2018年3月31日土曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 5   神劇の巨人




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


■ はやく続きが読みたい人は↓ べ、べつに課金なんかないんだからね。

 https://talkmaker.com/works/b0c04591422427ceda5bc3fbf689e1ff.html




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 チーム雅璃羅屋の活動は、時にまじめに政情を語り、時にバカまるだしのどんちゃん騒ぎをしたりで、悠太は本当に楽しかった。
 
 もう、石狩の自分の家を戻ることなどすっかり忘れていて、・・・・・・といえば大げさで嘘になるが、いくら悠太でも、そろそろ自分がどこか遠い異国や別世界に流れ着いて、元の世界には戻れないかもしれないことは薄々気付き始めていた。

 でもそれならそれでいい、とも思えるようになっている。ケンカに明け暮れ、親や先生に反抗するだけの毎日よりかは、今のほうがずっと生き生きしているように感じられた。

 もしかすると、自分はもうあの時川で溺れ死んでいて、ここは死後の世界なのかもしれないと考えたりもした。

 でも、もしそうだとしたら、生きることや生きているって一体なんなのか。つまんねえ授業を受け、バカもやったけど誰かと傷つけ合い、将来に対してものすごい不安を抱える生活が生きているってことで、逆にこっちの世界が死んでいるってことなのだとしたら、悠太にとっては「あっちの世界でこそ死んでいた」ようなものに感じられたのである。




 チーム雅璃羅屋の評判が高まるにつれて、悩み相談に訪れる人が増えたのも、悠太にとっては大きな転機だった。

 寄る辺のない老人の世話をしたり、病人の話相手をしたり、貧しい人の手助けをして感謝されたりすることは、かつての悠太が体験したことのないことばかりだったからである。

 悠太がジェシー兄ちゃんを心から尊敬したのは、彼がまったく分け隔てをせず、どんな人にも笑顔で接することであった。

 ネトウヨってのはこう、なんていうか。もっとヘイトスピーチとか、そういうのに明け暮れている印象があったから、悠太から見ればおなじネトウヨでも、ジェシーのやり方はかなりマイルドなんだなあ、と思うようになった。




 あるとき、ずっとふさぎ込んでいる女の子の両親が、メンバーに相談に来たことがあった。もう長い間ベッドに臥せっていて、起き上がることができない、という。

「なんか辛いことがあったんすかね。メンヘラなんすよ、きっと」

 悠太はそう言って、両親の相談を聞いているジェシーの話に割って入った。

「娘さん、好きだった男の子が亡くなったとか、そういうことがあったんじゃないすかね」

「そういえば・・・・・・」

 思い当たる節があったのか、両親は娘が思いを寄せていた男との仲を無理やり引き裂いたことを認めた。

「クララには、悪いことをしたのかもしれません」

 そう言って、両親は肩を落とした。

「さあ、早く行ってそのことを娘さんと話し合いなさい」

 ジェシーがそう勧めると、二人は急いで家へ戻っていった。

「クララが立った!クララが立った!と評判になってるぜ」

と、ピーターが町のうわさを聞きつけたのは、それからほどなくのことだった。




 そうして、ジェシー達の活動がどんどん勢いを増して、地元では知らぬものが誰一人としてないくらいになった頃のことだった。

「一生に一度くらいは、神殿にお参りしてえもんだな」と言い出したのは、チーム誰だったか、今となっては定かではない。

「お伊勢参りみたいなもんっすね」
と、知ったような口を利いたのは、もちろん悠太だった。もっとも悠太だって伊勢へ参拝したことなどなく、それどころか東京へも行ったことがない。せいぜい中学校の修学旅行で札幌へ行って時計台とクラーク博士の銅像を拝んだくらいのもんである。

「東京かあ、行ってみたかったなあ!」

 もうずいぶんとこちらの暮らしに馴染んでしまったが、ひょんなことで昔をたまに思い出してしまうものである。

「エルサレム、ってのは、どんなとこなんすか?」

 悠太が尋ねると、みんな口々に「そりゃあ、大都会だよ」とか「この国のいちばんの神殿があって、そこには綺麗なお姉ちゃんもいるらしいぜ」とか騒ぎはじめる。

「エルサレムか・・・・・・」

  そんな中ジェシー兄ちゃんは、一人真面目な顔をして何か考え込んでいる。そしておもむろに言った。

「行くか、みんなで。エルサレムへ行こう!私だって神殿に行ってみたい。神の国の証を体感したい。首都であれば、ローマがどんな政治をしているのかもこの目で見ることができる。行こう、ぜひ
行ってみようじゃないか」

「じゃあ!ツーリングで行きましょう!」

思わず悠太が言った。

「ロバ買ってきて、みんなで乗っていくんすよ!連れ立って!ぜったい楽しいって!」

 さすがに、盗んだロバで走り出そう、なんてことはもう言わなかった。




 かくしてイージーライダーのテーマが脳内で流れる中、チーム雅羅利屋ののぼりをはためかせながら肺活量750CCのロバたちが隊列を組んで走っているのは、エルサレムへ向かう街道である。

 はじめはたいして関心もなかった沿道の人々であったが、一行ののぼりに「チーム雅璃羅屋」の文字があるのを見て、もしや彼らが今話題になっているホットでクールなあのメンバーたちか!と一部のマニアには感付かれるようになっていた。

 しだいに、エルサレムの町の入り口に近づくにつれ、噂を聞きつけたギャラリーが増え、伝聞で彼らのことを知っていた一部の熱狂的ファンからは熱烈な歓迎を受けることになってしまったのである。

「きゃー!」

と中には黄色い声援を上げる女子たちもいて、野郎ばかりのむさくるしい集団だったチームのメンバーにも、照れ笑いが生じている。取り囲まれるように、ロバは歩みを遅くせざるを得なかった。

「知ってますよ!みなさんのこと!サインくださいよ!」

と羊皮紙に下手糞な文字で、雅璃羅屋と書かれたステッカーのようなものを両手で掲げているオタク風の若者が近づいてきて、ジェシーも愛想良くサインに応じている。

 ははあ、これはもうエルサレムでも「どうでしょう」ぐらいの人気になってるんだな、と悠太は逆に驚いた。ネットもスマホもないのに、口伝えの話だけで、こんなにも俺たちのことを知っているだなんて、この時代かこの世界よくわかんないけど、なんだかすごいことなんだと実感したのであった。




 エルサレムの町は、中央にそびえ立つ神殿を取り囲むように、城壁があつらえられている城砦都市であった。テレビでみたことのあるような円形競技場のような建物も遠くに見える。こりゃたしかに、「ローマが支配している」だのジェシー兄ちゃんが言ってたとおりだ、と浅学な悠太でも納得せざるを得なかった。

「すごい町っすね、エルサレム・・・・・・巨人でも出てきそうだ」

 今にもあの壁の向こうから、大男の顔がぬっと覗き込みそうな雰囲気だったので、そうつぶやいてみたが、さすがに自分でもアニメの見すぎだと思う。

 するとジェシーが笑って答えた。

「ああ、そうだ。私たちの民には巨人の伝説もある。初代の王デイビッドは、ゴライアスという異国の巨人を倒して最初の王として認められたんだ。そのデイビッドが神への信仰を表明して築いたのが、あの神殿というわけさ」

「マジで巨人がいたんすか!」

 ごくん、と思わず悠太は息を呑んだ。

「伝説だよ、伝説。はるか昔のことだって、心配すんな」

 ジェイコブやトーマスはバカにしたように笑っている。

「それじゃあ、まずは、その神殿を目指して行ってみようか」

 一向は、エルサレムの中央へと進んでいった。



(6へつづく)

2018年3月29日木曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 4   走れ!ユーチューバー!




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 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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 「チーム雅璃羅屋」という若者の集団が活動を開始したのは、それからほどなくしてのことである。

 自分のチームを作ること。その話を聞いて一念発起したジェシー兄ちゃんは、さっそく行動を起こしたのだ。

 一度故郷へ帰って、自分なりの生き方を見つけたいとジョン師匠に申し出たジェシー兄ちゃんに、師匠は喜んで免許皆伝を授けた。

「そうか、ジェシー。私は当局にも目をつけられているし、ここでこういう活動しかできない。お前が志を継いでくれるなら心から応援しよう。ぜひ、故郷へ帰って、地方の若者たちへもこの国のあり方を大いに啓蒙してほしい」

「もちろんです師匠。いつかまた、師匠にも会いにきます。それまでどうかお元気で」

 二人が熱い抱擁を交わすのを、これまたマジテンションぱねえ感じで悠太も見ていた。それから師匠は、心から優しそうな目で、悠太を見つめた。

「悠太、お前も行くのか」

「はい、師匠。これまで本当に世話になりました。とりあえずはジェシー兄ちゃんについていけば、家へ戻れる道へ出られるかもしれないし、一人で行ったらヒグマにやられるかもしれないじゃないっすか。師匠のこと、俺も忘れねえっす」

「そうか、気をつけてゆきなさい。困ったことがあれば、いつでも戻ればいい」

 そうして悠太も熱い抱擁をジョン師匠と交わした。どうやらこの人たちは、熱烈なハグがとても好きらしい。さすがは外人さんだよな、と悠太はいつも思うのだった。

「ああ、そうだ」

 去り際に、師匠は思い出したように言った。

「少し待ちなさい。渡すものがある」

 ほどなくして師匠が持ってきたのは、悠太があの日身につけていた服一式だった。

「特攻服!とっておいてくれてたんすか!」

「もちろんだよ。君の大事な衣服だ。これはしっかりしたものだね。すばらしい獅子のペルシア刺繍が入っている」

「ちなみに、ここに縫ってある文字は、悠太の国のものかい?なんて書いてあるんだ?」
ジェシー兄ちゃんが指差した先には、こう刺繍で書かれている。

『石狩川 小田悠太』

「・・・・・・たいしたことは書いてないっすよ。俺が所属していた学校と、名前だけです。イシカリガワ、オダユウタって書いてるだけです」

「イス・・・・・・カリオダの・・・・・・ユータか。そこが君の故郷なんだね」

 ジェシー兄ちゃんは、にっこり笑ってそう言った。




 それから二人は、十分な荷物を整えてガリラヤへと旅していった。ガリラヤ地方はジェシーの故郷があり、近辺で彼の兄弟やいとこたちがたくさん暮らしているという。ジェシーが言うには、そこでまずは地元のチームを作って、基礎を固めたいというわけだった。

 ジョン師匠たちといた場所も十分田舎のように感じたが、ガリラヤはこの国ではさらに田舎だという。それが 夕張ぐらいの田舎なのか、それとも網走なのか。もちろん悠太にはその田舎具合はさっぱりわからない。そして当然、この物語を読む読者諸君にだって根室と稚内がどれくらい辺境の地かはわからないはずである。もはやそれくらいガリラヤがどんなとこなのかは、悠太にはわからないのだが、すでに今いるここがどこかわからないのだから、そこはもう達観している。


 
 時には荒野、時にはオアシスのような町を、そして時には砂ぼこりの道を旅をしながら二人はいろんな話をした。

「へえ、兄ちゃんのきょうだいは漁師やってるんすか。うちも親戚に漁師いますよ。イカ釣り漁船に乗ってます」

とか

「そうか悠太の運ぶ牧草を巻いたものは350キロもあるのか!そんな重いものは、さすがの私たちでも動かしたことはないなあ」

とか、

「断食をしてみようと試してみたことがあるんだけど、途中で幻覚に襲われてね、あれはキツかったなあ」

とか

「バイクっていう乗り物があるんすけど、あれで走りまわると何もかも忘れられるっているか、楽しいんすよ!こんど馬かなんかでやりましょうよ!・・・・・・あ、そういやロバがそこらへんにいますよね」

とか、本当にどうでもいいような話ばかりして、二人は笑い続けていた。
 


 ガリラヤでは、すぐに地元のチームが結成され、悠太はジェシーの仲間や親族に紹介してもらった。

「みんな、彼はジョン師匠のもとで一緒に修行をした悠太だ。悠太、彼らは地元の友人だったり親族だよ。こちらがピーター、フリップやトーマスだ。漁師だったり、こちらは税務署に勤めていたマシューもいる。弟のジェーコブもいるし、サイモンは過激派上がりだ。彼も武術に長けていて、ナイフの扱いは超一流だよ」

「どうも、はじめまして。悠太です。一人だけ地元民じゃなくて、申し訳ないっすけど」

 当たり前といえば当たり前だが、ジェシーの仲間はみなヒゲ面だったり濃厚な顔立ちをしている、悠太自身はどちらかと言えば自分は掘りが深いイケメンではないかと自分ではこっそり思っていたのだが、ジェシーたちの中では、顔立ちが薄いことこの上ない。っていうか自分が平たい顔に思えて仕方がない。

 あきらかにアウェー感があるなあ、と思いつつ、その分気合で乗り切るぜ!と悠太は決意を新たにする。幸いなことに、みんな明るくてアホそうで。いわゆるインテリじみたメンバーがいないのが気に入った。ここならうまくやっていけそうだ、と悠太も安心したのだ。

 総勢13名のチームは、こうしてスタートしたのである。



 「チーム雅璃羅屋」ののぼりを、慣れない手つきで筆文字で書いたのは、もちろん悠太である。さすがに刺繍の特攻服を揃えるというわけにはいかないけれど、田舎町で若者のチームが結成された噂は、意外と早く評判を呼んだ。

 それも町へ出ていて、あの有名なジョン師匠の元にいたジェシーが帰ってきたらしい。なんでも、ムキムキになっていろんな技が使えるようになっているだとか、あるいは何か不可思議な術を学んできたらしいとか、噂にはすぐにおひれがついて、「チーム雅璃羅屋」は、謎のチーマー集団としてすぐに若者の羨望の的になった。

 悠太としては、ちょっと思っていた「暴走族チーム」のイメージとはズレていっている気がしたが、まあリーダーのジェシー兄ちゃんのキャラクターから言えば、単なる暴走族っていう柄じゃあないか、と意外に納得していた。

 特に評判を呼んだのは、まるでテレビの池上さんのようにわかりやすいジェシー兄ちゃんのニュース解説だった。

 都会ではいまこんなことが起きているとか、ローマの支配がこんなふうに圧力を増しているとか、我々は今こそ国のあり方について真面目に考えねばならないとか、そういう難しい話を悠太にでもわかりやすく「たとえ話」を使って話すもんだから、ジェシー兄ちゃんの話には多くの人が集まって、皆が熱心に聞き入るのだった。

 ジェシー兄ちゃんは、この地方の一人でも多くの人に話を聞いて欲しいといつも考えているので、悠太たちも新しい町でどうやってまずは自分たちのチームが話題になるのかを苦心していた。

「なあ、悠太。地元の人は私たちのことを知ってるけれど、隣の町では私たちは全くの無名だ。どうしたら、話を聞いてくれるかな。何かいい方法はないだろうか」

 13人は、いつもああでもない、こうでもないとネタを考えては、実際に試したりしてみた。

 ピーターが手品をやればウケるんじゃないか、というので、悠太は昔小学校の時にやった二重のコップを使って水とワインを入れ替えるようなネタを必死で思い出したりした。壷の中に皮袋を仕込んでおき、注ぐときに皮袋のほうからワインが出るように仕掛けを作ったりしたのは、大いにウケた。

 そうなるとyoutuberみたいなもので、人々のアクセス数が増えることばっかり考えるようになる。今度は悠太が言いだしっぺになって、長い布を買ってきて、それを湖に浮かべ、誰が水面に浮かべてメンバーの漁船まで走り抜けられるか競争したりもした。

 ギャラリーがたくさん集まり、まるでお祭り騒ぎのようなイベントになった。動画を撮っておけば、お金になったのになあ!と心から悠太が思ったくらいである。

「さあ!よってらっしゃい見てらっしゃい!チーム雅璃羅屋がお届けするビッグイベント!題して水の上を走る男たちのはじまりだよ!。

 岸辺から向こうに浮かべた小船まで、無事にたどりつけられるのは一体どこのどいつだい?さあさあ!賭けた賭けた!出場者は全部で五人!なんだい?そっちのお兄さんも飛び入りで参加するってかい?いいともさ!掛け金は、優勝者に賭けたやつらで山分けだ!さあ、よってらっしゃい!」

 チームのメンバーから飛び入りの兄ちゃんまで、気合十分で岸から布の上を全力で走りぬけようとする。

 でも、その大半が、走りながらどんどん沈んでいくか、叫び声を上げながら布から外れていくかのどちらかだった。見ている観客は大笑いする。チームのメンバーもバカみたいにはしゃいで、アホ面を晒している。両手を挙げてアピールする者、派手に悔しがる者、勝手にそこらへんでビールを売り始めるやつもいれば、果物や菓子を売り出すやつもいた。

 観衆の盛り上がりも絶好調になった頃、まだ誰も成功していないところへジェシー兄ちゃんが自ら手を上げた。

「よし!私も挑戦してみよう!」

 おもむろに上着とサンダルを脱いで、スタート位置につく。そして合図とともに走る、走る、走る。まるで水面が地面かのように、ジェシー兄ちゃんは走った。布は足元に沈み込もうとするが、鍛えられた兄ちゃんの脚力はそれよりも早かった。

「すごい!」

と誰もが歓声を上げる。

「頑張れ!もうちょっとだ!」

 興奮のるつぼの中、ジェシー兄ちゃんはこれでもかというほど走った、走った、そして走った。そしてそのまま倒れこむように浮かべた船の中へ飛び込んだのである。

「うおおおお!あいつはすけえぜ!やりやがった!」

「掛け金総取りだ!誰だジェシーに賭けたやつは!」

「まるで奇跡だ!」

 口々に皆が賞賛し、大いにジェシーを讃えた。奇跡を起こす男、誰かがそういい始めると、その噂はすぐに広まったのである。



(5へつづく)

2018年3月27日火曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 3   ムキマッチョの名は「水没のジョン」



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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


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 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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 小田悠太が、謎の外国人半裸集団と生活するようになって、早くも数週間が過ぎようとしていた。

 相変わらず悠太には、この人たちが何者なのかわからず、あるいはここがどこかなのかもよくわかっていない。ただ、一緒に生活をしていてわかってきたこともたくさんあった。

 悠太が助けられた川のことをずっと石狩川だと思っていたが、ジェシー兄ちゃんは「よるだん川」と呼んでいること。ジョン師匠は、たしかにちょっと変わっているが、ポリシーをもって自分の肉体と精神を鍛え上げようとしていること。そして、師匠を慕ってけっこういろんな人が集まってきたり、野菜やら肉やら、あるいは布やらを持ち寄ってくれているので、生活には困らないこと。

 あいかわらずテレビとかスマホとか、そういうものはなさそうだけれど、たぶんジョン師匠は、そういうものを断ち切る感じでストイックに暮らすことをモットーにしているっぽくて、なんていうか、まあ仙人みたいな人だということである。

 一緒にいる仲間も、ジョン師匠の生活に共感してやってきている人たちで、みんな気のいいおっさんたちであることは間違いない。

 最初のうち、みんな一緒に洞窟の床で寝る時は、『襲われたらどうしよう』と一生懸命おしりを床につけながら貞操を守ろうと眠れなかったけれど、どうやらおっさんたちにはそっちの傾向はないらしく、それよりもむしろ精神と肉体をムキムキにすることにばかり興味があるということがわかってくると、悠太はひと安心するのだった。

 もちろん、悠太もこの間、自分の家に帰ろうと試みたことは何度もある。しかし、行けども行けども荒野ばかりで、どれだけ歩いても道路にたどり着けそうな感じがしない。

 いつもは親父とかお袋の車に乗って移動しているだけだからわかんなかったけども、そりゃ北海道だもの、隣の家まで数キロあることも珍しくないんだから、やっぱり歩いて移動するのは無謀だべ、と考えてあきらめることにした。

 だから、結局ジェシー兄ちゃんたちのところへ戻ってきて、いつもの暮らしに戻ることになるのだった。別に逃げ出そうってワケではなかったので、ジェシー兄ちゃんはケラケラ笑っていつも言った。

「そりゃ、ラクダもラバも使わずに、皮袋に水も持ってないのに歩いてどこまでいけるかって、無謀だよ!悠太は本当におもしろいヤツだなあ」

 それを聞くと、不思議と納得せざるを得なかった。それよりも、基本悠太は勉強も苦手だしあまり賢くないと自分でも思っているので、よくわからないなりに順応してしまっている自分もいた。  

 そりゃ数週間も経ったのだから、youtubeが見たいとか、コーラが飲みたいとか、そういうことも思わないわけじゃないんだけれど、元々強くなりてえ!と思っていたもんだから、ジョン師匠とのトレーニングはマジで身体を鍛えられるし、ジェシーたちががぶがぶワインを飲んでるもんだから、コーラよりぶどう酒ってうめえな、とまんざらでもない気持ちになってきている。先公に見つかったら停学だろうなあ、とは思うけれど、どうにも担任やら親やらがこの集団を見つけてくれる気がしないのだから、あまりもう考えないようにしている。

『そのうち、正気にもどるべさ』

と、深く考えないのは、俺たち不良の特権でもあるのだ、と悠太は開き直っていた。




「師匠!今日もいっちょお願いします!」

 悠太たちのトレーニングは、朝日が昇ると共に始まる。よるだん川の河川敷で、とっくみあったり、重い石を持ち上げたり、相撲やレスリングのごとく仲間たちでぶつかりあったりするのだ。互いに鍛え上げるうちに、シックスパックだかシックハウスだか知らないが、なんせ腹筋は六つに割れ、上腕二頭筋も大腿筋ももう説明できないくらいえらいことになっていくのが自分でもわかる。

 そして、総仕上げはいつもジョン師匠に向かって突撃するのだが、師匠には誰もかなわず、向かってゆくものは全員軽々と川へ放り投げられては、水没していくのであった。

 ムキムキとはいえ、初老のおっさんだからたいしたことはないだろうと悠太もたかをくくっていたが、飛ばされるわ投げられるわ、くるくると回転させられるわ、完全に手足も出ない。

 後で聞いたところでは、ジョン師匠は俗世で「水没のジョン」と呼ばれているらしい。なんでも、片っ端から彼に挑む者をよるだん川に沈めてきたからだという。


「まだまだ!根性が足りん!その根性を改めよ!」

 ジョン師匠の口癖は、「根性を改めよ」だった。

「強くなれ!心を鍛え上げろ!」

「何者にも惑わされず、心を貫け!」

「神の国は近いぞ!」

 ・・・・・・いい事は言ってるんだけど、ジョン師匠ってちょっとネトウヨなのかな、とも悠太は思っている。「根性を改めよ」の次によく出てくるセリフは、「神の国が近づいた」だしなあ。ちょっと宗教がかってるところもあるけど、まあいいや。俺は頭よくないからよくわかんねえ。

 ジェシー兄ちゃんにも尋ねたことがある。

「師匠が言ってる神の国ってどういう意味?」

「悠太、いい質問をするねえ。悠太の国にはどんな神話があるかわからないけど、私たちの民族に
は『神様がこの世界を作った』という神話があるんだよ。民が正しいことをしてれば、神様はきっと私たちを救ってくれるし、民が過ちを犯せば神の心は離れる。悠太はまだ町へ行っていないからわからないかもしれないが、この国は近年外国人の侵略を受けて、彼らが支配するようになってしまったんだ。だから私たちは、神様に背かず生きようと考えるんだよ」

 そうか、自分が気を失っている間に、北の国かどこかがミサイルを撃ち込んだんだな、と悠太は思った。あるいはどこかの国が、センカクだかタケシマだかにすでに攻め込んで来たのかもしれない。だからあんなに、ネトウヨが「外国人を追い出せ」と言っていたのか、とやっと夏休み前にニュースでやっていた話を思い出した。

「知ってますよ。神様が国を作った話。大丈夫、っすよ。日本は神の国だから、神風がきっと吹くっす」

 たしか、そんなことを学校で勉強した記憶がある。日本史の授業で淡路島とかが最初にできた話とか、昔に外国軍が攻めてきたのに、台風が吹いて追い返したとかそんな話だ。

 そうだそうだ。だから特攻服には旭日旗が縫い付けてあるんだ。

「そうだね。ニホンってのは何かよくわからないけど、私たちは神の国に生きていることは間違いない。神様を敬わないといけないよね」

「おっす。俺も今度、神社にお参りするっす」

 悠太はこくんと頷いた。外国人が攻めて来ているのなら、石狩川高と北斗星学園とで争っている場合じゃねえな。もっと力を合わせて、立ち向かわないと!

 本気でそう思った。そして、もっとニュースをしっかりテレビで見ておくんだった、と後悔するのだった。

「なあ、悠太。私はね、師匠のことは尊敬しているがこれで終わりにしたくはないんだ。師匠は権力からは煙たがられているから、こうやって荒野に身を置いているが、私はもっと町へ出てみんなとこの状況について話をしないといけないと思っている。

 ローマに支配された我々の民を取り戻すには、人々の意識を変えないとダメだと思ってるんだ」

 ジェシーは、それを聞いてちょっとだけ遠くを見つめながら、しかし力強くそう言った。

「チームっすよ」

 そこで悠太は言う。

「チームっていうか、族っていうか。メンバー集めてグループを作ればいいんすよ!ほら、師匠だって自分の仲間を集めてチーム作ってるっしょ。俺だって以前は、番張ってたんすよ。まだ3年生がいるから、あんまり粋がったこともできなかったけど」

 それを聞いてジェシーは、ちょっと驚いたような顔をした。

「チームか!私のチーム。それはいいね。仲間を募って活動すれば、心強い。悠太、それはとっても面白いよ。私が自分のチームを持つなんて、考えたこともなかった!」

「俺、もしジェシー兄ちゃんのチームができたら、入りますよ! 俺、体動かすぐらいしか能かないけど。あ、あと暗算が意外とできるっす。俺、石狩川では商業科だったんで。」

 へへへと笑う悠太の手を取って、ジェシー兄ちゃんはしっかりと目を見ていった。

「ありがとう悠太。君のおかげで、私の人生の目標が見つかった。・・・・・・私はね、ガリラヤのナザレっていう小さな町の貧しい大工の家に生まれて、ずっと何かビッグになることがしたかったんだ。それも、ただ大きな名声を得たいんではなく、人々の助けになるような。馬小屋で生まれてね、父も母もとてもいい人だったけど、それは苦しい暮らしだったよ。それから二人はできちゃった結婚だったので、当初はずいぶんと周囲に後ろ指をさされたらしい。」

「へえ!ジェシー兄ちゃんも馬小屋で生まれたんすか!俺も牛小屋ですよ。お袋が乳搾り中に産気づいて!酪農なんて借金ばかりで、暮らしが大変なのは一緒です。・・・・・・でも、ジェシー兄ちゃんはすごいっす。俺だってビッグになりたい!って思ったけど、実際はケンカで勝つことしか考えてなかったから」

「そうか!悠太は牛小屋で生まれたのか!そりゃあ、おんなじだ!」

 ジェシー兄ちゃんはそれを聞いて楽しそうに笑った。悠太も大笑いした。悠太から見れば、似たような境遇なのにグレなかったジェシー兄ちゃんは偉い、と心から思えた。この人は本当に熱い人で、そしていい人だと、悠太は本当にそう感じたのだった。



(4へつづく)

2018年3月25日日曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 2   ジェシーにいたん、とフルメンバー



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 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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「おい、大丈夫か?しっかりしろ!」

 誰かが、自分の体を大きく揺さぶっているのをまるで他人事のように思いながら、最初、悠太はぼんやりとその声がしているのを聞いていた。

 ・・・・・・何か声が聞こえるなあ。なんだべか。これ、誰の声だっけ。

 ・・・・・・クラスのやつにしては、聞いたことのない声だし、それよりもう少し寝かせてくれや・・・・・・。

 だが、胸を強く押されて

「げほっ!」

と大量の水を吐いた瞬間、それが自分の意識であることに気付いて、ゆっくりと目を開けた。

 そこには悠太を覗き込むヒゲ面の兄ちゃんの姿があった。 いや、厳密に言えば、ヒゲ面どころか、たぶん胸毛も濃いだろうなと思わせるような、日本人離れした、いや、ぶっちゃけていえば日本人ではない、あきらかにどこからどう見ても外国人の兄ちゃんが、自分を抱きかかえているらしい。

 ほの明るい日差しと陽気が水で濡れた悠太の身体をふんわりと温めている。もう、朝になったのか。俺、どんだけ寝てたんだろう。そんなことをぼんやりと想っていると、兄ちゃんが喋った。

「ああ、気付いた!よかった、大丈夫か少年」

 ・・・・・・なんだこの外人さん。日本語超うめえじゃん。観光客かな。

 薄目がちに外人さんの兄ちゃんを見ようと気持ちだけはするのだが、まだ悠太にはその体力が戻ってはいなかった。

 とりあえず、生きてたっぽい。その安心感からか、悠太は再び意識が遠のくのを感じていた。・・・・・・石狩川と北斗星の戦いは、どうなったんだろう。でもまあ、なんかよくわかんねーけど、今はとっても眠いんだ・・・・・・。

 そのまま、悠太は意識をまた失っていた。



 次に悠太が気付いた時は、毛布のようなものをかけられて寝かされている自分の姿だけで、周囲には人の気配がなかった。

「ここはどこだ?病院じゃねえな」

 ゆっくりと身体を起こそうとするが、昨日暴れ倒したせいか、体が痛くてうまく起き上がれない。毛布だと思っていたのは、もう少し織り目の荒いよくわからない布だし、身体が痛いと思ったら、寝かされているのはおそらくは岩の上だ。

 身体はズキズキするし、背中はゴリゴリする。おしりだって体温を吸われてやや冷たくなっている。
 さっきよりは幾分と目が慣れてきたと思えば、自分がいるのがなんだかほんのりと光が入る洞窟のようなところだとわかってきた。

「なんだここ・・・・・・。イテテテ」

 まだ、事態がよく飲み込めない。よく見ると、悠太自身は特攻服やら制服を脱がされ、これまたなんだかよくわからない麻布のような茶色にくすんだ服をまとわされている。手足は乱闘のせいか痣だらけになっているし、これまたよくわからない油のようなものを塗られているところもある。思わず匂いをかいでみると、意外にいい香りがする。

『オリーブオイルみたいだ』

と悠太は思ったが、なんで自分の体にオリーブオイルが塗りたくられているのか全く意味がわからなかった。

 ゆっくりと立ち上がってみる。すると、どこかからか美味しそうな匂いがただよってくるのを感じた。薄暗かった洞窟だが、明かりの差してくる方向がある。どうやら、あっちが外らしいなと思いながら、悠太はゆっくりと歩き出した。はだしのせいか、洞窟の岩がやたら冷たく感じられた。

 それにしても、昨日の決着はついたのだろうか。その前に石狩川の河川敷に洞窟なんてあったっけな。それとも、いくらか流されて、知らない所に流れ着いたのかな。そういえば、さっき外人さんの兄ちゃんに声をかけられたけど、あの人はどうしたんだろう。

 いろんなことがぐるぐると頭を回っているが、まだ全然すっきりとはしない。ただ、美味しそうな匂いにつられて、本能的にふらふらと歩いてゆくだけである。

「誰か、河原でジンギスカンでもやってるんだべか」

 そう!そうだ。これはジンギスカンの匂いだ!そう気付くと、悠太はちょっと元気になった。北海道民のソウルフード、ジンギスカン。たれでもいい、最近なら塩で出すところもあるが、ジンギスカン鍋でたっぷりの野菜とともに食うジンギスカンは、命の源と言っていい。

 ちなみに美食家たる読者のために豆知識を披露することが許されるなら、ジンギスカンには「生肉タイプ」と「たれ漬け込みタイプ」とでっかいハムみたいに見える「冷凍ロール肉タイプ」の3種類ある。悠太はもちろん、生肉タイプに目がない。だが、値段が高いので、仲間内でジンギスカンをやるときはロール肉しか食べられないのが残念でもあった。



 ところで洞窟を出た悠太は、目を疑った。石狩川沿いのどこかだと思っていたが、見渡す限り北海道らしい初夏の緑はまったく見えず、どちらかといえば砂っぽい黄土色の荒野が広がっている。たしかに緑らしいものはすこし点在しているが、ほんのわずかで、そもそも道路が一切見えないのだ。

「なんだこれ!石狩じゃねえのか?」

 一体、どこに連れてこられたんだ。そう思うと急に怖くなったが、その瞬間に腹がきゅうううと鳴って、体は正直なもんだなとちょっと呆れた。煙が立ち昇っているのは、すぐ近くの岩陰のようだった。ジンギスカンをやっているとすれば、あそこか。

 だが、岩陰をひょいと覗いた悠太は、さらにめまいを覚えた。なんだ。なんなんだこれは。

 そこには、半裸に布をまとったような、悠太からみれば原始人のような格好をしたおっさんが数名、焚き火を囲んで焼いている肉にかぶりついていたのである。

 それも、肉はたしかにジンギスカンの匂いではあるが、たれ漬けでもロールでも、あるいは生肉タイプのどれとも形容しがたい、もっと巨大な肉塊をナイフでそぎ落としながら、焚き火の周りで石の上やら木切れにぶっ刺した形で、肉片は焼き焦がされているのである。

 そして、その全員は、悠太の知っている北海道の人間でも、あるいは観光客でもなく、全員が外国人の毛深いおっさんなのである。おまけに何度も言うが、半分裸族のため「これでもか」と言わんばかりにあちこちから毛やらなにやらがはみ出しているのだ。もはやはじめ人間なんとかの世界のほうが近いくらいで、全く意味がわからないにもほどがある。

「おお!少年!気が付いたか」

 おっさんたちの中で、悠太を見つけて笑顔で駆け寄ってきた人物がいた。見覚えのある外国人の兄ちゃんだった。彼だけが、おっさんたちの中でやや若く、ちょうど20代後半から30代前半くらいに見えるのだが、外国人の年齢は悠太にはちょっとわからない。いや、そもそも、原始な人たちの年齢は、ちょっとどころかさっぱりわからない。

 それでもその兄ちゃんは、駆け寄るなり悠太に熱いハグをした。満面の笑みで、本当に悠太が助かったことを喜んでくれているように見えた。

「良かった!とにかく元気そうだ。ちょうどいい、みんな食事をしているところだから、一緒に食べよう!今日は、いい羊肉が手に入ったんだ」

 兄ちゃんは相変わらず流暢な日本語でそう言った。すると、兄ちゃんのうしろから、ちょっと体格のいい、マッチョな初老のおっさんが顔を覗かせた。

「少年、君は溺れていたのだが、その感じなら大丈夫そうだな。旅の者か?我々とはかなり違う服装をしていたようだが、ペルシアから来たのか?」

 おっさんは、上半身裸で、鍛え抜かれた体がオイルでぬらりと光っている。

 ペルシア?なんだそれ!〇ルシアなら緑茶だけどもさ。

 混乱している悠太に、兄ちゃんが笑顔で語りかける。

「少年、この人は私の師匠だ。ちょっと変わっているが、信頼できる心配ない。ジョンって言うんだ。ああ、それから俺はジェシー。あとで向こうのみんなも紹介するが、ここで一緒に暮らしている。君はずいぶんと遠くから来たようだが、エジプト方面の格好じゃないな」

 何を言っているのか、悠太にはさっぱりわからなかった。

 いや、確かに言葉はしっかりとわかるのだが、ペルシアだのエジプトだの。北海道は、日本はどうなったんだ。石狩支庁は、札幌は、小樽はどこへ行った!

 だが、ここで何も言わないのは、さすがに助けてくれた兄ちゃんたちに失礼だということは、悠太にもわかっている。だから必死の思いで、伝わるかわからないけれど悠太は伝えようとする。

「お、俺は・・・・・・、小田悠太です。助けてくれて、ありがとう。本当に感謝しています」

 そう悠太が言うと、師匠と呼ばれたジョンと、ジェシーは驚いた表情を見せた。

「少年!君はヘブライ語が上手いな!東方なまりが全くない!こちらに誰か身内の方でもいるのか」

 ヘブライ語?フビライハン?

 やっぱり何を言っているのかわからない。さすがの悠太も、もっとしっかり英語を勉強しとけば良かった!と後悔した。ディスイズアペンと、アッポーとパイナッポーしかわからないのは、さすがに恥ずかしい。

「ご、ごめんなさい。ちょっとよくわからないです」

 わけがわからず、悠太はおじぎをしたままうつむいてしまう。

「まあ、頭を打ったんだろう。そのうち記憶もしっかりするだろうて。まずはしっかり食事を取るといい」

 ジョン師匠が、肩をぽんぽんと叩いて促してくれた。たぶんそうだ、記憶とか、そういうのがおかしくなってるんだ、と悠太も自分にそう言い聞かせた。

 きっと、そのうちにちゃんと思い出すだろうし、この人たちのことも理解できるに違いない
、と。

「さあ、悠太。歓迎するよ、とりあえずは、私たちと一緒にいれば大丈夫さ!」

 ジェシーはにこにこしている。少なくとも、彼は悪いヤツには見えないのが安心だった。

 ジェシーって、そういえば昔アメリカのテレビドラマにおなじ名前の人がいたよな、と悠太は酪農作業をサボって見ていたテレビのことを思い出していた。3人のおっさんだか兄ちゃんと、女の子ばかりの3姉妹の話だ。

『ジェシーおいたん、だっけか』

 厳密に言えば、悠太は聞き違いをしているのだが、それはこの際どうでもいいことだった。ジェシー兄ちゃんは、厳密には「ジョシュア」と発音したのだが、悠太には聞き取れなかったのである。ジェシーとジョシュアは、アメリカ人の名前としても別の読み方なのだが、それは試験には出ないので気にしなくていいことである。

 『でも、そういえば、ここの人たちテレビとか冷蔵庫とか、そういう類のものがまったくなさそうなんだけど、どうしてなんだろう。肉だって、せめてバーベキューコンロで焼こうぜ。これじゃあ、完全にただの焚き火だべ。』

 火を囲みながら、男たちは談笑している。おずおずと悠太も輪に入る。

 でも、羊肉はうまい。勧められてかぶりついた肉の塊に、悠太は夢中になった。『たれ』はなかったけれど、荒く砕かれた岩塩だけの味付けも、また格別だ。

 これだよ!これこそ、北海道の味だべさ!、と悠太もやっと笑顔になった。



(3へつづく)

2018年3月23日金曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 1 序章  ”紀元前前前世な君の名は! 全世界が泣いた慟哭のラスト必見な荒野のファンタジー”



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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


■ はやく続きが読みたい人は↓ べ、べつに課金なんかないんだからね。

 https://talkmaker.com/works/b0c04591422427ceda5bc3fbf689e1ff.html




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 「ヤンキー小田悠太の慟哭」


1 序章


 それは、夏休み最初の夜中のことだった。おりしも満月はこうこうと夜を照らし、石狩川の両岸に集結した総勢100名以上の不良軍団の姿を不気味に浮かび上がらせていた。

 北海道の夏は短く、不良たちの気は短い。

「おらあ!かかってこいやあ北斗星!」
「なんだと!この石狩鍋!チャンチャン焼にしてやるべ!」

 お互いに口汚く罵り合うのは、道内でも一・ニを争う不良・ヤンキー・鼻つまみ者の巣として知られた北斗星学園と石狩川高校の面々であった。それぞれ竜虎をあしらった純白の特攻服や、あるいは今や絶滅したと思われた短ランとボンタンズボンに身を包みながら、今か今かと会戦の火蓋が切られるのを待っている。

 本来なら、どちらも信仰に篤いキリスト教系の私立ミッションスクールである両校の生徒であれば、品行方正・清廉潔白・文武両道・天真爛漫な生活を送っているはずであるが、そこはほら、家庭に事情のある生徒や中退者、あるいは元の学校で不登校になったといった問題を抱えた子供たちを全国から積極的に受け入れていた結果、多分に漏れず思わず母校に帰りたくなるようなヤンキー高校が出来上がってしまったのは想像に難くない。あまつさえ、そんな高校が石狩川をはさんで2つも存在するものだから、両校の生徒が真夏の夜の夢のごとくぶつかり合うのは、夏休みの恒例行事のようになっていた。

 かくして罵り合いと叫び合いは、一層の激しさを増し、ついにその戦いがスタートすることになる。

 「はんかくせえ!やっちまうべ!」

 そう叫びながら、飛び出していったのは石狩川高校2年の小田悠太だった。悠太は、北斗星学園の木刀軍団がひしめく対岸へ向かって、ざぶんと川へ飛び込んだ。それが合図になったかのように、両岸の生徒たちは奇声を上げながら全員が川の中へ突進を始めたのである。

 そうなったら後は、上を下への大乱闘となることは必定である。それはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図、あるいは爆発する青春の血と汗と涙に相違ない。

 ある者は鉄パイプやら木刀やらを振り回し、とはいえ清流に足を取られながらひっくり返る。またある者は素手で相手高の生徒を殴りつける。そしてまたある者は、相手に馬乗りになろうとして飛び掛りながらそのまま川の中へ落とされるなど、絵に描いたようなヤンキー大戦争が繰り広げられるのであった。

 「うおおおお!」

 悠太も、大声を上げながら一番首を狙って敵陣へと突っ込んでいく。もっとも、もはや敵将が誰かなんてわからなくなっているので、相手なんて誰でもいいのだ。水面に叩きつけられる木刀をかいくぐり、アタタタタ!と繰り出される拳の嵐から身をかわしながら、北斗星高校の生徒に体当たりし、頭突きを食らわせながら進軍していった。

 誰かよくわかんねえけどぶん殴る。

 誰かよくわかんねえけど張り倒す。

 誰かよくわかんねえけど蹴り上げる。

 その時だった。

「悠太!危ねえうしろ!」

 誰かの声がして、とっさに振り向く。北斗星高校随一の巨漢がまさに両手で悠太に掴みかかろうとしていた。のけぞるように体をかわす悠太は、

「俺のハートに火をつけやがって!」

と今度は逆に巨漢のお腹目がけてタックルすべく飛び掛っていった。

 だが、その攻撃は実を結ばなかった。

「ぐふっ」

 悠太は、自分の体が水中に浸かるのを感じた。川底の石に生えた藻に足をすべらせて、そのまま顔面から水面に突っ伏したのである。ビチャン!だかバシャン!だが、ジャボン!だか、激しい水音がして、急激に自分の三半規管が機能を失うのを知った。

『・・・・・・やべえ』

 水を呑んだ。どっちが上かわかんねえ。俺、もしかして溺れたのか。このまま死ぬのかな。息が苦しい・・・・・・。

 そんな考えが一瞬のうちに脳裏を駆け巡る。真っ先に思い出したのは、実家の牛たちとサイロだった。草原のごとく広がる農場と、親父とお袋と、あれだけ嫌だった牛舎の掃除をしている自分と、ぐるぐる巻きになった牧草ロールと、それから、それから・・・・・・。

 悠太を構成する全ての記憶が、映画のように次々に見えるのを感じた。これが、走馬灯ってやつか。走馬灯って何かわかんねえけど。

 酪農なんて継ぎたくねえ!と暴れた中学生時代。盗んだバイクで走り出した十五の夜。嫌々ながら入った石狩川高校だけど、不良仲間と花見しながら5月に食ったジンギスカンは旨かった。なぜ花見が4月じゃないかって?そりゃあ寒い北海道だからに決まってるべや。

 そして、一人の女の子の横顔が浮かんだ。牧田真理恵、クラスのヒロインで、清楚な美少女。悠太がひそかに想いを寄せていた制服姿の真理恵が、学校に併設された礼拝堂のステンドグラスからの光を浴びて微笑んでいる姿だった。

『・・・・・・ああ、俺、やっぱり死ぬんだべ。最後に、真理恵ちゃんに告っとけばよかったなあ』
 悠太は、そのまま意識を失っていった。


(2へつづく)

2018年3月15日木曜日

いくら賢くても感情には勝てない。 ~秀才や天才に訪れる闇と病み~



 お久しぶりです。みなさまの武庫川散歩でございます。



 先日テレビに出た話をちょこっとしましたが、放映中から私のところへ


「お願いですから私の過去世を鑑定してください!」

「テレビ見ました!私も、読み解いてください!」


という依頼が山盛り殺到して、 もうしっかちゃめっちゃかになっています。


 再放送を含めると、視た人がつぎつぎにメールをくれるもんだから、現在



 「解脱者☆武庫川散歩の、現世過去世、全部言っちゃうね!」(←嘘)な依頼者がすでに150人待ち!という凄いこと



になってしまい、 最初の「ご依頼ありがとうございます」メールの返信だけで数日かかるという



苦行



が始まっている状況。


 こんなブログを書いている暇はないのですが、ええ、ええ現実逃避です。




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 あと、個人的な私信です。



雑誌掲載、ひとつき遅れて6月号になるそうです。


5月号に出るよ~とアナウンスした方、ずれるそうなので、よろしく。


「武庫川散歩の、これであなたもウハウハ大儲け!札束の扇子でボディコン(古)はべらせておったまげー!」


なバブリー記事は、全国の本屋さんに並ぶそうですよ。



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 さて、話は変わって森友問題


 ・・・・・・変わりすぎるくらい話題変わるな!という突っ込みは置いといて、そうですよ、森友問題です。


 財務省が、公的文書を書き換えてしまい、国会も大騒動になっていますが、よくうちのおかんが言うセリフがあります。



「なんていうか、こう世の中というのは賢い人たちがちゃんときちんと動かしてるんとちゃうの?」


と。



 ですよね~。東大やら京大やら、賢い大学を出て、公務員の上級試験に受かって、勉強も出来る人たちがなんでルールを犯すようなマネをするのか。


 あるいは、文系だけでなく理系でも、賢い研究をして、難しい設計をした原発が、なんであっけなく津波で壊れて「想定外」とか言えるのか。だいたい賢い人はそういうことも想定してるんとちゃうの?とか。


 はたまた、国会運営にしても、金も権力もある人たちや、地方からたたき上げて出てきた国会議員たちが寄ってたかって考えても、今の日本のこのザマだとか。



Q「なんで賢い人たちがたくさんいるのに、この世の中はうまく回らないのですか?」



 という疑問が、沸かずにはいられません。




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 その答えは、とても簡単で、 解脱者的に言えることはたったひとつです。



「いくら賢くても、人は感情に勝てない。頭脳は本能に負ける」


ということです。


 人の脳みそは、中心部分が古い動物的脳みそ、外周部分が「大脳辺縁系」といって新しい知性を有する脳みそだとされています。


 たしかに人類は、知性と学術、技術においてはどこまでも進化を進めてきましたが、中心にある本能的な動物脳はけして変わっていません。



 なので、いくら賢くなっても、お勉強ができても、中心部分の脳みそは動物的であり、それは学力とは比例しないのです。



 ですから、賢くて偉い公務員のみなさんでも「首相夫人」に忖度してしまうのです。


  理性で言えば、首相夫人だろうが、国会議員だろうが盛りかけどっちでもなんぼのもんじゃい!わしが言うこと聞くのは法に基づいてのみじゃ!となるのでしょうが、ついつい



「あ、じゃあ、うまいことしときます。はい」



とやってしまうのは、感情のなせるわざ。



 原発がメルトダウンしてるのに「し、してないと思うよ?」といつまでも認めないのも、これまた人間の情の弱さです。


 あんなもんいっぱしの学者ならみんな「メルトダウンしとるやろ」とすぐ推定できるのに、(あるいは社内の人間だってそう、みんな気付いているのに)それを口にできないのも人間の弱さなのですね。


  時には自分の身が可愛くて保身したり、あるいは権力というあるのかないのかわからないものに畏怖を感じたり、人間は悲しい生き物なのです。




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 そんなことを思い出したのは次の記事を読んだから。




棚村彩加さん 「東京芸術大学の学生生活は本当に病むから気をつけたほうがいい」
http://ayaka-tanamura.net/geidai-seikatu/




 芸大生やゲージツ家というのは、自分の世界を生きるものだと思っていましたが、そういう人たちですら、「勝ち負け」に囚われたり、自分の立ち位置に心奪われたりするのですね。


 それなら偏差値に溺れたり、社内政治に苦悩したり、絵が描けるか描けないかで悩むのは、なーんにも違わないということになります。


 すべて人は等しくどうでもいいことに悩むのです。



 この棚村さんの文章にインスパイアされて、パロディめいた書き方をしている東大の方がいて、こっちも面白いです。



はてな匿名 「東大の学生生活は本当に病むから気をつけたほうがいい」
 https://anond.hatelabo.jp/20180314001059



 これを見ての今回の森友問題の話しに通じます。



  なんだ、賢いって、本能には勝てないんだ。


 知性はさみしさに勝てない。


 
  コミュ力のない学力は、無能。




 そうすると、人を幸せにするのは、もしかすると「本能」の部分、感情を司る部分にこそ秘密があるのではないか、と思うのですね。




 そりゃそうです。AI(人工知能)は幸せを感じません。幸せとは何かすらわかりません。


  幸せの定義をできるのは感情以外にないのですから、人は知性を失ってでも、幸せにはなれる、ということなのです。




 だから解脱者は、ものごとにこだわらなくても大丈夫なんです。持てるものが少なくてもよい。


 賢さはほどほどでも良いのです。あるいは思いっきりバカをやることも、幸せに通ずることもあろうというものです。


 

 あのフロイト先生が「人間はちんこである」と言った(←だいぶ違う)ことも頷けます。


 性欲のような根幹的欲求こそが、つまり本能的感覚の部分こそが、人を人たらしめているのではないかと。



 
 ある友人が「花が美しいのは、なまなましいエロスを秘めているからだ」みたいなことを言ったことがありますが、そういうことです。



 花に知性はない。花は本能だけで、たしかに美しい。


 

  美しい人生を~♪、限りない喜びを~♪得るために必要なのは、本能的感覚と感情なのです。


 (by松崎しげる)

2018年3月14日水曜日

ホーキング博士が亡くなられました。



 車椅子の天才物理学者としてよく知られるスティーブン・ホーキング博士が亡くなられたそうで、お悔やみを申し上げます。



 ホーキング博士といえば、「ブラックホール」についての言及が有名な方で、メディアにもよく出ておられたので、知っている人も多いと思います。



 とはいっても、私のような世を忍ぶ仮の姿で暮らしている庶民としては、ホーキングの言う、「無境界境界条件」とかなんとかについては、全然理解できないのでスルーです。



 ただ、この世の成り立ちを解明する、解脱者の立場としては、ホーキングの言うところの


「この世界の始まり」とか


「時間順序保護仮説」とか


については、一定の解説を行っておく必要がありましょう。


「武庫川宇宙を勝手に語る」なので、ホーキングの説と厳密に合致しているかどうかは、怪しいものですが。




 ホーキングの主張についてはウィキに素人さんでも分かりやすい例題が載っていたので、それを引用しながら書いてゆきたいと思います。




 たとえばこれ。ホーキングによれば


”時間順序保護仮説によって過去に戻るタイムマシンは不可能という立場をとっている。これは「我々の時代に未来からの観光客が押し寄せたことはない」ことからも裏付けられるとしている。” 

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0



 となっているタイムマシン問題。


 武庫川も過去には戻れないという立場をとっています。



 武庫川は自称他称を問わない歴史学者としてこっそりと活躍してもいますが、過去のことをやたらほじくっているわりには、


「いくら過去に長ったらしい人類の歴史があったとしても、すべては現在今ここに存在するものが全てである」


と考えています。つまり、過去というのは記録や記憶の中では存在しているが、実はあってないようなもので全ては現在に集約できる、というのです。


 どういうことかといえば、たとえば地球に存在する元素の数は有限で一定だと考えてください。

 多少宇宙から降り注いできて、わずかに元素が増えたり、ロケットが飛んでいってわずかに減ったりはしているものの、おおよそ地球上の「何かを作るための材料は一定」だと考えられます。


 そうすると、雨が降って川になって海に注いで蒸発して雲ができてまた雨になる、みたいな話しと同じで、地球上の元素は常に「おなじものがぐるぐる回っているだけ」ですから、たとえば源頼朝だろうが織田信長だろうが、その時彼らを構成していた元素は、そのときたまたま頼朝や信長の中に入っていただけで、だいたい概ね今でも日本にあって、今の誰かの身体を形作っているわけですね。


 たぶん、信成くんの中にも入っていると思います(笑)


 すると歴史上存在した祖先やら、信長やら、関が原の戦いやらは、「歴史上はそこにあった事実」であることは間違いないのだけれど、


 元素が、たまたまその時にそこにあったときの形態を示すもの


に過ぎません。川の一滴が、以前雲となって吸い上げられる前に海にいたんだよ、という事実があったとしても、それはただの履歴であって、今は川にそれはあるわけです。


 ということは、地球上の元素の総和が常におんなじということですから、存在しているのは「長ーい地球の歴史」なのではなく、


 今、地球がただここにあるだけ


という考え方もできるのです。


 何十時間も費やしてクリアしたRPGゲームが履歴としてはたしかにプレイしたんだけれども、存在するのはただ一枚のCDROMやら、カセットがぽつんとあるだけ、ということに似ています。


 これがムコキング博士の仮説です。ですから、タイムマシンは作れない。過去なんてないんだから。



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 さて、宇宙はビッグバンから始まったことになっているのがホーキング流。


 ムコキング的には、すべては記号ですから、記号がただ一点「あ」という文字のようなもので存在しているだけではセカイは構築できないと考えます。


 あいうえおかきくけこ・・・


ユニットを組める複数の記号体系が生まれなければ、セカイは存在できませんので、こりゃ記号野ビックバンのようなものがなければ無理だ、ということも重要です。



 宇宙が膨張しているというのはよく知られた話ですが、ムコキングの記号ビッグバンも、「記号は膨張しユニットをどんどん増殖させる」と考えています。かなり似ていますね。

  0と1しか表現できないはずのコンピュータが、膨大な量のデータへと変貌するには、この記号の増殖がなければ不可能です。

 いつまで経ってもスイッチのオンオフしか表現できないのならば、コンピュータの中のセカイは成立しないからです。



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 最後に死を迎えたホーキング氏が、いのちをどのように考えていたか、引用しましょう。


”人間の脳について「部品が壊れた際に機能を止めるコンピューターと見なしている」とし、「壊れたコンピューターにとって天国も死後の世界もない。それらは闇を恐れる人の架空のおとぎ話だ」と否定的な見解を述べ、改めて宗教界との認識の溝を示した。”

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0


 私もそう思います。#metoo