2018年4月8日日曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 9   ゲスの極み不倫と乙女




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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 それから、チーム雅璃羅屋の一行が悠然と神殿の建物を出て、神殿の丘の上から麓へと降りようとしている矢先のことだった。行く手にちょっとした人だかりができて、騒然としているのに気付いた。

「なんの騒ぎだろう」

とジェシーたちが近づいて見ると、人々が口汚く誰かをののしりながら、まさに手に持った石を投げつけようとしているところだった。

「おい!おいちょっとまて!何の騒ぎだ!」

 ジェシーが止めに入ったので、騒いでいた人たちは思わず手を止めて、こっちを見る。ちょうど人だかりの輪の中心には、座り込んだ女性と下級祭司らしい人間が立っているのが見えた。

「なんだお前らは!邪魔立てするな・・・・・・、まてよ、その風体、さてはお前らが、神殿を騒がしている暴徒の集団とやらだな!」

 祭司は、こちらをにらみつけている。ジェシー達があの、いま世間で話題の「チーム雅璃羅屋」のメンバーだと知って、集まっていた人たちも、少しざわつきだした。

「その女をどうしようというんだ」

 ジェシーが静かな口調で言った。祭司は、

「ふん、それならそれでちょうどいい。民衆よ!よく聞いておくがいい!この若造たちは、神の国の到来と正しい道について説いて回っているそうだが、正義とは何か、今こそここで正してやろう」

 そう言いながら、手に持っていたムチのようなもので、一回女性の膝元の地面をバチン!と叩きつけた。女性はうつむいて、嗚咽を上げているようだった。ボロボロになった衣服をまとい、ここへ来るまでに拷問のようなものを受けたようにも見える。

「この女は姦淫の罪を犯した。律法によれば姦淫の罪は石打ちの刑と定められている。民衆よ!姦淫の罪を犯した者は、どうあるべきか!」

「石打ちだ!」

と観衆の誰かが叫ぶ。

 悠太はたまらず、隣にいたトーマスの服のすそを引っ張った。

「あの人、何をしたんだよ。カンインって、どんな悪いことなんだ」

「ああ、つまりは・・・・・・夫以外の男と関係を持ったってことだ。重罪だよ」

「ゲス不倫ってことか!」

 悠太の語調は強くなった。思わずいかめしく説教を垂れている祭司のほうへ、詰め寄る。

「ちょ、ちょっとまてよ!ゲス不倫ってあれだろ!芸能人で言えば記者会見とか開いて、『すみませんでした』ってやりゃ済む話じゃん!この人だって人前でこんな目に合わされたら、もう十分だべ!それをみんなでよってたかって石ぶつけるなんて、ヤンキーでもやらねえし、まともじゃねえよ!」

 祭司は悠太の顔を見て一喝した。

「なんだお前は、異邦人か。お前がどこの国の人間か知らんし、ゲイナー人の律法も知ったこっちゃない。ここはエルサレムの町だ。ここにはここの律法がある。姦淫は石打だと、神が定めたのだ!」

「神がどんだけ偉いか俺にはわかんねえけど、それじゃあお前らにも言ってやる!神が決めた法律だったら、お前らみんなぜってー守るんだな!じゃあ、逆にお前らこれまで人生で一切悪事をしてねえって言うんだな。万引きも、カツアゲも、嘘ついたり、誰かを騙したり、約束を守らなかったり、ごはんを残したことだって一切ないんだな!」

 それを聞いて、祭司は口の端をゆがめたまま、多少たじろいだ。

「言ってみろよ!祭司は神に仕えてるんだろ!誓って悪事を働いたことはないってここで宣言してみろよ!それが嘘だったら、お前も石打ちだ!そうだろ!」

 観衆のざわめきは、その言葉で大きくなった。ゴツンと誰かが石を捨てる音がした。それが、一人増え、二人増え、みな手に持っていた石を、道端へ捨て始めた。

 人々は、恥らうように、顔を伏せながらその場を去ってゆく。そして、そこにいたほとんどの民が、ジェシーたちを残してすっかりいなくなってしまった。

 祭司は、怒りに震えながら、毒づいた。

「このことは祭司長さまに報告するからな!・・・・・・お、覚えておけ!ただでは済まさん!」

「その祭司長に先ほど会ってきたばかりだ。好きにしていい、と聞いたが」

 ジェシーは、祭司からムチをひっつかむと、遠くへ放り投げた。

 悠太は慌てて女性のところへ駆け寄った。

「も、もう大丈夫です。みんな、いなくなっちゃったから・・・」

そういい掛けて、悠太はあっと息を飲んだ。

「ありがとう、ありがとうございます!」

 半泣きで取りすがった女性の顔を見て、悠太は我を失いそうになった。

「まままま、まきたさ・・・・・・ん!」

 その女性は、悠太から見れば思ったより若く、まるで少女のようにも見えた。ずっとうつむいていたのでわからなかったが、その顔は、同級生の牧田真理恵にそっくりだったのだ。

「まきた・・・牧田真理恵さん!そうでしょ!俺っすよ、小田悠太です。ほら、あんまり話したことないけどおんなじクラスの!」

 しかし当然ながら、女性はきょとんとした顔で悠太をじっと見つめているだけだった。牧田真理恵の顔をみて、動転した悠太だったが、よく考えればここは元の世界じゃない。彼女がここに来てるはずがないことは、すぐに気付くことだった。

「ああ、いや・・・。ごめんなさい」

悠太は肩を落とした。

「あの、どうして私の名前を・・・」

女性は、悠太を見上げながらそんなことを言う。

「え?」

「・・・・・・私は、マリアです。マグダラ生まれの、マリアと言います。あなたはどうして、私の名前を知っていたんです?まるで、まるで奇跡のよう」

 本当に真理恵が喋っているようだった。悠太はドキドキした。きっとマリアと真理恵は、偶然似た名前だったのだろうけれど、こんなにも牧田真理恵と近くにいることなんて、これまでなかったからだ。

「お、お、送って行きますよ。家まで」

そういう悠太に、彼女は首を横に振る。

「・・・・・・罪深い女です。帰るところなど、もうありません」

 それを聞いて、ジェシーは頷いた。

「いいだろう、それなら私たちとともに来ればいい」

 マリアは、こうしてチーム「雅璃羅屋」の支援者の一人となった。一行のエルサレム滞在の手伝いを、ファンの人たちと一緒に行うようになったのである。





(10へつづく)

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