2018年4月12日木曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 11   OLIVE山の上de OLIVE




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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11


 

 「みんな!大変だ!大変なことになった!」

とサイモンがみんなが滞在する宿に走りこんできたのは、数日後のことだった。

「どうしたサイモン。何があった」

 ジェシーが尋ねると、サイモンはジェシーの両肩をしっかり掴んで、まっすぐ目を見て言う。「いいか、ジェシー、落ち着いて聞いてくれ。取り乱しちゃいけねえ。でもどうやら、噂は確からしい。絶対に、自分を失うんじゃねえぞ!」

 そんな言い方をするから、よけいにジェシーは気がかりになる。

「だから、何があったんだ」

「水没のジョンが、・・・・・・あんたの師匠が殺された!」

「な、な、な・・・・・・!」

 それ以上、ジェシーは口を開くことができないでいる。悠太は思わずサイモンに掴みかかった。

「どういうことだよ!サイモン。もっと詳しく話してくれよ!俺の師匠だぞ!」

「悠太、お前も落ち着け。きっかけは町のうわさだ。ヘロデ王のやつが、水没のジョンを処刑した、と最初に聞いたのはそれだけだった」

 処刑、という言葉を聞いてごくりと悠太は唾を飲み込む。

「ジョンは民衆のヒーローだ。さすがの暴君でもそうたやすく殺せやしない。だから何があったのか知りたくて熱心党のつてをたどって尋ねたんだ。あいつら宮殿の中にも入り込んでるからな」

「それで、それでどうだったんだ!」

みんなが真剣な目でサイモンを囲む。

「ヘロデ王は、だんながいる女を自分のものにしようとしたらしい。それを水没のジョンは、神に許されないことだといさめたらしい」

 カンインだ、と悠太は思った。それはこの世界では、王様でも許されない重罪なんだと、今では十分わかっている。

「だからヘロデは、ジョンをひっつかまえて牢獄へ閉じ込めていた。それがつい先日までのことだ。ところが、その女の娘が、ヘロデの誕生日に舞を舞いやがった。それがあまりにも上手いのでヘロデのやつはつい『ほうびに好きなものをくれてやる』と言ったらしい」

 それがどうしてジョンの処刑に繋がるのか、悠太にはまだ理解できない。

「そしたらそのガキんちょが、『ジョンの首が欲しい』とぬかしやがったんだと!つまり、こういうことさ。娘のおかんはすでにヘロデと出来ていて、王の妻の座につけないもんだからそれを否定しているジョンをこの機会に殺しちまおうと娘を使ったんだ!」

「なんという、なんという愚かなことを・・・・・・」

 ジェシーが、天を仰いで、声を上げて泣いた。

「ああ、神よ!こんなことが許されていいのですか!これがエルサレムの今の姿だと言うのですか!師匠!私はどうしたらいいのですか!」

 そう叫ぶジェシー。悠太も思わず泣き出した。あの、あのマッチョな師匠が、こんなあっけない最期を遂げるなんて!会いに行こうと、会いたいとあんなに思っていたのに!

 その時、宿の主人が駆け込んできて、客が来ているとジェシーに告げた。なだれるように、そのまま入ってきたのは、悠太には懐かしい面々だった。

「ジェシー!悠太!会いたかったぞ!」

 あのジョンの弟子たち。一緒に修行に励んだ仲間たちだった。マッチョなおっさんの中には、すっかり老け顔になっているメンバーもいた。ジェシーや悠太、それからマッチョたちは熱い抱擁を交わして再会を喜んだ。

「聞いただろう!師匠が殺された。あとは敵を取れるのはジェシー・悠太お前たちしかいない。もうヘロデもローマもクソ食らえだ!噂はもちろん聞いているよ。お前達が大活躍をしている噂は、地方でももちきりだ。私たちも合流するから、ぜひ我々の救世主になってくれ!」

「しかし・・・」

 ジェシーがその勢いに飲まれていると、ピーターがやや冷静に言う。

「あのジョンが亡くなったと知ったら、民衆のヒーローは誰になる?反ローマの精神的支柱は、きっとジェシー、お前しかいない。これまで以上に、民衆は俺たちを求めるだろう。そして、同時に」

「これまで以上に、俺たちは目をつけられる、ってことでもあるな」

そう続けたのは、サイモンだった。

「祭司団どころじゃねえ、下手すりゃローマからも目をつけられるぞ」

 その言葉に、全員が一瞬だまりこくった。

「・・・・・・いや、それでも」

 ジェシーが言った。

「いや、そうなっても私は活動を続ける。たとえローマに目をつけられても、師匠の後を継げるのは、きっと私しかいない」

 その声は、決意に満ちたものだった。泣きはらした目の奥に、熱い情熱をほとばしらせながら。

 悠太には、ジェシーの気持ちが痛いほどよくわかった。もしジェシーがいなかったら、自分が似たようなことを言っただろう、と悠太は思う。

 師匠!俺、本気と書いてマジって感じだぜ、と悠太だって心に誓うものがあったのだ。




 翌日、一行はマリアたちに持たせてもらった弁当をもって、エルサレムの町が一望できるオリーブ山へ登った。腐敗に満ちたエルサレムの町を、どのように導くのか。その作戦を立てるためだった。

「どうなるんだろうなあ、この国は」

ピーターが町を見下ろしながらつぶやいた。

「こんなことだったら、エルサレムは滅びてしまうよ」

とマシューも肩を落とした。

「ヘロデがあんな状態では、ローマは直轄に乗り出すだろうな。そうなれば、神殿は破壊され、戦争になるだろう」

 ジェシーは正面を見据えながらそう言う。

「ローマに従うものと、国を二分する争いになるかもしれないな」

ジェイコブも言う。

「暴動みたいなのは、起こるかな?」

 悠太が言うと、マッチョの一人が答えた。

「師匠の教えを妄信するものもいるからな。我々はできるだけ制してきたつもりだが、暴走するものが出てもおかしくない」

「だとすれば、もうすぐエルサレムの祭りの本祭だ。その頃が危険かもしれない」

 ジェシーがそう先を読んだ。

「だから、できるだけ多くのファンに、これから起こることに備えるよう、伝えなくてはならないな。みんな、気合入れていこう。これからがチーム雅璃羅屋が本当に試される時だ」

 それを聞いて、悠太は今日のためにマリアたちがあつらえてくれたプレゼントをジェシーに差し出した。それは純白の白い衣で、この時代で見つけられる限り白く輝く丈の長い衣・・・つまりは特攻服だった。

 その衣を身につけたジェシーは光輝いていた。

「これは・・・・・・悠太に初めて会ったときの衣と同じだな」

そう、にっこりと微笑む。

「そうっす。みんなの分もあります。これでマジ、殴りこみに行けるっす」

 それからチームのメンバーは、全員白い衣をまとって、円陣を組んだ。

「こういう時、悠太の国ではどんな掛け声をかけるんだい?」

「そりゃあ、もちろん!」

 悠太は、これでもかというくらい目を細くひそめてあごを突き出しながら、

「よろしくううう!!」

としゃくりあげる。

 それを見て、13人とマッチョな仲間たちも全員、オリーブ山から大声で叫んだ。

「よろしくううううう!!!」

「よろしくううううう!!!」

 夜露死苦の掛け声は、それから何度もオリーブ山をこだまして、エルサレムの町へ響き渡ったのだった。



(12へつづく)

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