2018年4月2日月曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 6   エルサレムの商人




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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「なんなんだ!これは!許さない、絶対に私は許さないぞ!」

 めったに感情を荒立てることがないジェシーが怒りに震え始めたのは、エルサレムの神殿へ登ってほどなくのことであった。

 エルサレムの神殿の周囲は、さながら祭りの縁日のようで、たくさんの出店でにぎわっている。神殿にお参りに来ている人たちも多く、あたりは人、人、人でごった返していた。

 その神殿の様子を見て、ふだんのジェシーとは明らかに違う気迫で、彼がブチギレているのが、悠太にもすぐわかった。

 これほどまでに彼を怒らせているのはいったい何事ゆえなのか、悠太は最初、さっきまでご機嫌だったのにマジで意味わかんねえと思っていたが、じっと観察しているうちにそれがおぼろげながら、次第に理解できるような気もしてきたのだった。

「ほら!どうだい傷一つない上物だよ!とれとれピチピチ新鮮な動物たちだ」

 出店で売られているのは、牛や羊や鳩といった動物たちだった。それからなにやらチャリンチャリンと小銭を扱っている両替商のような屋台もやたら出ている。

「ねえ、あの鳩にしましょうよ!毛並みが美しいわ」

「どれどれ、よーしわかった、カワイイお前の頼みなら仕方ないなあ」

 そんなことを言いながら、金持ちそうなおっさんと若い女が動物を品定めしているのも見えた。

「悠太、あれはな、これから神殿で捧げる犠牲の動物を買ってるのさ。それからローマの硬貨をそのまま神殿に捧げたら異教徒のものだからまずいので、両替商もたくさんいるんだ」

 リーダーの機嫌があまりよろしくないのを察知したメンバーのピーターが、そっと耳元で教えてくれる。

「犠牲ってどういうこと?」

「焼くんだよ、祭壇で。」

「食べるのかい?」

「いいや、俺たちは食べねえ。食べるのは、まあ神様だな。生きたまま火にかけるとそれ
が神様のごちそうになるってわけだ」

 ピーターがそう言うと悠太は思わず声を上げた。

「食べないのに焼くの?動物虐待じゃん!」

 それでジェシーは怒ってるのか、と思いかけた悠太だったが少し気持ちを抑えたようにジェシーが会話に入ってきた。

「動物達が捧げものになることは、この国の信仰ではおかしなことではないんだよ悠太。私が気に入らないのはそこじゃない。見てみろよ。あの商人どもの顔つき、それから買っている客も客だ。まるで宝石や毛皮の服を選ぶかのように、下品な笑顔で品定めをしているだろう」

「本来、犠牲を捧げるってのは、もっとこう、おごそかで真剣なものなんだ。自分の持っている一番大事なものを差し出す、そういう感じかな」

 サイモンもそう付け加えた。

「悠太、君の一番大事なものはなんだ?」

 急にジェシーが、そう尋ねた。悠太はちょっと考え込んだが、すぐに答えた。

「こっちへ来る前なら、家族の顔とかが思い浮かんだかもしれないけど、今はやっぱり一人ぼっちなので自分の命かな。そりゃあ仲間とかそういうのも大事だけどさ」

「そうだろう。命だ。だから動物たちの命を神に捧げるんだ。それがあんな風にただの商品としてやりとりされているなら、神様が本当に喜んでくれると思うか?」

 確かに、ジェシーの言うとおりだと思った。

「へへへ、毎度ありがとうございやす」

「お兄さん、買ってってよ!」

 両替商の顔も、動物商の顔も、醜くゆがんで見える。チャリンチャリンと金貨や銀貨の
音がするたびに、動物たちの哀しげな鳴き声がやるせないものに聞こえてくる。



「これが、エルサレムの、神殿の実態だなんて」

 握り締めた拳を震わせてジェシーがうつむいている。

「何が神の国だ。何が修行だ。私は何にもわかっちゃいなかったんだ」

 ジョン師匠の顔が思い浮かんだ。

「根性を改めよ、だね、ジェシー」

師匠である彼の言葉を知っているのは、ジェシー兄ちゃんと悠太の二人だけだった。

「本当にそうだ、悠太の言うとおりだ。・・・・・・根性を改めよ」

「根性を改めよ!」

 ジョン師匠の口真似が、だんだんと二人の間で激しさを増していった。

「根性を改めよ!」

「心を貫け!」

「神の国は近いぞ!」

「そうだ!根性を改めよ!根性を改めよ!」


口調が最高潮に達した時、ふいにジェシー兄ちゃんは走り出し、突然露天の一つに体当たりを食らわせて、籠の中の鳩や囚われていた動物たちを放ちはじめた。

「おいこの野郎!何しやがるんだ!」

「うるさい!根性を改めよ!」

 当然あたりは大騒ぎになる。

 ジェシーに殴りかかろうとする店主に悠太は援護で突入する。

「ケンカなら、俺がいるでしょうが!加勢しますよ、根性を改めよ!」

 悠太も片っ端から、神殿の周りの商売人たちの露天をぶっ壊しはじめた。すると、はじめ目を点にして見ていたチームのメンバーも、次の瞬間から

「根性を改めよ!」

と口々に叫びながら、一緒になって露天を破壊しはじめたのだった。

「てめえら何しやがんだ!」

 店主たちが集団になって襲い掛かってくるのを、ひらりひらりと交わしながら悠太は、一人ずつ確実に拳をおみまいしてゆく。

 メンバーの誰かが、そこらへんの金貨や銀貨を引っつかんでは店主たちに投げつけはじめると、騒ぎはいっそう大きくなって神殿の参拝者を巻き込んでカオスと化した。

「金だ!金をばら撒いてるぞ!」

 こうなるともう収拾がつかない。「キャー!」「ワー!」という人々の悲鳴と、「モー!」という牛や羊の鳴き声と、鳥たちの羽ばたきやらチャリンチャリン音やらで、もうあたりは無茶苦茶だった。

「誰か!番兵を呼べ!」

群衆の声の中にそんな言葉が聞こえた。

「よーしみんな、これくらいでズラかろうぜ!」

悠太が叫ぶ。もう十分だ。

「ジェシー!気がすんだろう!これくらいで勘弁してやろうぜ!」

「ああ、悠太、よくやってくれた!」

 それから、チームのメンバーは後のことなどおかまいなしで、一目散に走り出した。

 逃げて逃げて逃げて、走って走って走って神殿の階段を駆け下り、城壁の門から門をするりと抜けて走り倒した。




 町はずれの野原まできて、ハアハアと息をつきながらみんな仰向けにぶっ倒れた。

「着いて早々、やらかしたな!」

「あははは、いいざまだ!」

「ロバ、置いてきちまったよ!でもまあ、あいつらだって自由にすればいいさ!」

 そんなことを口々に言いながら、もう誰も追いかけてはこない神殿の姿を振り返っていた。

「ジェシー兄ちゃんが、あそこまで熱い男だとは、知らなかったよ。もう少し、冷静なんだとずっと思ってた」

 悠太がそういうと、ジェシーは少し反省したように言った。

「いや、さすがの私もやりすぎたと思う。でも、この町の腐敗は、許せなかったんだ」

「じゃあ、いっそのことここでも教えを広めないといけねえよな!俺はひさびさに血が沸いたぜ!」

 熱心党出身のサイモンがそう言うもんだから、「うるせえ過激派!」と誰かが突っ込みを入れた。とたんにまたチームのみんなは爆笑の渦に包まれたのだった。



(7へつづく)

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