【新連載】 ヘビメタ野々村吉雄の絶叫 1 ~途切れたメモリー~
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■ またまた作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。前回の続きですよ。
諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。
おおむね1日おきに続きを更新しますので、どうぞ。
キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。
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「叫聖朱!叫聖朱!叫聖朱!」
それは西暦1990年代のことであった。
世に言うところのいわゆる、”世紀末”の武道館の熱狂は、既に最高潮に達しようとしていた。薄暗く落とされた照明に、レーザービームの光が飛び交う。軽くスモークされたステージには、強烈なバックライトが逆光を生じさせている。
「YOSHIO!!!」
「キャー!」
女の子たちの悲鳴に似た叫びが響き渡り、地鳴りのようなうねりがホールに満ちていた。真っ黒な衣装に身を包み、あるものは鮮血をしたたらせたようなメイクをしたり、またある者は手から釘を飛び出させたり、またある者は茨の冠を頭にかぶりながら、まだステージが始まっていないのに早くもヘッドバンキングで髪を振り乱したりしている。一種異様な光景が広がっているが、彼らはずっと、ある男が姿を現すのを待ち望んでいるのだ。
やがて、
ギュイイイイイン!
とおもむろにギターの音が響き、オープニング曲がスタートすると、
「ギャー!!」
とその叫びがさらなる絶叫に変わった。
スモークの中に、バンドメンバーのシルエットが浮かび上がる。中でも中央に浮かぶように映った男の影に、女の子たちはいっせいに大声を上げたり、おしっこちびりそうになったり、失神したりした。
長いストレートの髪、すらりと伸びた身長、手に持つギターの形がくっきりと映える。
「YOSHIO!!」
の声がいっそう大きくなる。男性ファン達が飛び跳ね、女性ファン達がまた一人、また一人と倒れた。
そして、今をときめくヘビメタバンド『叫聖朱<キュウセイシュ>』のリーダーで、日本ロック界の生ける神と呼ばれたボーカル兼リードギターの
『YOSHIOこと野々村吉雄』
は、しっとりと甘く切ない歌声で、熱狂の観衆に語るように歌い始めるのだった。
「いやああああああ!」
観客全員が、手をクロスにして頭上に掲げる。照明がいっせいに焚かれて、あたりは天上のように純白の世界になった。
♪ フォーエバーキングダム ♪
もう一人きりでは歩けない
この枷が重すぎて
背負わされた十字架が
傷つけられることには慣れたけど
変わり続けるこの町で
変わり続けるこの国で
変わらないものがあるなら
もう一人きりでは歩けない
この罪が重すぎて
背負わされた十字架が
失うものなどないけれど
変わり続ける人々に
変わり続けるこの世界
変わらないものを告げよう
フォーエバーキングダム
フォーエバーマイラブ
フォーエバーマイライフ
「もう!そんなところで寝てたら轢かれるよ!危ないんだから!」
新宿、歌舞伎町の早朝であった。バイトのキャバクラの勤務を終えて、よくわからないけど店のソファーでぶっ倒れては、吐く、死ぬと騒ぎ続けていつの間にか夜が明けた感じで、野々村万里子はそれでも大学の授業があるので、急いで帰宅する途中だった。
急いで走って帰って着替えて、今度は大学に行かないとこれまた単位不足で吐く、死ぬと大慌ての万里子の前に、路地の真ん中でぶっ倒れている長身の若者がいたというわけである。
「もー!酔っ払うにしてもほどがあるわよ。なにこれクソ重いいい!」
ずりずりと引きずりながら、万里子はなんとかその若者の身体を歩道側に寄せ、はあはあと息をつく。
狭い路地とは言いながら、それでももう少しすれば、店を上がってきた水商売の店員やらなんやらがタクシーで帰るので、車通りが多くなる。その路地はちょっと蛇行していて今は暗渠になっている。元々は小川が流れていたというが、万里子にはそんなこ知る由もない。
「ちょっと、お兄さん。お兄さん。起きて!あたし学校があるのよ。起きてってば!」
そう言いながら身体を叩く。反応がないので埒があかない。えいやっと仰向けに彼の身体を起こして、万里子はちょっとびっくりした。
「あら、外人さん」
目を閉じているのは、端正な顔立ちで彫りの深い外国人の若者だった。特攻服のような白い着物を着ているので、最初はそこらへんにたむろしているヤンキーかと思っていたが、そうではないらしい。
ただ、顔じゅう、あるいは衣服の裾から飛び出した手足にたくさんの古い傷のような擦れや切れ跡があるのが気になった。ケンカにでも明け暮れていたのだろうか、といった風体である。
「いやーん。ちょっと、マジこれなにこれスゴくない?イッケメーン」
万里子は思わず叫びながら、ちょん、と彼の唇に人差し指をあててツンツンする。元より外人好きを公言して憚らない万里子であったが、倒れている彼の顔かたちこそ、ツボツボ、まさに、ツボど真ん中である。
「んーーーー。むちゅっ」
思わずキスをしてみる。貞操もへったくれもない。もはや清く正しく美しくという概念を失った夜の女には、怖いものはないのだ。
「ん、んん。ううううう!」
そのキスが思いのほかディープだったのか、それとものしかかる万里子の胸の重さが苦しかったのか、その外国人の若者はうめき声を上げて、それから意識を取り戻した。
「うう、ここは・・・。私はどうしてしまったんだ」
まだぼんやりする。周囲の様子もはっきりしない。白い羽のような服を着た人物の姿が見える。ああ、これは神のみ使いなのか。そして・・・・・・い、いい匂いがする。
私は天国へたどり着いたというのか。
「わあ!気付いた!お兄さん大丈夫?昨日は飲みすぎたの?もう、いけない子なんだからっ」
しかし、神に召されたと思ったのもつかの間、きゃははとはしゃぐ万里子を凝視して、なんだこれは、なんなんだ、と思った。
み使い、天使にしては品がない。羽だと思ったのはひらひらで胸元が大きく開いた淫靡なドレスで、たしかにいい匂いはするが、どうやら天上ではなく、むしろまごうことなき地上にいるらしい。
色白で透けるような肌の色が、なんとも魅惑的だが、何よりも、天使が巨乳なはずはないのだ。
「き、君は・・・・・・」
思わず尋ねると、
「あ、あたし?野々村万里子。大学生でえっす」
と敬礼して微笑んでいる。
「ところで、お兄さんどこから来たの?お名前は?」
そう問われて、再び彼は思った。
ああ、私はいったいどこへ来てしまったんだ。何が私に起きているんだ。ここが天上でないとすれ
ば、今私はどこに堕とされたというのか!
「・・・・・・私の名は、ヨシュア。エルサレムから来た」
そう、力なく答える。
「よしお?ヨシオっていうのね。エルサルバドル?いやーんイケメン外人なのにギャップ萌え~」
言いながら、万里子は飛びつくように抱きついてくる。
ヨシュア・・・・・・、いや、そのあと色々あって吉雄と名乗ることになる彼には、まだ何も事態が飲み込めていなかった。目を白黒させて、大都会東京の真ん中でまだ寝そべっている。わかっていることは自分が生きているということだけだった。あともう一点、万里子のおっぱいが予想よりはるかに大きいことも間違いなかった。
(2へつづく)
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