2018年4月4日水曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 7   サイモン&熱心党




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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 エルサレムでも、神殿でやらかした「チーム雅璃羅屋」の名前は一気に知れ渡った。ある者は田舎者が暴れたとバカにし、ある者は暴走集団が来たと恐れた。またある者はひさびさに気概のある若者が現れた、と評価した。

 数日後のことだった。ジェシーたち「チーム雅璃羅屋」が身を寄せていたエルサレムのファンの家に、一人のしっかりした身なりの人物が訪ねてきたのである。

「失礼、こちらにチーム雅璃羅屋という若者たちのグループが滞在していると聞きましてね。どなたか話のできる方がいれば」

 あんな騒ぎを起こしたばかりで、相手の素性がわからない以上、少し警戒して恰幅のいい武闘派のサイモンが表に出た。

「話というのは何だ。・・・・・・てめえ、見たことがあるぞ。どこかで会ったことがないか?」

 その人物はにやりと笑い、深々と礼をした。

「おやまあ、元熱心党のサイモンさんではありませんか。いつぞやはお世話に」

「・・・・・・祭司団の手先か」

「あなたがこの集団に関与しておられるというのなら話は早い。これは、祭司長からの呼び出し状ですが、我々としてはぜひ、みなさんと話がしたいということですよ」

「この間の件なら、知ったこっちゃねえ。帰ってくれ」

 差し出された巻物状の手紙をつき返そうとしたサイモンだったが、その男はやんわりと制した。

「いやいや、あなたがここにおられるのであれば話が少し変わります。我々はどうも誤解していたようだ。単なる田舎モノの集団が暴れただけかと思っていたが、そうではない、と解釈させていただきますよ。では、これにて私は」

 男は軽く会釈をして立ち去った。

「あいかわらず気持ちの悪い野郎だ」

 吐き捨てるようにつぶやいたサイモンだった。苦々しい顔つきで戻ってきた彼をチームのメンバーは取り囲んだ。

「一体何だって?祭司団は何のつもりで」

「呼び出し状だなんて、無視すりゃいいじゃねえか!」

「さっさとここも出て行けばいい。そうすりゃ奴らだって何もできねえはずだ」

 口々にそういうメンバーを制して、悠太は気になっていることを尋ねた。

「ごめん、それよりさ。なんでサイモンはあの男と知り合いなんだよ」

 険しかったサイモンの眉がぴくり、と動いた。ひとつ小さなため息をついて話はじめる。

「俺が熱心党出身の、いわゆる過激派だったことはみんなに話してるはずだが、熱心党ってのは知ってのとおり王国がローマに支配されるようになって立ち上がった自発的な組織だ。ジェシーが説教してるように、言論で戦おうとするものもいれば、実力で戦おうとするものもいる。簡単に言えば、ゲリラ組織みたいなもんだな。俺も昔はナイフ一本でずいぶんエグいこともやったもんさ」

「それで?」

 珍しいサイモンの昔語りに、みんなは食い入るように前のめりになった。

「王国の独立のためならと、我々はそりゃあもう激しく戦った。局地的な暴動もあれば、ローマの役人を暗殺しようとしたこともある。しかし、今の状況を見てわかるとおり、それらはうまく行ってない。でも、我々はそれが正義だと信じて闘ってたんだ。ところがだ。俺なんかは自発的に熱心党で活動していると信じていたんだが、実はローマ支配の転覆をたくらむゲリラ組織ですら、実は黒幕がいたってワケだ」

「どういうこと?」

「結論から言えば、熱心党をはじめ各地の反ローマ勢力を支援していたバックがいたんだよ。つまりは金を出してたスポンサーだ。」

「それが、・・・・・・あの男ってことか」

「あんなのは小物だ。ただの使いっぱしりに過ぎない。黒幕は祭司団だ。おそらく神殿の連中は金をばら撒きながら自分たちに都合のいい集団を操ってるんだ。熱心党を支援したのも、うまく行けば本来の王国での祭司の地位を取り戻せると考えたからだ」

「ち、ちょっとまって。それなら祭司団は別に俺たちと敵対しているわけじゃないってことか」

 ジェイコブが訊くと、サイモンは首を横に振る。

「そう単純な図式じゃない。いいか、王国のいちばんてっぺんにはローマがいる。しかし、現時点ではこの国は我々と同族であるヘロデ王に任されている。もちろん、ローマに首根っこをつかまれた状態ではあるが。神殿は本来、王とほぼ一体だが、祭司たちから見れば・・・・・・」

「そうか。いつヘロデの首が挿げ替えられるかわからないし、ローマが直接統治に切り替えてくるかもしれないということだな」

 ジェシーが腕組みをしながらそう言った。そして続ける。

「つまり、祭司団からみれば、保険をかけておく必要がある、ってことだ。ローマの転覆が叶えば本望だが、それが叶わない場合だってある」

「そこだよ、ジェシー。それがわかったから俺は熱心党から少し距離をおいた。つまり、やつらは同族だろうが異国民だろうが、どっちだっていいんだ。最終的には自分たちの立場が維持できるなら、それを守るためにあっちこっちに金を出す。そしてその金は、神殿へ上納される国民たちの寄進や、こないだみたいな神殿商人たちからのショバ代で賄われてる、って寸法だ」

 なんだそれ!めちゃくちゃ汚ねえ話だな、と悠太は思った。まるで、あっちの世界にいた時の、いわゆる「大人の汚さ」みたいな話じゃん、と。

「あいつらは、俺たちをも手なずけておこうと考えたってことか」

 フィリップの言葉に、サイモンは言った。

「いや、俺の顔を見てそう切り替わったんじゃねえかな。あいつらは本当にずる賢いからな。・・・・・・どうするよ、ジェシー」

 腕組みを続けたまま、ジェシーはしばらく考えていたが、やがて彼らしい強い口調で答えた。

「どうやら、本当に闘うべき相手は、あんな商人どもではなかったってことだな。受けて立とうじゃないか。そのために私たちは行動してきたんだ。丸め込まれるつもりはない。だが、まずは祭司団の“根性を改める”必要がありそうだ」

 それを聞いてサイモンはやれやれという顔をする。

「・・・・・・そうなると思ったぜ。まったく!そんなら俺は、久しぶりに短剣でも研いでおくとするかね」

「武力でやりあう気はないぞ、サイモン。正々堂々と、正面から行こうじゃないか」

 ジェシーは立ち上がる。その拳には、また力がみなぎっていた。悠太には、ジェシーの表情に先日以上に熱い思いがほとばしっているのが見えた。

 神殿で祭司団との直接対決だなんて、すごいことになってきた!と自分でも興奮してくるのを感じ、まるでRPGの世界に入りこんだみたいだ、と思う。

「・・・・・・根性を改めよ」

 そうつぶやき、師匠の顔を思い出した。そうだ、この件が終わったら、一度師匠を訪ねてみることをジェシーに提案しようなんてことを悠太は思っていた。



(8へつづく)

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