだ!マリア、マリア、ジェシーはなんとかなる。きっとなんとかなる!」

 有頂天で、悠太は狭い墓の中で跳び回っている。

「今すぐ、ジェシーをここから運び出そう。荷車に載せて、彼をひっぱるロバを借りてこよう!すぐに出発しなくちゃならない。行こう、すぐ行こうって!」

「行くって、ジェシーを連れて何処へ行くの?」

「よるだん川だよ!よるだん川へ行けば、ジェシーは助かるかもしれない。それが最後の望みなんだ!」

 何を言ってるのかさっぱり意味がわからない、そんなマリアをせきたてて、悠太はジェシーの遺体を背中にかついだ。ずっしりと彼の重みが両肩にかかる。そして、乗せてきた荷車にそっと寝かせると、墓の石扉を力づくで転がして閉めた。

 それから悠太は、荷車のジェシーの身体に布をかぶせて一生懸命引っ張りはじめる。

「本当に、ねえ!どうしたの!ジェシーはもう死んじゃったのよ!どこへ連れていっても、おんなじよ!」

 そんなマリアに、悠太は天の月を見上げながら言った。

「マリアとジェシーたちの神様を、俺は信じる。信じるから行くんだ。きっと神様はいて、だから俺も今ここにこうしている。俺には、神さまを信じられる、奇跡を信じられる証拠があるんだよ。・・・・・・なんで今まで気付かなかったんだろう!本当に俺はバカだ!」

 そして、荷車を引いて歩きながら悠太は、マリアに本当のことを話し始めた。

「マリア、説明してもわからないと思うが、俺は一度死んでいた人間なんだ。俺がいた遠い遠い国で、いや、遠い遠い世界で、死んでしまっていたんだと思う。でも神様は、どうしてかわからないけれど、俺を生き返らせてよるだん川のそばで助けてくれた。そこで俺はジェシーや師匠に出会ったんだよ」

「・・・・・・」

「だからよるだん川へ行けば、きっとジェシーは生き返る。こっちの世界では無理でも、俺が向こうからこっちへこれたように、こっちからあっちで生き返ることは叶うかもしれない。

 俺はもう、元の世界に帰れなくってもかまわない。でもチャンスがあるなら、このまま、ただジェシーが骨になっちまうくらいなら、あっちの世界で幸せになってほしい、とそう思うんだよ」

「・・・・・・そんなの、信じられないわ」

「じゃあ、どうして君らは神様を信じられるって言うんだ。毎日祈りを捧げて、神様を信じてるのに、俺がどうしてここにいるのかその理由を信じられないって言うのか?」

「わからない、そんなのよくわからない。」

「それでもいい。でも、それが最後のチャンスだと、俺は信じる。だから、ジェシーをよるだん川までどうしても連れて行くんだ!」

 こくん、とマリアは頷いた。よくわからないなりに、それでも悠太がそうしたいなら、それで納得できるならそうするべきだ、と彼女も彼を信じたからである。




(17へつづく)

2018年4月20日金曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 15   ローマの救出




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15




  マリアに全てを話し、安全なファンの家に届けた頃には、もう朝が迫ろうとしていた。まだ、エルサレムの人たちにはジェシーが捕まったというニュースは広まっていなかったが、それが噂になるのは時間の問題だと思われた。

 とすれば同時に、そうなった原因が悠太であることもおのずと知られるようになるだろう。マリアだけは事情を汲んでくれたとしても、サイモンのように人々は悠太こそが裏切り者だと話すに違いない。

 ここから先は俺一人の問題だ、と悠太は思った。

 今は支援者やファンたちを頼ることができても、昼までには彼らすら俺のことを裏切り者だと思うに違いない。時間がないのだ。

「・・・・・・マリア、俺は行かなくちゃならない。君はしばらく身を隠しているほうがいい。また捕まったりしたら、今度こそどうなるかわからないから」

「ジェシーも捕まって、あなたはどうするの?」

「兄ちゃんを助けに行く」

「無謀すぎるわ!・・・・・・祭司団はすでにローマにも今回の根回しをしているのよ。ローマ兵がいたでしょう。もうこの町だけの問題じゃないのよ。・・・・・・あなただってどうなるかわからない」

「ごめん、まだ俺もちゃんとわかってないんだろうけど、ジェシーはこれからどうなる」

「エルサレムの裁きがあると思う。それから、・・・・・・恐ろしいことだけれど、ローマ総督の裁きも」

 チームのメンバーが以前言っていたとおり、この国は二重の支配構造になっているらしい。ヘロデをはじめとする王族が一応この国を支配し、祭司団はいちおう独立して民への影響力を持っているという。しかしその上にはローマがいて、本国から派遣された総督が、代官としてこの国を監督しているというのだ。

「ジェシーが裁きを受けるとしたら、祭司団のいる神殿の可能性が高いわ。あるいは王宮かもしれない。ローマ兵がいたってことは、それから最後の決定を総督にゆだねるはず・・・・・・」

「よし、その場所を全部詳しく教えてくれ。・・・・・・どこかでジェシーを奪還できないか、考えてみる」

「本当に無謀よ・・・・・・。きっと無理だわ」

「約束したんだ。マリア、君を助けた後は、かならずジェシーを助けに行くって」

「悠太・・・・・・」

 急に、マリアは悠太に抱きついた。

「本当に、本当に無事で帰ってきてね。せっかく助かったのに、あなたにもう会えないなんてことがあれば・・・・・・」

「大丈夫、必ず帰ってくる」

 悠太ははじめて、しっかり彼女の手を取って言った。

「必ず、帰ってくる。だからお願いがある。チームのみんなや、師匠の弟子たちともし会えたら、きちんと連絡をとりあって団結できるように手助けしてほしい。そしてみんな混乱しているし、マリアと俺のせいでこうなったことは、絶対に言うな。せっかくみんなの力がまとまらないといけないのに、俺はともかく、君のせいでジェシーがああなったと言い出すやつだってきっといるだろう。
 ・・・・・・裏切り者は俺一人でいい」

「そんな!すべてはあたしのせいなのに!」

 そう叫ぶマリアに、おだやかに悠太は言った。

「君のせいじゃない。本当に悪いのは祭司長と祭司団だ。ジェシーは俺に、『悠太が悪いんじゃない』と言ってくれた。俺だっておなじことを言うよ。マリア、これは君が悪いんじゃないんだ」

 二人はもう一度、しっかりと抱き合った。罪深い女がまた一線を越えたと、神はお許しにならないだろうか。一線って何だ。どこからが一線なんだ。それはもはや神のみが定めた基準であり、人には推し量ることのできないものなのだった。



 
 ・・・・・・ジェシー、何処へ行けば俺はたどり着けるだろう。

 ・・・・・・ジェシー、いつになれば、俺は許されるのだろう。

 まるで尾崎な詩を口ずさみながら、悠太は前を向く。

 マリアと別れた悠太は、懐にナイフを忍ばせて走りはじめた。ジェシーが捉えられたのは昨晩のこと。それから尋問のために神殿へ移送されるはずだ。

 祭司団の結論はわかっている。想定していたよりも、昨日の連中は重装備で、何よりローマ兵と一緒に行動していた。

 つまり、彼らは公的にジェシーを罪人として裁くつもりなんだ、と悠太は気付いていた。イエスキリストのことを知らなければ、せめてエルサレム追放か、ムチ打ちかそれぐらいで済むかもしれないと甘い期待を抱いたかもしれないが、マリアとの話でローマ帝国に立て付くことがどれだけ問題になるかを嫌というほど理解したつもりだった。

 救世主で、民衆に「王」と慕われたジェシーの罪状は、おそらく「ローマに反逆した罪」祭司団のやつらのことだ、それくらいは平気で言い出すに違いない。

 だから、イエスキリストは十字架にかけられ死罪になったのだろう。

 不勉強な悠太の頭でも、その程度の結論は出せる。だったら、ジェシーが殺されるまえに、奪還する以外、方法はないのだ。

『神殿での尋問は、きっと誰もわからない場所だわ。でも最終的な決定は、ローマのしきたりにのっとって公の場でされるはず・・・・・・。だとすれば、総督の官邸前広場が、裁判の場所になると思う』

 マリアの言葉を思い出しながら、悠太は町を走り抜ける。人々の噂、町の様子、ジェシーがどこへ連れていかれたか、それを探りながら。

 その頃、実際のジェシーは、何人かの司祭の尋問や、祭司団の尋問を受けていた。その日一日をかけて、“彼ら”の神を冒涜した、としてジェシーを死罪と認定したのである。しかし、その裁定を実行するには、マリアが説明したとおり、ローマからの代官である、総督ピラトの最終判断を仰がねばならなかった。悠太とマリアの読みは、当たっていたのだ。

「総督の官邸が、いちばん確実か・・・・・・」

 そして悠太は、その場所に狙いを定めようとしていた。



 すでに前日から周囲に潜んでいたピラトの官邸周辺が騒然となったのは翌日のことだった。祭司団から総督府へ引き渡されようとするジェシーの身柄が厳重な警戒態勢で移送されてきたからである。

 到着の頃には噂を聞きつけた群衆が詰め掛けており、エルサレムの中でも祭司団を支持する者達がジェシーを刑に処すべくシュプレヒコールを挙げていた。

 物陰からジェシー奪還の機会を伺っていた悠太は、一方でまた自分たちを非難する立場の人たちがこんなにも多くいたことに驚いていた。

 これまで、エルサレムではファンや支援者に歓迎され、手厚くもてなされることが多かったが、それもまた民衆の中の一部であり、逆に暴走する若者たちとしてチーム雅璃羅屋を快く思わない人たちもたくさんいたのだ、とショックを受けた。

 厳密には、祭司団を支持するのは裕福な者や現状のエルサレムで利益を得るもの、有利な立場にいるものたちであり、ピラト邸の門前に集まったのは、社会の上位を構成する人々であった。そしてまた、ジェシーを救世主とあがめたのは、弱い立場の者たちや貧しい者たちであり、だからこそジョンやジェーシーが希望となっていたのだと、改めて悠太は気付かされた。

「エルサレムの民よ!聞け!この者こそが、偉大なる神を冒涜し、みずからを救世主、そしてエルサレムの王であると虚言した罪人である!」

 祭司長の声が聞こえる。群集の興奮が高まっているのが見て取れた。

 縄で後ろ手に縛られたジェシーの姿が見え、悠太は少し涙ぐんだ。きっとひどい尋問を受けただろうに、それでもジェシーのまなざしが、しっかりと前を向いていることが誇らしかった。

 思わず声をかけそうになったが、ぐっと我慢した。今ここでジェシーを呼んでも、何の得にもならない、と気付いたからだ。



 しかし、その時、悠太は奇妙なことに気付いた。あれだけ興奮した祭司団の支持者たちは、必ず一定の距離をとって官邸に近づこうとはしない。祭司長ですら官邸広場の門前で、声を上げるのみでそれ以上中に入ろうとはしないのだ。ローマに近づいてはならない、そんな掟でもあるのかと不思議に思う。

 悠太にはその意味はわからなかったが、彼らがまるで汚物でも見るような雰囲気で、絶対に官邸に近寄ろうとしていないことは、勝機でもあった。

「・・・・・・あそこなら突破できるかもしれない」

 せめぎあう群集の中では身動きがとれないが、空間が空いていることで、走り抜けられる。

 この騒ぎで、いずれにせよ総督とやらが姿を現すだろう。今ならまだ、ローマ兵の数も少ない。

「今しかない!」

 悠太は、しっかりと胸元の短剣を握り締め、群集の中を掻き分けるように進む。そして、最後の空間が開ける最前列へ出ると、無我夢中で祭司団の方へ飛び出していった。

「何事だ!」

 祭司団の列が崩れ、どよめく。悠太は走る、走る、走る。だが、すぐに

「暴漢だ!捕らえろ!」

と怒号が飛び交う。

 あと30m、あと20m、あと・・・・・・。一直線に走る悠太の目は、ジェシーだけを見ていた。ジェシーは、きっと悠太を見た。いや、悠太にはそう感じられた。目と目が合って、ジェシーが驚きの表情、そして自分に微笑んだのをきっと見た。

 だが、悠太の記憶はそこで途絶えた。

  鎧をまとったローマ兵たちのタックルを真横から受け、大きく宙へ投げ飛ばされた悠太は、そのまま地面に叩きつけられたからだ。それから圧し掛かるように何人ものローマ兵が悠太の上に積み重なった。

 既に、悠太の意識はなかった。




(16へつづく)

2018年4月18日水曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 14   使徒、・・・襲来




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14



「やっぱりダメだ。ジェシー兄ちゃんを危険にさらすのは、やっぱりやめよう」

急にそんなことを言い出した悠太に、ジェシーは怪訝な顔をする。再び二人きりの時間を捉えて、悠太は今回の計画の中止を言い始めたのだった。

「何を言ってるんだ。私のことより、マリアをまず助けないと」

「それはわかってる。わかってるけど・・・・・・」

 ごくんと唾を飲み込む悠太。

「けど、ジェシー兄ちゃんは、きっと捕まったあと・・・・・・殺される」

 最後のほうは、小声だった。そういうのがやっとだった。信じてくれないのはわかっている。それでも、それだけは伝えておかないと、と思った。

「そこまでのことはないだろう。仮にそうなりそうだったら、うまく逃げるさ。腕力で祭司団に負けるとは到底思えないしな」

 いやたぶん、それでも兄ちゃんは負けるんだ。『どういう状況かわからないけど、ジェシーは逃げられないんだ』、と思うけれど、それをうまく説明できないのが、もどかしかった。

「悠太。君がやるべきことは何だ」

ジェシーがまっすぐこちらを見ている。

「・・・・・・マリアを助けること」

 兄ちゃんを助けること、といえば、怒られる気がした。

「わたしにもやるべきことがある。わたしも、マリアを助けたいんだ」

 そのために自分が犠牲になってもですか、と悠太は思った。

「じゃあ、逆に聞こう。悠太、君が私とおなじ立場だったら、どうする」

 それを聞いて、悠太はドキッとした。

 死ぬかもしれない。

 殺されるかもしれない。

 それでも、それがマリアを救う手段なのだとしたら、きっと自分もそうするだろう。もしそれが、勝ち目のないケンカや戦いであったとしても、きっと自分もそこへ行くに違いない。それは、ヤンキー時代の悠太でも、そして今の悠太でも、変わることのない事実だった。

「・・・・・・わかったよ。兄ちゃん。その代わり、マリアが、マリアが助かったら、俺は全力であんたを助けに行く」

「ああ、そうしてくれると、嬉しい」

 ガシッとジェシーが、悠太の手を取った。

  ジェシーはイエスキリストかもしれないけれど、もしかしたら違うかもしれない。これは単なる何かの偶然で、ジェシーを助け出すことだってできるかもしれない。

 悠太は必死で自分に言い聞かせた。確かかどうかわかんねえことに振り回されないで、目の前のことをやればいいんだ。マリアさえなんとかなれば、それこそ俺は、俺は死んでもジェシーを助けに行くだろう、と悠太は決意した。



 過ぎ越しの祭りの夜には、特別な食事をするという風習がこの国にあるのを、悠太はもちろんその晩はじめて知った。ファンの家に招待された13人のチーム雅璃羅屋のメンバーだけで、小さなお祝いの食事をすることになり、メンバーがテーブルについている。

 いつもと違う、硬いちょっとパサついたパンと、苦味の利いた野菜、それから毎度おなじみの赤ぶどう酒が質素ながら丁寧に並べられている。

「さあ、それでは神に感謝の祈りを捧げて、いただこう」

 ジェシーはいつものように、神様にお祈りをして、それから食事が始まった。しかし、さすがのジェシーも、今夜ばかりは緊張した面持ちで、口数が少なくなっていた。

 悠太も、黙って味のしないパンを食べ、ぶどう酒をちびちびと飲んでいる。

「町のみんなは、今度はジェシーのことを王だと言い始めてるぜ」

 サイモンがそんなことを言う。

「正直に言えば嬉しいとは思わないけれど。私の本当の気持ちは、みんなが神のことを思う正しい生活に戻ってくれることだけなのだが」

「あんまり当局を刺激するのも、まずいかもしれませんね」

 フィリップの言葉に、悠太はギクリとする。おまけにジェシーがこんなことを言い出して、生きた心地がしなかった。

「もし、私が捕まったら、みんなはどうする?」

 ジェシーが尋ねたので、ピーターが言う。

「そりゃあ、もちろん、どこまでだってついていくぜ!」

「うそつけピーター、真っ先に逃げ出すんじゃないか?」

「『ジェシー?そんな人は知りません』、とか言いそうだ」

 のんきなもので、けたけたと笑うメンバーがいる。冗談にしても、間が悪い、と悠太はひや汗をかいている。すると、あまり食欲がなさそうな悠太のことを察したのか、ジェシーは

「今夜は長くなるだろう。悠太、食事はしっかり取っておいたほうがいい。ほら、私の分も食べておけ」

と、乾いたパンをぶどう酒に浸して渡してくれた。

「このパンは、過ぎ越し祭だけに食べる特殊なパンでね、食べ慣れていなければ美味しくないだろう。そういう時は、こうやってぶどう酒に浸して食べると、美味しいんだ。・・・・・・しっかりしろ。君にはやるべきことがある」

「・・・・・・ありがとう」

 悠太は、そのパンの味を、一生忘れることはないだろうと思った。そして、夢の中でみたイエスから流れた血とおなじ色をしたぶどう酒の色も、絶対に忘れないと感じていた。

 そして、こうして最後に交わされた二人の言葉の意味を知るものは、誰一人としていなかった。



「済まないが、今日はなんだか一人で考えたい気分なんだ。ゲッセマネの園へでも出かけてくるよ」
 食事の後、ジェシーがそんなことを言い出したのでみんなは驚いたが、

「なんだよ。水くせえ。散歩がてら俺たちもついていくよ」

と結局ぞろぞろ彼についていこうとしたので、ジェシーは苦笑いするしかなかった。

 ゲッセマネの園は、庭園のようになっていてオリーブ山のすぐ近くにある。あの日のピクニック以来、メンバーはオリーブ山から見る景色が気に入っていた。

 ゲッセマネについてからは、ジェシーは一人で座り込み、瞑想するように神に祈りを捧げているようだった。

 ついては来たものの、取り立ててすることがないメンバーの中には、月明かりを浴びた夜風の心地よさに、居眠りを始めるものもいた。

 悠太は、そんなのんびりとした光景を落ち着いて見ている余裕はなかった。祭司団の姿はない。こちらが早く到着しすぎたのか、それとも既にどこかに潜んでいるのか。いてもたってもいられなくて、一人ジェシーたちの居る場所から離れ、あたりを伺うように歩き始めた。

 すると、少なくない人数の、それもしのび足とわかる足音が、遠くから近づいてくるのがわかった。遠くだったたいまつの火が、しだいに大きくなってくる。先導しているのは、祭司団の使いの男だ。悠太は近づいた。

「・・・・・・約束通り。ジェシーはあっちにいる。他のメンバーには危害を加えるな」

 声を潜めて悠太が言うと、男は

「お役目ご苦労様ですな」

とわざとらしく言う。

「あの男はどこだ」

と低い声でこの先を伺う声には聞き覚えがあった。祭司長だ。

「早く、早く捕らえろ」

「まあまあ、お慌てにならずとも」

 そんな会話をしている祭司団の連中に、悠太もはやる気持ちで言う。

「マリアは、マリアはどこだ。早くマリアを返せ」

 ・・・・・・マリアさえ奪還すれば、ジェシーを助けられる。そう考えたが、

「まだですな。まだ奴を捕らえてない。ふもとに宿があるから、そこで女は解放されるでしょう」
と、ここにマリアがいないことを聞かされただけだった。



「ジェシー、様子がおかしい。何かあるぞ」

 一方のジェシーたち。園の周囲の異変をひと早く察知したのは、サイモンだった。

 体をかがめながらあたりを伺い、すっと短剣を抜く。すばやい身のこなしで、小走りに走り始める。サイモンはすぐに、ちょうどこちらへ進んでくる悠太たちを見つけた。

「悠太!これはどういうことだ・・・。祭司団の連中。お前、まさか裏切りやがったのか!」

「ち、ちがう!そうじゃない!」

 そういうのが精一杯だった。説明しても、この状況ではわかってくれるわけはなかった。そして何よりも、結果としてジェシーを裏切っているのは事実だ。その重さが、それ以上悠太に弁明をする気持ちを失わせる。

「ちがう!ちがうんだ!」

 そう言うのがやっとな悠太の声は

「かかれ!」

という祭司長の命令にかき消された。

 すばやく、祭司団と神殿兵らしき武官と、ローマ兵がジェシーたちを取り囲んだ。

「この野郎、ぶっ殺してやる!」

 ナイフを胸から前に突き出しながら、サイモンが叫んで突進した。祭司の一人に切りつけ、鮮血が散った。

「やめろ!サイモン。いいんだ。誰も傷つけるな!」

「で、でもジェシー」

「剣をしまえ。やつらの狙いは俺だけだ。何も手出しするな」

 すぐにジェシーは捕縛され、周囲を神殿兵とローマ兵が取り囲む。悠太は、思わずジェシーに駆け寄ろうとした。

「なんのために来たんだ!早く行け!」

とジェシーは怒鳴った。

 悠太はもう何も言えず、ただ飛びつくようにジェシーに抱擁した。涙がボロボロこぼれて、二人の頬を伝った。

「行け!いけえええええ!」

ジェシーが叫ぶ。

「うわああああ!」

と悠太は後ろを振り返ることができず、走り出した。

「この際だ!全員捕らえろ!」

 祭司長が叫ぶ。その声を聞いて、チームのメンバーも一目散に逃げ始めた。あたりは怒号が飛び交った。



 走り続けた悠太は、ふもとの宿へ飛び込む。番をするように表に何人もの下級祭司と神殿兵が立っているのですぐにわかった。

「ジェシーは逮捕された!マリアを解放しろ!」

 その気迫に、全員がたじろいだ。

「しかしまだ、許可が出ていない・・・・・・」

「つべこべ言わずにあれをみろ!」

 悠太が指さした山中腹では、いくつもの明かりが右往左往ゆらめいている。祭司団や神殿兵のたいまつのあかりがせわしなく動く様子だ。

「ジェシーは捕まったんだ!もういいべや!さっさとマリアを渡せ」

 怒鳴り散らし、中へずかずか入り込む悠太の声を聞いて、奥からマリアが駆け寄ってきた。両手を縛られているものの、それ以外は自由のようだった。

「マリア!怪我はないか!」

「悠太!あたしは大丈夫!あなたは・・・・・・」

「心配ない。さあ、逃げるぞ!」

「あ、こら!待て!」
 
 慌てる祭司たちを尻目に、二人は走り出した。とりあえずは、どこかのファンの家にでもかくまってもらおう。それからこの町を出る。その前に、俺はジェシーを取り戻す!

 だが、それには一つだけ当初の計画から大きな誤算が生じていた。

「俺は、裏切り者なのか・・・・・・」

 サイモンの顔が浮かんだ。きっと仲間たちは、本当に俺がジェシーを売ったと思っているに違いない。あの様子でバラバラにされちゃ、あいつらも一緒に行動できないだろう。

 つまり。

 つまりは、俺がたった一人で、ジェシーを救い出さなくてはいけない、ってことだ。

 しっかりマリアの手を取りながら、悠太は走った。走りながら、これからやるべきことの覚悟をしっかり決める。

『俺は、必ずジェシーを助ける』

 悠太は、そう決意した。




(13へつづく)

2018年4月16日月曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 13   夢幻の住人




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


■ はやく続きが読みたい人は↓ べ、べつに課金なんかないんだからね。

 https://talkmaker.com/works/b0c04591422427ceda5bc3fbf689e1ff.html




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13


 翌日、

「ジェシー、話がある」

 ジェシー一人を物陰に呼び出し、悠太は誰にも聞かれないように気をつけながら、ジェシーに昨日のことをひっそりと伝えた。

「時間もねえし、誰かに見られるとまずい。・・・・・・マリアが捕まった。神殿の祭司団が黒幕だ。ジェシー兄ちゃんの身柄と交換に、マリアを引き渡すと言ってる」

「なんだって!マリアは無事なのか?」

 自分のことより、まっさきにマリアのことを心配するジェシーの姿に、わかっていることながら悠太は惚れ直すような気持ちになった。

「今は無事らしい。だが、昨日接触してきた神殿野郎の話では、俺が約束を違えば即座にマリアを殺す、と言ってる」

「相変わらず汚い真似ばかりするな。・・・・・・約束とは、何をさせようとしている?」

「兄ちゃんをどこかで捕まえるつもりらしい。だから、活動計画を漏らせと」

「狙いは私一人か。仲間にも危害を加えるつもりは」

「それはなさそうだ。ジョン師匠が亡くなってから、目障りなのは兄ちゃん一人って感じだ。俺たちが見くびられたことはショックだけどね」

 それを聞いて、ジェシーは少し考え、

「わかった」

と言った。

「・・・・・・捕まろう。私一人でいいなら、私が捕縛されるくらいかまわない。まずはマリアを助けるのが先だ。それから後は、なんとかなるだろう」

「兄ちゃん・・・・・・!」

 それは、意外であって意外でないような答えだった。悠太としては正直に話し、打ち明け、心から相談するつもりではあったが、こんなにあっさりとジェシーが捕まることを容認するとも思わなかったからである。

「私を誰の弟子だと思ってるんだ。・・・・・・伊達に身体を鍛えてるんじゃない。いざとなれば、チャンスをみつけて逃げ出すことだってできるだろう」

 そう、ジェシーは力強く言った。それは確かに、ジェシーならそれくらいのことはやってのけそうな力強さだった。

「じゃあ・・・・・・」

「悠太、君はマリアを助け出すことに全力をかけろ。こっちのことは任せてくれて構わない。ただ、私の捕獲で多くの群集を巻き込むわけにはいかないな・・・。人々のいない時のほうが、好都合だ」

 あくまでもみんなのことを考える、それがジェシーの人の良さだった。

「・・・・・・そうだ!ゲッセマネの園がいい。夜のあそこなら、人通りはほとんどない。誰にも迷惑がかからなくていいだろう。そう漏らしてくれ、過ぎ越し祭の本祭の夜、私がそこにいると。心配するな!後のことは私もよく考えてみる」

 そう肩を叩くジェシーに、思わず悠太の声は涙ぐんだ。

「兄ちゃん・・・・・・」

「悠太が悪いんじゃない。これも神から与えられた試練だ。さあ、行け」

 ジェシーは、そう励ましてくれた。それから悠太は、仲間の誰に見られないよう、涙をぬぐって足早に部屋を出た。



 日が十分に昇った頃、泉の広場に一人で向かう悠太の姿があった。広場につくと、明らかに怪しげな目つきの男が、手持ち無沙汰そうにたたずんでいた。

「雅璃羅屋の者だ」

 独り言のように悠太はつぶやく。

「お待ちしておりやした。お話だけ、お伺いしますぜ」

 男も、何気ない風を装って、目も合わそうとせずそう言った。

「しばらくは無理だ。あちこちでトークショーをやるから、大勢人が来る。聞きに来てくれているみんなを危険にさらすわけにはいかないし、人に紛れて逃げられるかもしれない」

「さすがの人気ですな。いつも町はあんたらの噂でもちきりでさあ」

「祭の夜、ゲッセマネの園へ行く。そこなら誰にも迷惑がかからずにやれるだろう」

「過ぎ越しの夜に、ゲッセマネ…・・・っと。本当でしょうな。」

「もちろんだ。てめえらこそ、マリアを傷つけたりしてないだろうな」

 精一杯ドスの効いた声で言う。

「ご安心を。今日のところは生きておりやす」

 そういうと、男は黙って、その場を立ち去っていった。



 その夜、悠太はなかなか寝付くことができなかった。ジェシーは捕まってもかまわない、と言ったが、果たしてそれから後はどうなるのか。

 いきあたりばったりみたいな旅でここまできた「チーム雅璃羅屋」だったが、今回ばかりはそんなノリで済むとは到底思えなかった。

 マリアと救世主の話をした時に感じた「もやもや」というか「悪寒」というか、あの変な汗をかく感覚が、ずっと背中に続いている。

 これは一体なんなんだ。何が俺の身体に起きてるんだ。

 目を閉じても、祭司団の連中の嫌な顔ばかりが浮かんできて、何も考えたくないような気分だった。救世主イエスキリストのチームと、俺達が似ている。そう思うたび、汗はいっそう止まらず、じっとりと服がまとわりついてくる。

 マリアはどうしているだろう。縛られたり、どこかに繋がれたり、あるいは殴られたりしてるのだろうか。

 マリアの顔を思い出すと、それはもう牧田真理恵の顔になっている。制服を着たまま縛られた真理恵が、顔にあざを作っている姿が思い浮かんで頭から離れなかった。



 気が付くと、悠太も制服を着ていた。起き上がって周りを見回すと、石狩川高校の玄関ロビーのベンチだった。

 さっきまでジェシーたちといたのに、なんで高校にいるんだろう、と悠太はぼんやりと頭を巡らす。ああそうか、これは夢を見ているんだ。あっちの世界にいたときの、夢だと悠太は思った。

 高校のロビーには、大きな絵が飾ってある。中央にはロン毛の兄ちゃんがやや首をかしげてこちらを向いており、その周りに何人かの人物が並んでいる。テーブルの上には、水差しのようなものも見える。

 なんだっけ?レオナルドディカプリオとかいうおっさんが描いた絵だ。入学してすぐ、校舎案内の時に担任の先生がなんか言ってたな、と思う。

『これはイエスキリストが、最後の晩餐をした時の様子よ』

 そんなことを確か言ってたような気がする。

 最後のバンサンってなんだ。お食事会のことか。なんで最後なんだっけ、お別れ会?卒業式?引越しだっけ?

 まだ頭はぼんやりしている。そういや、腹がぜんぜん空かない。ジェシーのことで、メンタルやられてるもんな、マジ凹むベ。と悠太はうなだれた。



 次に頭を起こすと、全然違う場所に座っていた。学校の敷地内にある礼拝堂だった。いつの間にか、クラスの連中が回りにびっしり座っている。

 正面の奥にはステンドグラスが七色の光を放ち、十字架が壁にかけられている。磔にされた等身大のイエス像が、だらりと両腕をたらしていた。

 クラスの連中は、賛美歌を歌い始めた。女子たちの透き通るような声が聞こえて、はっと見ると、真理恵もいた。まっすぐ前を見つめながら、賛美歌を歌っている。

 剃りこみを入れた奴や、金髪の奴、リーゼントのクラスメイトまでが、一生懸命賛美歌を歌っているのが見えた。

 おい、おまえら賛美歌なんて歌うガラじゃねーだろう。いつもは礼拝堂の裏でタバコしか吸わねえのに、なんで真面目にやってんだよ。

 そう言おうとするが、声にはならなかった。

『・・・・・・ううう、』

といううめき声がどこからか聞こえて、悠太はあたりを見回した。

『神よ、・・・どうして私にこのような試練をお与えになったのですか』

 そう聞こえた。悠太が驚いて正面を見ると、十字架にかけられたイエスが、生身の人間になっていた。わき腹から血をだらだらと垂らして、両手に打ち付けられた釘からも血が垂れている。

「じぇ、じぇ、じぇ。ジェシー!!!」

イエスキリストだと思っていた磔の像は、紛れもなくジェシー兄ちゃんの姿をしていた。

「兄ちゃん!今、今助けるから待ってろ!おい、おいみんなあれ見ろよ!頼むよ、兄ちゃんを下ろすの手伝ってくれよ!」

 今度はしっかり叫んだが、誰もが悠太を無視して賛美歌を歌い続けている。

「頼むよ!みんな見えるだろ!ジェシーだよ!俺の大事な友達なんだ!」

 駆け寄ろうとするが、誰もよけてはくれない。かきわけようとしても、周りはびくともせず、小さな空間すらできない。

『ぐふっ!』

と、磔のジェシーが血を吐いて頭をかくんと落とすのが見えた。

「ジェシーーーー!!!」

 ありったけの声で叫ぶ。けれど賛美歌の声はいっそう大きくなって、悠太の声を掻き消した。



 がばっと起き上がった悠太は、はあはあと荒い息で額じゅうの汗がしたたり落ちるようだった。

「夢か・・・・・・」

 夢の中で、これは夢だとわかっていることはよくある。これもそうだ、これは夢だとわかってはいるけれど、その中でもがきつづけるしかないこともよくあることだ。

「イエス・・・・・・、キリスト・・・・・・」

 ずっと背中に張り付いていた悪寒の正体が、やっとわかった気がした。

 よくわからないけれど、ジェシーはやっぱりイエスキリストなんだ。救世主と呼ばれて、磔にされた、あの学校で教わったイエスキリストなんだ、と悠太は思った。

 悔しいのは、石狩川高校で、イエスキリストの授業をこれまでほとんどまともに聞いていなかったことだった。彼の生涯、何をやった人なのか、なんで死ななきゃならなかったのか、そういうことを一切、気にしないまま高校生活を送ってきたので、ジェシーとイエスが、結局どういうわけでこんなに似ているのか、悠太には説明することができなかったのだ。

 だが、悠太のわずかな記憶が忠告していることがひとつだけあった。それは、

「ジェシーは、捕まったらきっと死ぬんだ。それも、磔になって処刑されるんだ」

ということだ。それだけは、これから起こる未来の予言を的確に表している気がする。きっとそうだ!そうに違いない、と悠太は確信した。




(14へつづく)

2018年4月14日土曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 12   誘拐ウォッチ




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


■ はやく続きが読みたい人は↓ べ、べつに課金なんかないんだからね。

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12





「まあ、それじゃあエルサレムは危険になるの?」

「そうなるかもしれない。できればマリアたちもいつでも逃げられる準備をしておいたほうがいい。俺たちも十分気をつけるけど、ヘロデの部下はジョンの支援者をつぶそうとしているし、祭司団だってこっちをつぶす機会を伺ってる」

「でも、町のみんなは悠太たちにとっても期待してるのよ」

「それもわかってるさ。だから一つ一つの行動に気をつけなきゃならないんだ」

 悠太とマリアは、そんな話をしながら食料や生活用品の買出しに出かけていた。

 今のところ、町は平穏で表立って騒ぎが起きそうな様子はない。しかし、聞き耳を立てていれば、十字路でおやっさんやおばさんが話している内容は、チーム雅璃羅屋のうわさ話やら、水没のジョンのニュースばかりだった。

 ジョンという精神的な支柱を失って、エルサレムの町がざわついているのを悠太は肌で感じていた。



 そんな二人が歩いている様子を、数十メートル離れて後をつけるものがいた。当然のことながら悠太はそれに全く気付かなかったが、何気ない風を装ってつかず離れずぴったりと二人の後を尾行しているのは、マリアの件で恥をかかされたあの下級祭司だった。
 
 その祭司の姿を見つけて、これまたそっと合流するものもいる。最初にチーム雅璃羅屋へ手紙を届けにきた、あの祭司団の男だった。

 こちらの二人は、悠太とマリアから目を離すことなく、小声で話しながら歩く。

「雅璃羅屋のメンバーは、ああ見えても武闘派です。男のほうはイスカリオテのユダ。流れもんです。小柄ですがジョンの弟子ですから、鍛えてます。残念ながら我々体力に自信のないものには、勝ち目がありません」

「そこらへんのごろつきを雇って一人ずつ始末するって手もあるだろう。いつまでもてこずっていると祭司長さまにどやされるぞ」

「そううまく行けばこっちだってやってますよ。そもそもそのごろつきとやらが、心の底ではこっちを応援しているはずがないでしょう。水没のジョンは、エルサレムの人間はみんな『預言者だ』って信じてるんですから、その弟子たちを始末するなんて計画、こっちがしゃべった時点で垂れ込まれておしまいです」

「女はどうだ。マグダラのマリアとか言ったな」

「姦淫の罪で引っ張ってきたので、素性はわかってますが、昨今は住みかを変えてますね。ですが・・・・・・、あの女なら使えるかもしれません」

「あの親しげな様子。さすがは淫らな女だ。もうユダをたらしこんだと見える」

「・・・あいつらにはあっしも恥をかかされましたからね。・・・・・・今度はこっちが借りを返す番だ」
 そんなたくらみを話ながら、二人はずっと尾行の足を緩めなかった。



 その夜のことである。もうすっかり日もくれて、宿の明かりがともる頃、宿の主人が悠太に手紙を預かった、と言ってきた。見ると差出人にマリア、とある。

「マリアが来たのかい?」

と主人に訊くと、いいや、代理の者だという男から預かったという。

 なんだか変だな、と思いながら封を切ると、その内容に悠太は目を見張った。

『マリアは預かった。雅璃羅屋のメンバーには何も言うな。お前一人で表へ来い。メンバーに話したら、即座にマリアを殺す。かならず一人で来い』

 そう書いてある。慌てて表を見ると、たしかに人影が、こっそりとこちらを伺っているような様子が見えた。

「どうしたんだ悠太、何かあったのか?」

 メンバーにそう聞かれたが、

「いや、なんでもない。ちょっとぶどう酒を買ってくるよ」

とはぐらかして、そっと宿の表へ出た。



 悠太が周囲を警戒しながら歩くと、そっと近寄ってくる人影があった。

「へへへ、ご足労を願って、申し訳ありませんな」

「お前は、サイモンの知り合いの・・・・・・」

 祭司団の男だ、と悠太はすぐに気付いた。これはあいつらの罠だ、と思ったが、今の段階ではマリアの無事がわからない。ただのハッタリならこいつをぶちのめすだけだが、きっと仲間がまだいるはずだ。ゆっくりと二人は歩き出す。歩きながら普通を装って話しはじめた。

「・・・・・・どうして宿がわかった。それに、祭司団は誘拐までやるってのか」

「昼間、尾行させていただきました。まあそうおっしゃらずに。私たちとて、平和的に解決したいのですよ。本当は」

 こいつ以外にも、周囲に何人か配置されているのが気配でわかった。

「何が狙いだ。どうして俺を狙う。・・・・・・それより、マリアは本当に無事なんだろうな」

「それもあなたさま次第で。まあ、現時点では、生きてます。これが証拠で」
 見覚えのあるマリアの衣の切れ端を、男は差し出した。

「こんなもんが証拠になるわけねーだろうが。彼女に会わせろ」

「信じていただけないなら、女の死に顔でも拝みますか?残念ながら会えるのは、こっちの願いを聞き届けてくださってからですよ」

 ネチネチとしつこい言い回しをする男だ、と悠太はいっそう憎憎しくなった。

「要求はなんだ」

「ジェシーを売っていただきたい。」

「裏切れってんだな」

「そういうことです。みなさんの動向を事前にお教えいただいて、我々はローマにあなたがたのリーダーを捕らえていただく。ええ、全員なんて必要ありません。水没のジョン亡き後、目障りなのはたった一人」

「俺だってジョンの弟子だぜ、見くびられたもんだな」

「いいえ、あなたにだって腕力ではかないっこないのは知ってます。ですから卑怯ながら女を捕らえさせていただきました。・・・・・・あなたは話がわかるお人のようだ。いいですか?私どもはあなたには用はないのですよ。なぜなら」

「他所もんだからだろう。エルサレムの民のヒーローは、ジョンで、そしてジェシーだ。俺はどうせここの人間じゃない」

「よくおわかりで。ですから我々が排除したいのはジェシーただ一人なのですよ。そうすれば、あなたの女は自由になる」

「断れば?」

「みなさんはもちろんこのままです。ただ、女が明日神殿から身を投げて亡くなる」

「きったねえ、きたなすぎるぜ」

「表にはローマ兵、裏には暴君ヘロデ、わかってくださいよ。あたしらだって、こうやって生き延びてきたんだ」

 ぽつり、と男は言った。それはたぶん本音なのだろう。大人の世界はそういうものかもしれない、と悠太は変に納得した。実際問題、この国で何が正義かなんてわかったもんじゃない。侵略者ローマにおとなしく従うのが当然なのか。それとも民は自分たちでものごとを決めるべきなのか。そしてその王が暴君だったとしたら、民はいったいどうすりゃいい。

 急に、ニュースで言ってる米軍基地の問題とか、北朝鮮の情勢とか、そういう難しいことが頭に浮かんでぐるぐる回り始めた。

 ああ、あれって、こういうことだったのかもしれない、と悠太は意外と冷静に考えていた。

「簡単に言えば、俺があんたらの言うことを聞かなかった瞬間、マリアが殺される、そういうことだな」

「さすが理解が早い。その通りです。あなたに拒否権はない。もっとも、女を見捨てるなら話は別ですが」

 この男の淡々とした口調が、本気でマリアを殺るつもりであることを物語っていた。悠太には、いまこの時点での選択肢は一つしかなかった。

「わかった。マリアの命を傷つけないことを約束するなら、ジェシーを差し出そう。しかし、俺ができるのはそこまでだ。あとは全員おまえらがメンバーにぶちのめされても、俺はそこから先はしらねえからな」

「十分ですよ。こちらの使いを一人用意します。毎日昼の刻までに、泉の広場であなたの報告を待ってます。みなさんの活動先を事前に教えてくれるだけでいい。どこで捕獲するかは、こっちで考えます」

「マリアには指一本触れるな。もし本当に殺しでもしたら、その時はこの俺がおまえらをぶっ殺す。神殿に火を放ってでも、復讐してやる」

「おお、怖い。お約束しますよ。ええ、お互いに賢くありたいものです。ジェシーの捕獲が終われば、即座に女を解放しましょう。その後は、どこへでもお好きなところへどうぞ。チームは壊滅。恐れるものではなくなりましょう」

「バカにしやがって・・・・・・ジェシーがいなきゃ何もできねえと思ってやがるのか」

「私はそこまでわかりませんが、これも上の判断ですから。宮仕えというものはそういうものです」

「クソ野郎が」

「ではこれにて」

 男はすっと離れていった。同時にあたりを囲んでいた気配も消えてゆく。道端にたった一人残された悠太は、ぐっと拳を握り締めた。

 ジェシーを裏切ることになる。そして、マリアを助けなくてはいけない。こんな、こんな八方塞りは、人生ではじめてのことだった。

 男の姿が無くなって、我に返ったような気持ちになった。俺は今、なんてことを約束しちまったんだ、とさっきまであんなに気丈だったのに、膝がガクガク震えだした。悠太は、嗚咽した。そのまましゃがみこんで、いつまでも嗚咽した。




(13へつづく)

2018年4月12日木曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 11   OLIVE山の上de OLIVE




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11


 

 「みんな!大変だ!大変なことになった!」

とサイモンがみんなが滞在する宿に走りこんできたのは、数日後のことだった。

「どうしたサイモン。何があった」

 ジェシーが尋ねると、サイモンはジェシーの両肩をしっかり掴んで、まっすぐ目を見て言う。「いいか、ジェシー、落ち着いて聞いてくれ。取り乱しちゃいけねえ。でもどうやら、噂は確からしい。絶対に、自分を失うんじゃねえぞ!」

 そんな言い方をするから、よけいにジェシーは気がかりになる。

「だから、何があったんだ」

「水没のジョンが、・・・・・・あんたの師匠が殺された!」

「な、な、な・・・・・・!」

 それ以上、ジェシーは口を開くことができないでいる。悠太は思わずサイモンに掴みかかった。

「どういうことだよ!サイモン。もっと詳しく話してくれよ!俺の師匠だぞ!」

「悠太、お前も落ち着け。きっかけは町のうわさだ。ヘロデ王のやつが、水没のジョンを処刑した、と最初に聞いたのはそれだけだった」

 処刑、という言葉を聞いてごくりと悠太は唾を飲み込む。

「ジョンは民衆のヒーローだ。さすがの暴君でもそうたやすく殺せやしない。だから何があったのか知りたくて熱心党のつてをたどって尋ねたんだ。あいつら宮殿の中にも入り込んでるからな」

「それで、それでどうだったんだ!」

みんなが真剣な目でサイモンを囲む。

「ヘロデ王は、だんながいる女を自分のものにしようとしたらしい。それを水没のジョンは、神に許されないことだといさめたらしい」

 カンインだ、と悠太は思った。それはこの世界では、王様でも許されない重罪なんだと、今では十分わかっている。

「だからヘロデは、ジョンをひっつかまえて牢獄へ閉じ込めていた。それがつい先日までのことだ。ところが、その女の娘が、ヘロデの誕生日に舞を舞いやがった。それがあまりにも上手いのでヘロデのやつはつい『ほうびに好きなものをくれてやる』と言ったらしい」

 それがどうしてジョンの処刑に繋がるのか、悠太にはまだ理解できない。

「そしたらそのガキんちょが、『ジョンの首が欲しい』とぬかしやがったんだと!つまり、こういうことさ。娘のおかんはすでにヘロデと出来ていて、王の妻の座につけないもんだからそれを否定しているジョンをこの機会に殺しちまおうと娘を使ったんだ!」

「なんという、なんという愚かなことを・・・・・・」

 ジェシーが、天を仰いで、声を上げて泣いた。

「ああ、神よ!こんなことが許されていいのですか!これがエルサレムの今の姿だと言うのですか!師匠!私はどうしたらいいのですか!」

 そう叫ぶジェシー。悠太も思わず泣き出した。あの、あのマッチョな師匠が、こんなあっけない最期を遂げるなんて!会いに行こうと、会いたいとあんなに思っていたのに!

 その時、宿の主人が駆け込んできて、客が来ているとジェシーに告げた。なだれるように、そのまま入ってきたのは、悠太には懐かしい面々だった。

「ジェシー!悠太!会いたかったぞ!」

 あのジョンの弟子たち。一緒に修行に励んだ仲間たちだった。マッチョなおっさんの中には、すっかり老け顔になっているメンバーもいた。ジェシーや悠太、それからマッチョたちは熱い抱擁を交わして再会を喜んだ。

「聞いただろう!師匠が殺された。あとは敵を取れるのはジェシー・悠太お前たちしかいない。もうヘロデもローマもクソ食らえだ!噂はもちろん聞いているよ。お前達が大活躍をしている噂は、地方でももちきりだ。私たちも合流するから、ぜひ我々の救世主になってくれ!」

「しかし・・・」

 ジェシーがその勢いに飲まれていると、ピーターがやや冷静に言う。

「あのジョンが亡くなったと知ったら、民衆のヒーローは誰になる?反ローマの精神的支柱は、きっとジェシー、お前しかいない。これまで以上に、民衆は俺たちを求めるだろう。そして、同時に」

「これまで以上に、俺たちは目をつけられる、ってことでもあるな」

そう続けたのは、サイモンだった。

「祭司団どころじゃねえ、下手すりゃローマからも目をつけられるぞ」

 その言葉に、全員が一瞬だまりこくった。

「・・・・・・いや、それでも」

 ジェシーが言った。

「いや、そうなっても私は活動を続ける。たとえローマに目をつけられても、師匠の後を継げるのは、きっと私しかいない」

 その声は、決意に満ちたものだった。泣きはらした目の奥に、熱い情熱をほとばしらせながら。

 悠太には、ジェシーの気持ちが痛いほどよくわかった。もしジェシーがいなかったら、自分が似たようなことを言っただろう、と悠太は思う。

 師匠!俺、本気と書いてマジって感じだぜ、と悠太だって心に誓うものがあったのだ。




 翌日、一行はマリアたちに持たせてもらった弁当をもって、エルサレムの町が一望できるオリーブ山へ登った。腐敗に満ちたエルサレムの町を、どのように導くのか。その作戦を立てるためだった。

「どうなるんだろうなあ、この国は」

ピーターが町を見下ろしながらつぶやいた。

「こんなことだったら、エルサレムは滅びてしまうよ」

とマシューも肩を落とした。

「ヘロデがあんな状態では、ローマは直轄に乗り出すだろうな。そうなれば、神殿は破壊され、戦争になるだろう」

 ジェシーは正面を見据えながらそう言う。

「ローマに従うものと、国を二分する争いになるかもしれないな」

ジェイコブも言う。

「暴動みたいなのは、起こるかな?」

 悠太が言うと、マッチョの一人が答えた。

「師匠の教えを妄信するものもいるからな。我々はできるだけ制してきたつもりだが、暴走するものが出てもおかしくない」

「だとすれば、もうすぐエルサレムの祭りの本祭だ。その頃が危険かもしれない」

 ジェシーがそう先を読んだ。

「だから、できるだけ多くのファンに、これから起こることに備えるよう、伝えなくてはならないな。みんな、気合入れていこう。これからがチーム雅璃羅屋が本当に試される時だ」

 それを聞いて、悠太は今日のためにマリアたちがあつらえてくれたプレゼントをジェシーに差し出した。それは純白の白い衣で、この時代で見つけられる限り白く輝く丈の長い衣・・・つまりは特攻服だった。

 その衣を身につけたジェシーは光輝いていた。

「これは・・・・・・悠太に初めて会ったときの衣と同じだな」

そう、にっこりと微笑む。

「そうっす。みんなの分もあります。これでマジ、殴りこみに行けるっす」

 それからチームのメンバーは、全員白い衣をまとって、円陣を組んだ。

「こういう時、悠太の国ではどんな掛け声をかけるんだい?」

「そりゃあ、もちろん!」

 悠太は、これでもかというくらい目を細くひそめてあごを突き出しながら、

「よろしくううう!!」

としゃくりあげる。

 それを見て、13人とマッチョな仲間たちも全員、オリーブ山から大声で叫んだ。

「よろしくううううう!!!」

「よろしくううううう!!!」

 夜露死苦の掛け声は、それから何度もオリーブ山をこだまして、エルサレムの町へ響き渡ったのだった。



(12へつづく)

2018年4月10日火曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 10   ジーザス☆クライスト☆スーパー☆。




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


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 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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10




 救世主、という言葉がエルサレム市内で聞かれるようになったのはそれからほどなくしてのことだった。

「聞いたか、あのチーム雅璃羅屋の連中が、祭司たちをやりこめたらしいぞ」

とか

「あいつらなら本当にローマ支配に一泡吹かせられるかもしれねえな」

とか

「いっそヘロデ王なんて暴君にひっこんでもらって、あのリーダー。なんてったっけ?ジェシーに王様になってもらったほうがマシなんじゃねえか」

とか、

「チーム雅璃羅屋は、救世主だな」

とか、そんな市井の声が、ジェシーたち一行の周りで囁かれるようになってきたのである。

 ちょうどエルサレムの祭りの時期も重なって、盆踊りのゲストのように、あちこちへ招かれることも多くなったせいで、いっそうジェシーたちの名声は大きくなっていったのだった。

 その頃には、マグダラのマリアやその友達、あるいはファンの女の子などが遠征の差し入れなどをしてくれるようになっており、悠太はずっと彼女と親しくなっていた。

「悠太さんは、遠い異国からやってきたって本当?」

「ええ、北海道っていう寒いところです。ここと違って水は豊かですが、季節が変わると本当に寒くなるんです」

 二人はよく、ジェシーの活動の合間に身の上話をしたりした。

「そうだ!エルサレムではたぶん見たことがないと思うけれど、北海道では雪ってのが降るんすよ。雪ってまっしろで、フワフワで、空から落ちてきて、それがどんどん地面に積もっていっぱいになるんです」

「まあ、地面が真っ白になってしまうの?それは美味しいの?」

 おいしい、という発想が悠太にはなかったので、あははと思わず笑ってしまう。さすが文化の違う人は、思いつくポイントが違うな、とも感じた。

「美味しいかって言われたら、難しいっすね。そのまま食べても、きっと冷たいだけかな。あ、でも夏にはね、『かき氷』っていってその雪みたいなのを甘くして食べるんすよ。それはめちゃくちゃ美味しいな!」

「じゃあ、きっとマナね!」

 ぽん、と手を叩いてひらめいたようにマリアは言う。

「マナ?」

「そう!私たちの昔話に、マナという神様が与えてくれた食べ物があるのよ。その昔、私たちの先祖が荒野を彷徨っているときにね。食べ物がなくなってみんなは神様に祈ったの。そうしたら天から、そうまるであなたの言ってる雪のようなものが降ってきて、地面にふわっと積もるんですって」

「へえ!それはもう雪に間違いないっしょ」

「でも、冷たかったかどうかは、わからないの。甘くて美味しいんだけど、ほうっておくと解けてしまうとは聞いたことがあるわ」

「そりゃあ、きっと雪だなあ!天然のかき氷だ」

 二人は、そんな他愛もない話をよくした。けれど、マリアはずっと自分が罪人であることを恥じていて、悠太と手をつなぐことさえなかった。

 悠太も、彼女の昔のことは聞かないように心に決めていた。それが男ってもんだろ、と自分に言い聞かせていたからである。

「そういえば、ここのところずっと、ジェシーさんのことを救世主だって言う人が増えたわ。本当にユータやみんなが民を率いてくれたらいいのに、ってあたしだって思うもの」

 ふと、そんな話が出て、悠太は聞きなおした。

「キューセーシュ?」

「ええ、この国を救ってくれる人のこと。私たちの国には、マナみたいにいろんな伝説があって、神の預言者が現れてピンチの時は民を救ってくれるっていうのよ」

「へえ、でも救世主っていったらイエスキリストだよな」

 思わず、そんなことを言う。悠太はヤンキーで、学校の先生の言うことなぞこれっぽっちも聞いたことがなかったが、それでも自分の学校がミッションスクールだってことくらいは、知っている。

 イエスキリストを信じるキリスト教の人たちが、学校を建てたこと。イエスキリストって言やあ、なんかしらんけど世界を救った救世主ってことぐらいは、悠太だって知ってる。ここは胸を張っていいと自分でも思う。

「俺たちの世界でも、救世主イエスキリストってのがいて、なんだっけ。世界を救うヒーローみたいなもんだったらしいよ。あんまりよく覚えてないけど、最後の食事の絵をやたら先公に授業で見せられるんだよね。弟子が12人いて、オージーザス!って指で十の字を書くやつ」

 もはや賢明な読者諸君から見れば何を言ってるのかわけわからないが、悠太なりに断片的な知識を精一杯かっこよくマリアに伝えているつもりなのである。

 マリアはそれを見ながらクスクス笑っている。

「あなたの世界の救世主は、ほかに12人の仲間がいるのね!ほら、一緒じゃない?リーダーのジェシーがいて、それからみんなで13人。まるで悠太たちみたいだわ」

「ああ!言われてみれば!」

 悠太は、目を丸くする。そういえば、ジェシーと愉快な仲間たちも、イエスとのその弟子たちも全部で13人のチームなんだ、とはじめて思った。なんかすげえ、面白い!と一緒になって笑いながら、その顔が急に真顔になるのを悠太は感じていた。

『なんだこれ』

 マリアの笑顔は屈託がない。幸せなひとときだとわかっている。でも、何かが変なのだ。何か大事なことがすっぽり抜け落ちているような、そんな嫌な感じが急に、悠太の背中に襲いかかってきた。

『なんだ、なんだこの変な感じ』

 さっきまで元気だったのに、ゾクゾクする。まるで風邪を引いたみたいに、体のどこかが寒く震えるような気持ちになった。

「・・・・・・どうしたの?暑さに苦しくなった?」

 怪訝な顔をして、覗き込んだマリアに、悠太は必死で平静を装った。

「いや、・・・・・・いやなんでもないんだ。さあ、みんなのところへ戻らなきゃ」

 立ち上がりながら、悠太はきっとこれは何かの気のせいだ、と思う。溺れた時に頭を打ったかなんかで、嫌な記憶を忘れてしまってるのかもしれない、とこの世界に来た頃のことをふと思い出していた。




(11へつづく)

2018年4月8日日曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 9   ゲスの極み不倫と乙女




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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 https://talkmaker.com/works/b0c04591422427ceda5bc3fbf689e1ff.html




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 それから、チーム雅璃羅屋の一行が悠然と神殿の建物を出て、神殿の丘の上から麓へと降りようとしている矢先のことだった。行く手にちょっとした人だかりができて、騒然としているのに気付いた。

「なんの騒ぎだろう」

とジェシーたちが近づいて見ると、人々が口汚く誰かをののしりながら、まさに手に持った石を投げつけようとしているところだった。

「おい!おいちょっとまて!何の騒ぎだ!」

 ジェシーが止めに入ったので、騒いでいた人たちは思わず手を止めて、こっちを見る。ちょうど人だかりの輪の中心には、座り込んだ女性と下級祭司らしい人間が立っているのが見えた。

「なんだお前らは!邪魔立てするな・・・・・・、まてよ、その風体、さてはお前らが、神殿を騒がしている暴徒の集団とやらだな!」

 祭司は、こちらをにらみつけている。ジェシー達があの、いま世間で話題の「チーム雅璃羅屋」のメンバーだと知って、集まっていた人たちも、少しざわつきだした。

「その女をどうしようというんだ」

 ジェシーが静かな口調で言った。祭司は、

「ふん、それならそれでちょうどいい。民衆よ!よく聞いておくがいい!この若造たちは、神の国の到来と正しい道について説いて回っているそうだが、正義とは何か、今こそここで正してやろう」

 そう言いながら、手に持っていたムチのようなもので、一回女性の膝元の地面をバチン!と叩きつけた。女性はうつむいて、嗚咽を上げているようだった。ボロボロになった衣服をまとい、ここへ来るまでに拷問のようなものを受けたようにも見える。

「この女は姦淫の罪を犯した。律法によれば姦淫の罪は石打ちの刑と定められている。民衆よ!姦淫の罪を犯した者は、どうあるべきか!」

「石打ちだ!」

と観衆の誰かが叫ぶ。

 悠太はたまらず、隣にいたトーマスの服のすそを引っ張った。

「あの人、何をしたんだよ。カンインって、どんな悪いことなんだ」

「ああ、つまりは・・・・・・夫以外の男と関係を持ったってことだ。重罪だよ」

「ゲス不倫ってことか!」

 悠太の語調は強くなった。思わずいかめしく説教を垂れている祭司のほうへ、詰め寄る。

「ちょ、ちょっとまてよ!ゲス不倫ってあれだろ!芸能人で言えば記者会見とか開いて、『すみませんでした』ってやりゃ済む話じゃん!この人だって人前でこんな目に合わされたら、もう十分だべ!それをみんなでよってたかって石ぶつけるなんて、ヤンキーでもやらねえし、まともじゃねえよ!」

 祭司は悠太の顔を見て一喝した。

「なんだお前は、異邦人か。お前がどこの国の人間か知らんし、ゲイナー人の律法も知ったこっちゃない。ここはエルサレムの町だ。ここにはここの律法がある。姦淫は石打だと、神が定めたのだ!」

「神がどんだけ偉いか俺にはわかんねえけど、それじゃあお前らにも言ってやる!神が決めた法律だったら、お前らみんなぜってー守るんだな!じゃあ、逆にお前らこれまで人生で一切悪事をしてねえって言うんだな。万引きも、カツアゲも、嘘ついたり、誰かを騙したり、約束を守らなかったり、ごはんを残したことだって一切ないんだな!」

 それを聞いて、祭司は口の端をゆがめたまま、多少たじろいだ。

「言ってみろよ!祭司は神に仕えてるんだろ!誓って悪事を働いたことはないってここで宣言してみろよ!それが嘘だったら、お前も石打ちだ!そうだろ!」

 観衆のざわめきは、その言葉で大きくなった。ゴツンと誰かが石を捨てる音がした。それが、一人増え、二人増え、みな手に持っていた石を、道端へ捨て始めた。

 人々は、恥らうように、顔を伏せながらその場を去ってゆく。そして、そこにいたほとんどの民が、ジェシーたちを残してすっかりいなくなってしまった。

 祭司は、怒りに震えながら、毒づいた。

「このことは祭司長さまに報告するからな!・・・・・・お、覚えておけ!ただでは済まさん!」

「その祭司長に先ほど会ってきたばかりだ。好きにしていい、と聞いたが」

 ジェシーは、祭司からムチをひっつかむと、遠くへ放り投げた。

 悠太は慌てて女性のところへ駆け寄った。

「も、もう大丈夫です。みんな、いなくなっちゃったから・・・」

そういい掛けて、悠太はあっと息を飲んだ。

「ありがとう、ありがとうございます!」

 半泣きで取りすがった女性の顔を見て、悠太は我を失いそうになった。

「まままま、まきたさ・・・・・・ん!」

 その女性は、悠太から見れば思ったより若く、まるで少女のようにも見えた。ずっとうつむいていたのでわからなかったが、その顔は、同級生の牧田真理恵にそっくりだったのだ。

「まきた・・・牧田真理恵さん!そうでしょ!俺っすよ、小田悠太です。ほら、あんまり話したことないけどおんなじクラスの!」

 しかし当然ながら、女性はきょとんとした顔で悠太をじっと見つめているだけだった。牧田真理恵の顔をみて、動転した悠太だったが、よく考えればここは元の世界じゃない。彼女がここに来てるはずがないことは、すぐに気付くことだった。

「ああ、いや・・・。ごめんなさい」

悠太は肩を落とした。

「あの、どうして私の名前を・・・」

女性は、悠太を見上げながらそんなことを言う。

「え?」

「・・・・・・私は、マリアです。マグダラ生まれの、マリアと言います。あなたはどうして、私の名前を知っていたんです?まるで、まるで奇跡のよう」

 本当に真理恵が喋っているようだった。悠太はドキドキした。きっとマリアと真理恵は、偶然似た名前だったのだろうけれど、こんなにも牧田真理恵と近くにいることなんて、これまでなかったからだ。

「お、お、送って行きますよ。家まで」

そういう悠太に、彼女は首を横に振る。

「・・・・・・罪深い女です。帰るところなど、もうありません」

 それを聞いて、ジェシーは頷いた。

「いいだろう、それなら私たちとともに来ればいい」

 マリアは、こうしてチーム「雅璃羅屋」の支援者の一人となった。一行のエルサレム滞在の手伝いを、ファンの人たちと一緒に行うようになったのである。





(10へつづく)

2018年4月6日金曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 8   祭司だんのリベンジ




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 一行が再び神殿に正面切って乗り込んでいったのは、翌日のことであった。あれだけのことをしたのだから、何か嫌がらせのひとつでもあるかと思っていたのだが、神殿に巣くっていた商人たちの数もめっきり減っており、誰もジェシーたちをとがめだてする者はいなかった。

 それどころかむしろ、下級の神官がうやうやしく出迎えに現れ、表向きには礼を尽くして一行を案内してくれたのには、正直意外な気がした。

 神殿の奥には、祭司達が神事などを執り行う執務室がある。一目で高級だとわかる絨毯が敷き詰められ、金の装飾が施された器や壁掛けなどが、整然と並べられている。

 どうぞこちらでお待ちください、と神官に案内されて、チーム雅璃羅屋の面々はそのあまりの豪華さに目を見張った。

「汚れている!」

と、ジェシーは例のごとく、早くもブリブリと怒り始めている。

「こんだけ金が集まるのなら、そりゃこの身分を失いたくはないわなあ」

 周りを見回しながら、ピーターが呆れたように言った。

「気をひきしめておけよ。これがあいつらのやりかただ。ここまで来るのに、拍子抜けするほど何にもなかったろう。罠とまでは言わないが、人をたらしこむのはあいつらの常套手段だからな」

 サイモンは、油断無く身構えている。ジェシーには制されたものの、懐に短剣を忍ばせているのは、メンバーの誰もがわかっていることだった。




 「どうもわざわざお越しくださいまして、心から歓迎しますよ。ああ、私は祭司長。それからここに控えているのは祭司たちとそれから律法学者たち。皆様のお顔を拝見したいと、同席を許していただければ嬉しいですな」

 そうにこやかに微笑を浮かべながら祭司一行が登場したのは、それからほどなくのことだった。

「これはどうも」

 チームの面々も、一応は礼をする。

 大きなテーブルのある部屋に案内され、すぐに飲み物とパンなどの軽食が並べられた。

「・・・・・・食事を招かれにきたわけではないのですが、本題に入っていただければ」

 ジェシーが、その一切に手を触れようともせずに言うと、祭司長は、まあまあとやたら笑顔ではぐらかそうとしてくる。

「正直な気持ち、先日の件には感謝しているのです。みなさんはまあ、その多少過激ではあったが、その意図はわからなくもない」

「というと?」

「商人たちがのさばりすぎ、神殿を汚していたことは事実です。私たちからみても、あれだけ金銭欲むき出しでここにおられては、聖なる場としては本当にふさわしくない」

 ・・・・・・金銭欲むき出しなのはどっちだよ、と誰もが突っ込みそうになるのを押さえながら、とりあえずは神妙な面持ちで話を聞いている。

「みなさんが神を思う気持ち、神殿を思う気持ちはすばらしい!祭司団としても、心から応援したい、という気持ちもある」

 ほら来た、とサイモンが小声で言うのが聞こえた。

「同意していただくのは私たちとしても、不本意ではありませんが」

 ジェシーはあいかわらず、むすっとした表情で答えている。

「ただ、ひとつ私たちから尋ねておきたいことが一点だけありましてな」

 祭司長は、そこでちょっとだけ目つきを変えてそう言う。

「みなさま方が、何の権威によって活動なさるか、そこのところをはっきりさせていただきたい、とまあ思うわけです」

 それを聞いて、ようやくこの会談の真意を悟ったのか、ジェシーはふふん、と鼻で笑った。

「つまり、まあ、こういうことですか。神殿の権威によって活動する分には応援してやらんこともないが、あんたらの意図に背くのであれば、好きにはさせない、と」

「どう解釈なさるのもよろしいが、私はただ『何の権威を尊重なさるのか』と尋ねているだけですよ。ははは」

 こいつはかなりの狸野郎だな、と悠太でも感じた。言質をとられないように、気をつけて喋っていることがよくわかる。そりゃあ、そうだろう。過激派の支援をしているなんて公的にバレたら、たとえ祭司団であってもローマから狙われるはめになるのだから。

 そこでジェシーは、ひと呼吸置いて言った。

「では、私が答える前に、一つだけ祭司団の方々に尋ねたいことがある。いいですか?」

「どうぞ」

 祭司長は、笑顔を崩さずに頷いた。

「私と、ここにいる悠太は“水没のジョン”の元で学びました。みなさんも知ってのとおり、ジョンは民から神の預言者としてたいへん篤く信じられています」

 師匠の名前が出た瞬間、祭司団にちょっとしたどよめきが走った。悠太は、師匠がそんなに有名人だったのか、と改めて驚いた。

「ジョンが人々に信じられているとすれば、その権威はどこから来ていると、みなさんはお考えなのですか?」

「な、なんと・・・・・・」

 祭司長は、その問いかけにはじめて苦悶の表情を浮かべた。

「ジョンは民衆から、本物の修行者であり、神の使いと信じられている。まあ、実際荒野に出て、俗世から離れてあれほどの活動を行っていますからね。彼が神の権威で修行を行っていると民衆は信じている。しかし、あなた方はもちろんそんなことは認めないでしょう」

「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 祭司たちは、動揺しながらああでもないこうでもないと小声で騒ぎ始める。

「民衆にとっては、ジョンはヒーローです。しかし、彼は人だからヒーローなのではなく、神の使いだからヒーローなのです。それを否定するのであれば、いくら神殿の祭司たちとはいえ、多少まずいことになるのではありませんかね。私たちがここを出て、『祭司たちが水没のジョンを否定した』と言いふらせば、暴動のひとつやふたつ起きてもおかしくないでしょう。責任を問われるのではないですか、祭司団として」

 そんなにすごい人だったのか!とさらに悠太は驚いた。ただのオイルマッチョじゃなく、もはや人々の間では聖人、預言者、神の使いのレベルだっただなんて!

「ああ、わかった。わかったとも」

 祭司長は、悔しそうな表情をして言った。

「行くがいい、行ってしまいなさい。君らがジョンの弟子だったとは、それはうかつだった」

 そういって、手で追い払うしぐさをする。それを聞いてジェシーはにこやかに立ち上がった。

「では、そういうことで。行こうかみんな」

 メンバーも、次々立ち上がり、振り返りもせずにジェシーに従って歩きはじめる。完全なるチーム雅璃羅屋の勝利だった。

 祭司長は立ち上がりもせず、憤怒の表情でそれを見つめていた。それから、おもむろに傍らの神官に対して、声を潜めた。

「・・・・・・あいつを殺せ。どんな手段でもいい。絶対に殺せ」

「かしこまりました」

 だが、祭司団がこうしたたくらみを企てていることは、チーム雅璃羅屋の誰もが知る由もなかった。これが、のちに悠太の生き様にも大きく影響を及ぼすことさえ、神のみぞ知るところだったのである。



(9へつづく)

2018年4月4日水曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 7   サイモン&熱心党




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 エルサレムでも、神殿でやらかした「チーム雅璃羅屋」の名前は一気に知れ渡った。ある者は田舎者が暴れたとバカにし、ある者は暴走集団が来たと恐れた。またある者はひさびさに気概のある若者が現れた、と評価した。

 数日後のことだった。ジェシーたち「チーム雅璃羅屋」が身を寄せていたエルサレムのファンの家に、一人のしっかりした身なりの人物が訪ねてきたのである。

「失礼、こちらにチーム雅璃羅屋という若者たちのグループが滞在していると聞きましてね。どなたか話のできる方がいれば」

 あんな騒ぎを起こしたばかりで、相手の素性がわからない以上、少し警戒して恰幅のいい武闘派のサイモンが表に出た。

「話というのは何だ。・・・・・・てめえ、見たことがあるぞ。どこかで会ったことがないか?」

 その人物はにやりと笑い、深々と礼をした。

「おやまあ、元熱心党のサイモンさんではありませんか。いつぞやはお世話に」

「・・・・・・祭司団の手先か」

「あなたがこの集団に関与しておられるというのなら話は早い。これは、祭司長からの呼び出し状ですが、我々としてはぜひ、みなさんと話がしたいということですよ」

「この間の件なら、知ったこっちゃねえ。帰ってくれ」

 差し出された巻物状の手紙をつき返そうとしたサイモンだったが、その男はやんわりと制した。

「いやいや、あなたがここにおられるのであれば話が少し変わります。我々はどうも誤解していたようだ。単なる田舎モノの集団が暴れただけかと思っていたが、そうではない、と解釈させていただきますよ。では、これにて私は」

 男は軽く会釈をして立ち去った。

「あいかわらず気持ちの悪い野郎だ」

 吐き捨てるようにつぶやいたサイモンだった。苦々しい顔つきで戻ってきた彼をチームのメンバーは取り囲んだ。

「一体何だって?祭司団は何のつもりで」

「呼び出し状だなんて、無視すりゃいいじゃねえか!」

「さっさとここも出て行けばいい。そうすりゃ奴らだって何もできねえはずだ」

 口々にそういうメンバーを制して、悠太は気になっていることを尋ねた。

「ごめん、それよりさ。なんでサイモンはあの男と知り合いなんだよ」

 険しかったサイモンの眉がぴくり、と動いた。ひとつ小さなため息をついて話はじめる。

「俺が熱心党出身の、いわゆる過激派だったことはみんなに話してるはずだが、熱心党ってのは知ってのとおり王国がローマに支配されるようになって立ち上がった自発的な組織だ。ジェシーが説教してるように、言論で戦おうとするものもいれば、実力で戦おうとするものもいる。簡単に言えば、ゲリラ組織みたいなもんだな。俺も昔はナイフ一本でずいぶんエグいこともやったもんさ」

「それで?」

 珍しいサイモンの昔語りに、みんなは食い入るように前のめりになった。

「王国の独立のためならと、我々はそりゃあもう激しく戦った。局地的な暴動もあれば、ローマの役人を暗殺しようとしたこともある。しかし、今の状況を見てわかるとおり、それらはうまく行ってない。でも、我々はそれが正義だと信じて闘ってたんだ。ところがだ。俺なんかは自発的に熱心党で活動していると信じていたんだが、実はローマ支配の転覆をたくらむゲリラ組織ですら、実は黒幕がいたってワケだ」

「どういうこと?」

「結論から言えば、熱心党をはじめ各地の反ローマ勢力を支援していたバックがいたんだよ。つまりは金を出してたスポンサーだ。」

「それが、・・・・・・あの男ってことか」

「あんなのは小物だ。ただの使いっぱしりに過ぎない。黒幕は祭司団だ。おそらく神殿の連中は金をばら撒きながら自分たちに都合のいい集団を操ってるんだ。熱心党を支援したのも、うまく行けば本来の王国での祭司の地位を取り戻せると考えたからだ」

「ち、ちょっとまって。それなら祭司団は別に俺たちと敵対しているわけじゃないってことか」

 ジェイコブが訊くと、サイモンは首を横に振る。

「そう単純な図式じゃない。いいか、王国のいちばんてっぺんにはローマがいる。しかし、現時点ではこの国は我々と同族であるヘロデ王に任されている。もちろん、ローマに首根っこをつかまれた状態ではあるが。神殿は本来、王とほぼ一体だが、祭司たちから見れば・・・・・・」

「そうか。いつヘロデの首が挿げ替えられるかわからないし、ローマが直接統治に切り替えてくるかもしれないということだな」

 ジェシーが腕組みをしながらそう言った。そして続ける。

「つまり、祭司団からみれば、保険をかけておく必要がある、ってことだ。ローマの転覆が叶えば本望だが、それが叶わない場合だってある」

「そこだよ、ジェシー。それがわかったから俺は熱心党から少し距離をおいた。つまり、やつらは同族だろうが異国民だろうが、どっちだっていいんだ。最終的には自分たちの立場が維持できるなら、それを守るためにあっちこっちに金を出す。そしてその金は、神殿へ上納される国民たちの寄進や、こないだみたいな神殿商人たちからのショバ代で賄われてる、って寸法だ」

 なんだそれ!めちゃくちゃ汚ねえ話だな、と悠太は思った。まるで、あっちの世界にいた時の、いわゆる「大人の汚さ」みたいな話じゃん、と。

「あいつらは、俺たちをも手なずけておこうと考えたってことか」

 フィリップの言葉に、サイモンは言った。

「いや、俺の顔を見てそう切り替わったんじゃねえかな。あいつらは本当にずる賢いからな。・・・・・・どうするよ、ジェシー」

 腕組みを続けたまま、ジェシーはしばらく考えていたが、やがて彼らしい強い口調で答えた。

「どうやら、本当に闘うべき相手は、あんな商人どもではなかったってことだな。受けて立とうじゃないか。そのために私たちは行動してきたんだ。丸め込まれるつもりはない。だが、まずは祭司団の“根性を改める”必要がありそうだ」

 それを聞いてサイモンはやれやれという顔をする。

「・・・・・・そうなると思ったぜ。まったく!そんなら俺は、久しぶりに短剣でも研いでおくとするかね」

「武力でやりあう気はないぞ、サイモン。正々堂々と、正面から行こうじゃないか」

 ジェシーは立ち上がる。その拳には、また力がみなぎっていた。悠太には、ジェシーの表情に先日以上に熱い思いがほとばしっているのが見えた。

 神殿で祭司団との直接対決だなんて、すごいことになってきた!と自分でも興奮してくるのを感じ、まるでRPGの世界に入りこんだみたいだ、と思う。

「・・・・・・根性を改めよ」

 そうつぶやき、師匠の顔を思い出した。そうだ、この件が終わったら、一度師匠を訪ねてみることをジェシーに提案しようなんてことを悠太は思っていた。



(8へつづく)

2018年4月2日月曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 6   エルサレムの商人




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「なんなんだ!これは!許さない、絶対に私は許さないぞ!」

 めったに感情を荒立てることがないジェシーが怒りに震え始めたのは、エルサレムの神殿へ登ってほどなくのことであった。

 エルサレムの神殿の周囲は、さながら祭りの縁日のようで、たくさんの出店でにぎわっている。神殿にお参りに来ている人たちも多く、あたりは人、人、人でごった返していた。

 その神殿の様子を見て、ふだんのジェシーとは明らかに違う気迫で、彼がブチギレているのが、悠太にもすぐわかった。

 これほどまでに彼を怒らせているのはいったい何事ゆえなのか、悠太は最初、さっきまでご機嫌だったのにマジで意味わかんねえと思っていたが、じっと観察しているうちにそれがおぼろげながら、次第に理解できるような気もしてきたのだった。

「ほら!どうだい傷一つない上物だよ!とれとれピチピチ新鮮な動物たちだ」

 出店で売られているのは、牛や羊や鳩といった動物たちだった。それからなにやらチャリンチャリンと小銭を扱っている両替商のような屋台もやたら出ている。

「ねえ、あの鳩にしましょうよ!毛並みが美しいわ」

「どれどれ、よーしわかった、カワイイお前の頼みなら仕方ないなあ」

 そんなことを言いながら、金持ちそうなおっさんと若い女が動物を品定めしているのも見えた。

「悠太、あれはな、これから神殿で捧げる犠牲の動物を買ってるのさ。それからローマの硬貨をそのまま神殿に捧げたら異教徒のものだからまずいので、両替商もたくさんいるんだ」

 リーダーの機嫌があまりよろしくないのを察知したメンバーのピーターが、そっと耳元で教えてくれる。

「犠牲ってどういうこと?」

「焼くんだよ、祭壇で。」

「食べるのかい?」

「いいや、俺たちは食べねえ。食べるのは、まあ神様だな。生きたまま火にかけるとそれ
が神様のごちそうになるってわけだ」

 ピーターがそう言うと悠太は思わず声を上げた。

「食べないのに焼くの?動物虐待じゃん!」

 それでジェシーは怒ってるのか、と思いかけた悠太だったが少し気持ちを抑えたようにジェシーが会話に入ってきた。

「動物達が捧げものになることは、この国の信仰ではおかしなことではないんだよ悠太。私が気に入らないのはそこじゃない。見てみろよ。あの商人どもの顔つき、それから買っている客も客だ。まるで宝石や毛皮の服を選ぶかのように、下品な笑顔で品定めをしているだろう」

「本来、犠牲を捧げるってのは、もっとこう、おごそかで真剣なものなんだ。自分の持っている一番大事なものを差し出す、そういう感じかな」

 サイモンもそう付け加えた。

「悠太、君の一番大事なものはなんだ?」

 急にジェシーが、そう尋ねた。悠太はちょっと考え込んだが、すぐに答えた。

「こっちへ来る前なら、家族の顔とかが思い浮かんだかもしれないけど、今はやっぱり一人ぼっちなので自分の命かな。そりゃあ仲間とかそういうのも大事だけどさ」

「そうだろう。命だ。だから動物たちの命を神に捧げるんだ。それがあんな風にただの商品としてやりとりされているなら、神様が本当に喜んでくれると思うか?」

 確かに、ジェシーの言うとおりだと思った。

「へへへ、毎度ありがとうございやす」

「お兄さん、買ってってよ!」

 両替商の顔も、動物商の顔も、醜くゆがんで見える。チャリンチャリンと金貨や銀貨の
音がするたびに、動物たちの哀しげな鳴き声がやるせないものに聞こえてくる。



「これが、エルサレムの、神殿の実態だなんて」

 握り締めた拳を震わせてジェシーがうつむいている。

「何が神の国だ。何が修行だ。私は何にもわかっちゃいなかったんだ」

 ジョン師匠の顔が思い浮かんだ。

「根性を改めよ、だね、ジェシー」

師匠である彼の言葉を知っているのは、ジェシー兄ちゃんと悠太の二人だけだった。

「本当にそうだ、悠太の言うとおりだ。・・・・・・根性を改めよ」

「根性を改めよ!」

 ジョン師匠の口真似が、だんだんと二人の間で激しさを増していった。

「根性を改めよ!」

「心を貫け!」

「神の国は近いぞ!」

「そうだ!根性を改めよ!根性を改めよ!」


口調が最高潮に達した時、ふいにジェシー兄ちゃんは走り出し、突然露天の一つに体当たりを食らわせて、籠の中の鳩や囚われていた動物たちを放ちはじめた。

「おいこの野郎!何しやがるんだ!」

「うるさい!根性を改めよ!」

 当然あたりは大騒ぎになる。

 ジェシーに殴りかかろうとする店主に悠太は援護で突入する。

「ケンカなら、俺がいるでしょうが!加勢しますよ、根性を改めよ!」

 悠太も片っ端から、神殿の周りの商売人たちの露天をぶっ壊しはじめた。すると、はじめ目を点にして見ていたチームのメンバーも、次の瞬間から

「根性を改めよ!」

と口々に叫びながら、一緒になって露天を破壊しはじめたのだった。

「てめえら何しやがんだ!」

 店主たちが集団になって襲い掛かってくるのを、ひらりひらりと交わしながら悠太は、一人ずつ確実に拳をおみまいしてゆく。

 メンバーの誰かが、そこらへんの金貨や銀貨を引っつかんでは店主たちに投げつけはじめると、騒ぎはいっそう大きくなって神殿の参拝者を巻き込んでカオスと化した。

「金だ!金をばら撒いてるぞ!」

 こうなるともう収拾がつかない。「キャー!」「ワー!」という人々の悲鳴と、「モー!」という牛や羊の鳴き声と、鳥たちの羽ばたきやらチャリンチャリン音やらで、もうあたりは無茶苦茶だった。

「誰か!番兵を呼べ!」

群衆の声の中にそんな言葉が聞こえた。

「よーしみんな、これくらいでズラかろうぜ!」

悠太が叫ぶ。もう十分だ。

「ジェシー!気がすんだろう!これくらいで勘弁してやろうぜ!」

「ああ、悠太、よくやってくれた!」

 それから、チームのメンバーは後のことなどおかまいなしで、一目散に走り出した。

 逃げて逃げて逃げて、走って走って走って神殿の階段を駆け下り、城壁の門から門をするりと抜けて走り倒した。




 町はずれの野原まできて、ハアハアと息をつきながらみんな仰向けにぶっ倒れた。

「着いて早々、やらかしたな!」

「あははは、いいざまだ!」

「ロバ、置いてきちまったよ!でもまあ、あいつらだって自由にすればいいさ!」

 そんなことを口々に言いながら、もう誰も追いかけてはこない神殿の姿を振り返っていた。

「ジェシー兄ちゃんが、あそこまで熱い男だとは、知らなかったよ。もう少し、冷静なんだとずっと思ってた」

 悠太がそういうと、ジェシーは少し反省したように言った。

「いや、さすがの私もやりすぎたと思う。でも、この町の腐敗は、許せなかったんだ」

「じゃあ、いっそのことここでも教えを広めないといけねえよな!俺はひさびさに血が沸いたぜ!」

 熱心党出身のサイモンがそう言うもんだから、「うるせえ過激派!」と誰かが突っ込みを入れた。とたんにまたチームのみんなは爆笑の渦に包まれたのだった。



(7へつづく)