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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。
諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。
おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。
キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。
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https://talkmaker.com/works/b0c04591422427ceda5bc3fbf689e1ff.html
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8
一行が再び神殿に正面切って乗り込んでいったのは、翌日のことであった。あれだけのことをしたのだから、何か嫌がらせのひとつでもあるかと思っていたのだが、神殿に巣くっていた商人たちの数もめっきり減っており、誰もジェシーたちをとがめだてする者はいなかった。
それどころかむしろ、下級の神官がうやうやしく出迎えに現れ、表向きには礼を尽くして一行を案内してくれたのには、正直意外な気がした。
神殿の奥には、祭司達が神事などを執り行う執務室がある。一目で高級だとわかる絨毯が敷き詰められ、金の装飾が施された器や壁掛けなどが、整然と並べられている。
どうぞこちらでお待ちください、と神官に案内されて、チーム雅璃羅屋の面々はそのあまりの豪華さに目を見張った。
「汚れている!」
と、ジェシーは例のごとく、早くもブリブリと怒り始めている。
「こんだけ金が集まるのなら、そりゃこの身分を失いたくはないわなあ」
周りを見回しながら、ピーターが呆れたように言った。
「気をひきしめておけよ。これがあいつらのやりかただ。ここまで来るのに、拍子抜けするほど何にもなかったろう。罠とまでは言わないが、人をたらしこむのはあいつらの常套手段だからな」
サイモンは、油断無く身構えている。ジェシーには制されたものの、懐に短剣を忍ばせているのは、メンバーの誰もがわかっていることだった。
「どうもわざわざお越しくださいまして、心から歓迎しますよ。ああ、私は祭司長。それからここに控えているのは祭司たちとそれから律法学者たち。皆様のお顔を拝見したいと、同席を許していただければ嬉しいですな」
そうにこやかに微笑を浮かべながら祭司一行が登場したのは、それからほどなくのことだった。
「これはどうも」
チームの面々も、一応は礼をする。
大きなテーブルのある部屋に案内され、すぐに飲み物とパンなどの軽食が並べられた。
「・・・・・・食事を招かれにきたわけではないのですが、本題に入っていただければ」
ジェシーが、その一切に手を触れようともせずに言うと、祭司長は、まあまあとやたら笑顔ではぐらかそうとしてくる。
「正直な気持ち、先日の件には感謝しているのです。みなさんはまあ、その多少過激ではあったが、その意図はわからなくもない」
「というと?」
「商人たちがのさばりすぎ、神殿を汚していたことは事実です。私たちからみても、あれだけ金銭欲むき出しでここにおられては、聖なる場としては本当にふさわしくない」
・・・・・・金銭欲むき出しなのはどっちだよ、と誰もが突っ込みそうになるのを押さえながら、とりあえずは神妙な面持ちで話を聞いている。
「みなさんが神を思う気持ち、神殿を思う気持ちはすばらしい!祭司団としても、心から応援したい、という気持ちもある」
ほら来た、とサイモンが小声で言うのが聞こえた。
「同意していただくのは私たちとしても、不本意ではありませんが」
ジェシーはあいかわらず、むすっとした表情で答えている。
「ただ、ひとつ私たちから尋ねておきたいことが一点だけありましてな」
祭司長は、そこでちょっとだけ目つきを変えてそう言う。
「みなさま方が、何の権威によって活動なさるか、そこのところをはっきりさせていただきたい、とまあ思うわけです」
それを聞いて、ようやくこの会談の真意を悟ったのか、ジェシーはふふん、と鼻で笑った。
「つまり、まあ、こういうことですか。神殿の権威によって活動する分には応援してやらんこともないが、あんたらの意図に背くのであれば、好きにはさせない、と」
「どう解釈なさるのもよろしいが、私はただ『何の権威を尊重なさるのか』と尋ねているだけですよ。ははは」
こいつはかなりの狸野郎だな、と悠太でも感じた。言質をとられないように、気をつけて喋っていることがよくわかる。そりゃあ、そうだろう。過激派の支援をしているなんて公的にバレたら、たとえ祭司団であってもローマから狙われるはめになるのだから。
そこでジェシーは、ひと呼吸置いて言った。
「では、私が答える前に、一つだけ祭司団の方々に尋ねたいことがある。いいですか?」
「どうぞ」
祭司長は、笑顔を崩さずに頷いた。
「私と、ここにいる悠太は“水没のジョン”の元で学びました。みなさんも知ってのとおり、ジョンは民から神の預言者としてたいへん篤く信じられています」
師匠の名前が出た瞬間、祭司団にちょっとしたどよめきが走った。悠太は、師匠がそんなに有名人だったのか、と改めて驚いた。
「ジョンが人々に信じられているとすれば、その権威はどこから来ていると、みなさんはお考えなのですか?」
「な、なんと・・・・・・」
祭司長は、その問いかけにはじめて苦悶の表情を浮かべた。
「ジョンは民衆から、本物の修行者であり、神の使いと信じられている。まあ、実際荒野に出て、俗世から離れてあれほどの活動を行っていますからね。彼が神の権威で修行を行っていると民衆は信じている。しかし、あなた方はもちろんそんなことは認めないでしょう」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」
祭司たちは、動揺しながらああでもないこうでもないと小声で騒ぎ始める。
「民衆にとっては、ジョンはヒーローです。しかし、彼は人だからヒーローなのではなく、神の使いだからヒーローなのです。それを否定するのであれば、いくら神殿の祭司たちとはいえ、多少まずいことになるのではありませんかね。私たちがここを出て、『祭司たちが水没のジョンを否定した』と言いふらせば、暴動のひとつやふたつ起きてもおかしくないでしょう。責任を問われるのではないですか、祭司団として」
そんなにすごい人だったのか!とさらに悠太は驚いた。ただのオイルマッチョじゃなく、もはや人々の間では聖人、預言者、神の使いのレベルだっただなんて!
「ああ、わかった。わかったとも」
祭司長は、悔しそうな表情をして言った。
「行くがいい、行ってしまいなさい。君らがジョンの弟子だったとは、それはうかつだった」
そういって、手で追い払うしぐさをする。それを聞いてジェシーはにこやかに立ち上がった。
「では、そういうことで。行こうかみんな」
メンバーも、次々立ち上がり、振り返りもせずにジェシーに従って歩きはじめる。完全なるチーム雅璃羅屋の勝利だった。
祭司長は立ち上がりもせず、憤怒の表情でそれを見つめていた。それから、おもむろに傍らの神官に対して、声を潜めた。
「・・・・・・あいつを殺せ。どんな手段でもいい。絶対に殺せ」
「かしこまりました」
だが、祭司団がこうしたたくらみを企てていることは、チーム雅璃羅屋の誰もが知る由もなかった。これが、のちに悠太の生き様にも大きく影響を及ぼすことさえ、神のみぞ知るところだったのである。
(9へつづく)
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