2020年1月30日木曜日

リベラル化する世界に訪れるのは、分断ではなく、国家転覆か?



 前回、前々回と、リベラル化する世界と、それと同時に起きている「保守化、ポピュリズム」について、世界でいったい何が起こっているのかを考えています。


 こうした世界の動向は、すでに私も大好きな「橘玲」さんたちが、論考を重ねていて、そのあたりのことが知りたい人は


「橘玲の日々刻々」Zaiオンライン
https://diamond.jp/zaitachibana


あたりをなぞっていれば、おおよそのことはわかると思います。




 ところが、世界全体としては自由主義と自己責任の名のもとに


「リベラル化・グローバル化・知識社会化」


していっているのですが、実際にはそれだけではなく、その逆方向の動きである


「右傾化・保守化・反知性主義化」



なんてことが広がっているのも事実です。



 これらの出来事を平たく言えば、


「世界はより自由で、国境などない世界へと近づいているのに」


対して


「一方でトランプ政権の誕生や、移民排斥、英国の離脱など、真逆の方向へも動いている」


という実態があることをどう理解すればいいのでしょうか。



 橘玲さんをはじめとする方々はこうした事態に対して



「分断」



という視点で見ています。彼の著作で端的にそのキーワードを現すとするならば


「上級国民・下級国民」


の違いがあり、そこに分断があるので、真逆の動きが生まれているのだ、ということです。


マイク・サヴィジの「七つの階級」
 https://str.toyokeizai.net/books/9784492223857/



 あたりのキーワードも、注目されているところでしょう。



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 さて、ここで意外と見過ごされている事象があります。


 グローバルに活躍し、知識や高度技術を持って、かつリベラルな考え方をしている


ということは、これまでフランス革命とイギリス産業革命を経て欧米を引っ張ってきた基本論理であることは確かですが、 彼らは必然的に、


「社会の上層部、指導部」


に属してきて、これまで近代と現代の世界をリードしてきました。


 ですから、こうした動きと考え方をしてきた人たちは、「上級国民」と理解されるわけです。



 社会における成功者は、当然、多くがこちらに属しますから、今の感覚では


「上級国民と下級国民の分断が起きても、その支配(つまりこちら側の優位)は揺るがないだろう」


という漠然とした感覚を持っています。



 なんといっても、


 知識も技術も、世界的な行動範囲やネットワークも、すべて従前から「こちら側」にあるのですから、それはずっと絶対に変わらず有利だ


と考えてしまうのは、当然でもあります。




 ところが、実際をよーく見てみましょう。橘さんのエビデンス主義ではないですが、実際に起きているエビデンスはどうなっているでしょうか?


 トランプ保守派が大統領選に勝ってしまう

 イギリスが本当にEUを脱出してしまう

 韓国が米や日の同盟に反旗を翻す


など、細かいことを挙げれば切りがないくらい、


「リベラルでグローバルで知識技能を持っている層が願ってきた社会は、陥落していっている」


ことがわかります。


 そう。上級国民からみれば、「知識技能とグローバルで当然なリベラル社会」が政治的に敗北する事象がつぎつぎに起こっているわけです。




  上級国民から見ると、のんきなことに「グローバルでリベラルな知識技能社会は優位である」ということがフランス革命、産業革命以降からの当然であるがゆえに、



 その優位性はゆるがない


と思っていたのに、実際は違うわけで、それでも上級国民は「のんき」ですから、



「これは分断によって生まれた下級国民が叫びを挙げているせいだ」


と考えます。 それは本当にそうなのですが、実は上級な彼らは



「実はこれから下級国民による下克上が起きる」


とはまだピンときていません。


 そう!上級国民は「分断が起きている」とは理解していますが、まだ感覚が



「そのパワーバランスがひっくりかえると、次はシーソーゲームの転覆が起きる」



とはまだ思っていないということになります。



 なぜなら自分たちはグローバルでエリートなリベラル層であり、それは近現代の正義であるから、それが転覆されることはないだろう、とちっとも実は理解していないということなのかもしれません。




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 そこで解脱者であるムコガワは、実は何が起きているのかをきちんと考察したいと思っています。


 これは分断という小さな事象なのではなく、実は


「中間層をどちらがとりこむか」


という多数派工作の戦争だと考えています。



 上級国民は、これまで、「リベラルでグローバルでエリートであること」が社会を支配するにふさわしいと考えていましたが、実はそれを黙認し支持していた


「中間層」


がそちらの志向に傾いていたから、これらが維持できていたということです。


(嫌な言い方をすれば、上級国民が中間層に、自分たちに近い思想と経済的なおこぼれをトリクルダウンさせていたからこそ、それは維持されていたということです)



 つまり、リベラル風で擬似グローバルでエリートを目指すと、おこぼれがもらえるよ!という仕組みを作っていたから、それが維持されていたということに過ぎないのです。




 ところが、上級国民だけに利益が集中するようになると、中間層はむしろ「下級国民」の味方をするようになります。


(嫌な言い方をすれば、下級国民になってしまう、なってしまって中間層がいなくなったということです)


 そうすると、ここで広がるのは、「右傾化で保守で、反知性主義な主張」ということになります。



  これは実は民主主義の最大の弱点で、これまた嫌な言い方をすれば



「賢い人も1票、バカも1票を有している」



のですから、知性がない者達が数量的に増えれば、政治はそちらに傾くのは当然といえるでしょう。


これが今おき始めているポピュリズムの正体です。




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「中間層を食わせたものが勝つ」=正義である


というのが、これから起きることの全てですが、これをきちんと理解すると世界で起きていることの真相がはっきり見えてきます。



 たとえば中国やシンガポールは、独裁政権ですが、上級国民と中間層が潤っているので、成立しています。


 中間層が食えなくなってきたイギリスやアメリカは、ポピュリズムが台頭しています。


 アラブのイスラム諸国は、上級国民と中間層が原油で食えているので、反リベラル・反グローバル・反キリスト・反欧米でも、ぜんぜん勢いが衰えないのです。



  なぜ民主主義は崩壊したのか(吉家孝太郎)
 https://kotaro-yoshiie.blogspot.com/2016/07/eu_5.html


の図を転載させてもらうならば、





 というこれまでの正義から



 へと、民主主義を形成する「票数」が移行するということです。



 これが、これから起きる「民主的な転覆」にほかなりません。




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 実は中間層をしっかり見極めなくてはならない理由がもうひとつあって、実は


「フランス市民革命」


とはそもそも


「下級国民が、上級国民を倒した革命ではなく、中間層が上級国民から主権を奪った


革命だということを思い出しましょう。



 実は民主主義の根幹は、「中間層にとっての善を試行錯誤する」ことの繰り返しです。


 共産主義と社会主義が崩壊したのも「一部の上級国民とそのほかの下級国民しか設定できなかった」ために、中間層が育たなかったためとも言えるでしょう。




 かつての日本がそうでしたが「一億総中流」であることが、本当に国家の強さの源泉であったとしたら、これからの日本は恐ろしいことになるかもしれません。











 

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