2018年4月14日土曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 12   誘拐ウォッチ




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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12





「まあ、それじゃあエルサレムは危険になるの?」

「そうなるかもしれない。できればマリアたちもいつでも逃げられる準備をしておいたほうがいい。俺たちも十分気をつけるけど、ヘロデの部下はジョンの支援者をつぶそうとしているし、祭司団だってこっちをつぶす機会を伺ってる」

「でも、町のみんなは悠太たちにとっても期待してるのよ」

「それもわかってるさ。だから一つ一つの行動に気をつけなきゃならないんだ」

 悠太とマリアは、そんな話をしながら食料や生活用品の買出しに出かけていた。

 今のところ、町は平穏で表立って騒ぎが起きそうな様子はない。しかし、聞き耳を立てていれば、十字路でおやっさんやおばさんが話している内容は、チーム雅璃羅屋のうわさ話やら、水没のジョンのニュースばかりだった。

 ジョンという精神的な支柱を失って、エルサレムの町がざわついているのを悠太は肌で感じていた。



 そんな二人が歩いている様子を、数十メートル離れて後をつけるものがいた。当然のことながら悠太はそれに全く気付かなかったが、何気ない風を装ってつかず離れずぴったりと二人の後を尾行しているのは、マリアの件で恥をかかされたあの下級祭司だった。
 
 その祭司の姿を見つけて、これまたそっと合流するものもいる。最初にチーム雅璃羅屋へ手紙を届けにきた、あの祭司団の男だった。

 こちらの二人は、悠太とマリアから目を離すことなく、小声で話しながら歩く。

「雅璃羅屋のメンバーは、ああ見えても武闘派です。男のほうはイスカリオテのユダ。流れもんです。小柄ですがジョンの弟子ですから、鍛えてます。残念ながら我々体力に自信のないものには、勝ち目がありません」

「そこらへんのごろつきを雇って一人ずつ始末するって手もあるだろう。いつまでもてこずっていると祭司長さまにどやされるぞ」

「そううまく行けばこっちだってやってますよ。そもそもそのごろつきとやらが、心の底ではこっちを応援しているはずがないでしょう。水没のジョンは、エルサレムの人間はみんな『預言者だ』って信じてるんですから、その弟子たちを始末するなんて計画、こっちがしゃべった時点で垂れ込まれておしまいです」

「女はどうだ。マグダラのマリアとか言ったな」

「姦淫の罪で引っ張ってきたので、素性はわかってますが、昨今は住みかを変えてますね。ですが・・・・・・、あの女なら使えるかもしれません」

「あの親しげな様子。さすがは淫らな女だ。もうユダをたらしこんだと見える」

「・・・あいつらにはあっしも恥をかかされましたからね。・・・・・・今度はこっちが借りを返す番だ」
 そんなたくらみを話ながら、二人はずっと尾行の足を緩めなかった。



 その夜のことである。もうすっかり日もくれて、宿の明かりがともる頃、宿の主人が悠太に手紙を預かった、と言ってきた。見ると差出人にマリア、とある。

「マリアが来たのかい?」

と主人に訊くと、いいや、代理の者だという男から預かったという。

 なんだか変だな、と思いながら封を切ると、その内容に悠太は目を見張った。

『マリアは預かった。雅璃羅屋のメンバーには何も言うな。お前一人で表へ来い。メンバーに話したら、即座にマリアを殺す。かならず一人で来い』

 そう書いてある。慌てて表を見ると、たしかに人影が、こっそりとこちらを伺っているような様子が見えた。

「どうしたんだ悠太、何かあったのか?」

 メンバーにそう聞かれたが、

「いや、なんでもない。ちょっとぶどう酒を買ってくるよ」

とはぐらかして、そっと宿の表へ出た。



 悠太が周囲を警戒しながら歩くと、そっと近寄ってくる人影があった。

「へへへ、ご足労を願って、申し訳ありませんな」

「お前は、サイモンの知り合いの・・・・・・」

 祭司団の男だ、と悠太はすぐに気付いた。これはあいつらの罠だ、と思ったが、今の段階ではマリアの無事がわからない。ただのハッタリならこいつをぶちのめすだけだが、きっと仲間がまだいるはずだ。ゆっくりと二人は歩き出す。歩きながら普通を装って話しはじめた。

「・・・・・・どうして宿がわかった。それに、祭司団は誘拐までやるってのか」

「昼間、尾行させていただきました。まあそうおっしゃらずに。私たちとて、平和的に解決したいのですよ。本当は」

 こいつ以外にも、周囲に何人か配置されているのが気配でわかった。

「何が狙いだ。どうして俺を狙う。・・・・・・それより、マリアは本当に無事なんだろうな」

「それもあなたさま次第で。まあ、現時点では、生きてます。これが証拠で」
 見覚えのあるマリアの衣の切れ端を、男は差し出した。

「こんなもんが証拠になるわけねーだろうが。彼女に会わせろ」

「信じていただけないなら、女の死に顔でも拝みますか?残念ながら会えるのは、こっちの願いを聞き届けてくださってからですよ」

 ネチネチとしつこい言い回しをする男だ、と悠太はいっそう憎憎しくなった。

「要求はなんだ」

「ジェシーを売っていただきたい。」

「裏切れってんだな」

「そういうことです。みなさんの動向を事前にお教えいただいて、我々はローマにあなたがたのリーダーを捕らえていただく。ええ、全員なんて必要ありません。水没のジョン亡き後、目障りなのはたった一人」

「俺だってジョンの弟子だぜ、見くびられたもんだな」

「いいえ、あなたにだって腕力ではかないっこないのは知ってます。ですから卑怯ながら女を捕らえさせていただきました。・・・・・・あなたは話がわかるお人のようだ。いいですか?私どもはあなたには用はないのですよ。なぜなら」

「他所もんだからだろう。エルサレムの民のヒーローは、ジョンで、そしてジェシーだ。俺はどうせここの人間じゃない」

「よくおわかりで。ですから我々が排除したいのはジェシーただ一人なのですよ。そうすれば、あなたの女は自由になる」

「断れば?」

「みなさんはもちろんこのままです。ただ、女が明日神殿から身を投げて亡くなる」

「きったねえ、きたなすぎるぜ」

「表にはローマ兵、裏には暴君ヘロデ、わかってくださいよ。あたしらだって、こうやって生き延びてきたんだ」

 ぽつり、と男は言った。それはたぶん本音なのだろう。大人の世界はそういうものかもしれない、と悠太は変に納得した。実際問題、この国で何が正義かなんてわかったもんじゃない。侵略者ローマにおとなしく従うのが当然なのか。それとも民は自分たちでものごとを決めるべきなのか。そしてその王が暴君だったとしたら、民はいったいどうすりゃいい。

 急に、ニュースで言ってる米軍基地の問題とか、北朝鮮の情勢とか、そういう難しいことが頭に浮かんでぐるぐる回り始めた。

 ああ、あれって、こういうことだったのかもしれない、と悠太は意外と冷静に考えていた。

「簡単に言えば、俺があんたらの言うことを聞かなかった瞬間、マリアが殺される、そういうことだな」

「さすが理解が早い。その通りです。あなたに拒否権はない。もっとも、女を見捨てるなら話は別ですが」

 この男の淡々とした口調が、本気でマリアを殺るつもりであることを物語っていた。悠太には、いまこの時点での選択肢は一つしかなかった。

「わかった。マリアの命を傷つけないことを約束するなら、ジェシーを差し出そう。しかし、俺ができるのはそこまでだ。あとは全員おまえらがメンバーにぶちのめされても、俺はそこから先はしらねえからな」

「十分ですよ。こちらの使いを一人用意します。毎日昼の刻までに、泉の広場であなたの報告を待ってます。みなさんの活動先を事前に教えてくれるだけでいい。どこで捕獲するかは、こっちで考えます」

「マリアには指一本触れるな。もし本当に殺しでもしたら、その時はこの俺がおまえらをぶっ殺す。神殿に火を放ってでも、復讐してやる」

「おお、怖い。お約束しますよ。ええ、お互いに賢くありたいものです。ジェシーの捕獲が終われば、即座に女を解放しましょう。その後は、どこへでもお好きなところへどうぞ。チームは壊滅。恐れるものではなくなりましょう」

「バカにしやがって・・・・・・ジェシーがいなきゃ何もできねえと思ってやがるのか」

「私はそこまでわかりませんが、これも上の判断ですから。宮仕えというものはそういうものです」

「クソ野郎が」

「ではこれにて」

 男はすっと離れていった。同時にあたりを囲んでいた気配も消えてゆく。道端にたった一人残された悠太は、ぐっと拳を握り締めた。

 ジェシーを裏切ることになる。そして、マリアを助けなくてはいけない。こんな、こんな八方塞りは、人生ではじめてのことだった。

 男の姿が無くなって、我に返ったような気持ちになった。俺は今、なんてことを約束しちまったんだ、とさっきまであんなに気丈だったのに、膝がガクガク震えだした。悠太は、嗚咽した。そのまましゃがみこんで、いつまでも嗚咽した。




(13へつづく)

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