2018年4月6日金曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 8   祭司だんのリベンジ




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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 一行が再び神殿に正面切って乗り込んでいったのは、翌日のことであった。あれだけのことをしたのだから、何か嫌がらせのひとつでもあるかと思っていたのだが、神殿に巣くっていた商人たちの数もめっきり減っており、誰もジェシーたちをとがめだてする者はいなかった。

 それどころかむしろ、下級の神官がうやうやしく出迎えに現れ、表向きには礼を尽くして一行を案内してくれたのには、正直意外な気がした。

 神殿の奥には、祭司達が神事などを執り行う執務室がある。一目で高級だとわかる絨毯が敷き詰められ、金の装飾が施された器や壁掛けなどが、整然と並べられている。

 どうぞこちらでお待ちください、と神官に案内されて、チーム雅璃羅屋の面々はそのあまりの豪華さに目を見張った。

「汚れている!」

と、ジェシーは例のごとく、早くもブリブリと怒り始めている。

「こんだけ金が集まるのなら、そりゃこの身分を失いたくはないわなあ」

 周りを見回しながら、ピーターが呆れたように言った。

「気をひきしめておけよ。これがあいつらのやりかただ。ここまで来るのに、拍子抜けするほど何にもなかったろう。罠とまでは言わないが、人をたらしこむのはあいつらの常套手段だからな」

 サイモンは、油断無く身構えている。ジェシーには制されたものの、懐に短剣を忍ばせているのは、メンバーの誰もがわかっていることだった。




 「どうもわざわざお越しくださいまして、心から歓迎しますよ。ああ、私は祭司長。それからここに控えているのは祭司たちとそれから律法学者たち。皆様のお顔を拝見したいと、同席を許していただければ嬉しいですな」

 そうにこやかに微笑を浮かべながら祭司一行が登場したのは、それからほどなくのことだった。

「これはどうも」

 チームの面々も、一応は礼をする。

 大きなテーブルのある部屋に案内され、すぐに飲み物とパンなどの軽食が並べられた。

「・・・・・・食事を招かれにきたわけではないのですが、本題に入っていただければ」

 ジェシーが、その一切に手を触れようともせずに言うと、祭司長は、まあまあとやたら笑顔ではぐらかそうとしてくる。

「正直な気持ち、先日の件には感謝しているのです。みなさんはまあ、その多少過激ではあったが、その意図はわからなくもない」

「というと?」

「商人たちがのさばりすぎ、神殿を汚していたことは事実です。私たちからみても、あれだけ金銭欲むき出しでここにおられては、聖なる場としては本当にふさわしくない」

 ・・・・・・金銭欲むき出しなのはどっちだよ、と誰もが突っ込みそうになるのを押さえながら、とりあえずは神妙な面持ちで話を聞いている。

「みなさんが神を思う気持ち、神殿を思う気持ちはすばらしい!祭司団としても、心から応援したい、という気持ちもある」

 ほら来た、とサイモンが小声で言うのが聞こえた。

「同意していただくのは私たちとしても、不本意ではありませんが」

 ジェシーはあいかわらず、むすっとした表情で答えている。

「ただ、ひとつ私たちから尋ねておきたいことが一点だけありましてな」

 祭司長は、そこでちょっとだけ目つきを変えてそう言う。

「みなさま方が、何の権威によって活動なさるか、そこのところをはっきりさせていただきたい、とまあ思うわけです」

 それを聞いて、ようやくこの会談の真意を悟ったのか、ジェシーはふふん、と鼻で笑った。

「つまり、まあ、こういうことですか。神殿の権威によって活動する分には応援してやらんこともないが、あんたらの意図に背くのであれば、好きにはさせない、と」

「どう解釈なさるのもよろしいが、私はただ『何の権威を尊重なさるのか』と尋ねているだけですよ。ははは」

 こいつはかなりの狸野郎だな、と悠太でも感じた。言質をとられないように、気をつけて喋っていることがよくわかる。そりゃあ、そうだろう。過激派の支援をしているなんて公的にバレたら、たとえ祭司団であってもローマから狙われるはめになるのだから。

 そこでジェシーは、ひと呼吸置いて言った。

「では、私が答える前に、一つだけ祭司団の方々に尋ねたいことがある。いいですか?」

「どうぞ」

 祭司長は、笑顔を崩さずに頷いた。

「私と、ここにいる悠太は“水没のジョン”の元で学びました。みなさんも知ってのとおり、ジョンは民から神の預言者としてたいへん篤く信じられています」

 師匠の名前が出た瞬間、祭司団にちょっとしたどよめきが走った。悠太は、師匠がそんなに有名人だったのか、と改めて驚いた。

「ジョンが人々に信じられているとすれば、その権威はどこから来ていると、みなさんはお考えなのですか?」

「な、なんと・・・・・・」

 祭司長は、その問いかけにはじめて苦悶の表情を浮かべた。

「ジョンは民衆から、本物の修行者であり、神の使いと信じられている。まあ、実際荒野に出て、俗世から離れてあれほどの活動を行っていますからね。彼が神の権威で修行を行っていると民衆は信じている。しかし、あなた方はもちろんそんなことは認めないでしょう」

「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 祭司たちは、動揺しながらああでもないこうでもないと小声で騒ぎ始める。

「民衆にとっては、ジョンはヒーローです。しかし、彼は人だからヒーローなのではなく、神の使いだからヒーローなのです。それを否定するのであれば、いくら神殿の祭司たちとはいえ、多少まずいことになるのではありませんかね。私たちがここを出て、『祭司たちが水没のジョンを否定した』と言いふらせば、暴動のひとつやふたつ起きてもおかしくないでしょう。責任を問われるのではないですか、祭司団として」

 そんなにすごい人だったのか!とさらに悠太は驚いた。ただのオイルマッチョじゃなく、もはや人々の間では聖人、預言者、神の使いのレベルだっただなんて!

「ああ、わかった。わかったとも」

 祭司長は、悔しそうな表情をして言った。

「行くがいい、行ってしまいなさい。君らがジョンの弟子だったとは、それはうかつだった」

 そういって、手で追い払うしぐさをする。それを聞いてジェシーはにこやかに立ち上がった。

「では、そういうことで。行こうかみんな」

 メンバーも、次々立ち上がり、振り返りもせずにジェシーに従って歩きはじめる。完全なるチーム雅璃羅屋の勝利だった。

 祭司長は立ち上がりもせず、憤怒の表情でそれを見つめていた。それから、おもむろに傍らの神官に対して、声を潜めた。

「・・・・・・あいつを殺せ。どんな手段でもいい。絶対に殺せ」

「かしこまりました」

 だが、祭司団がこうしたたくらみを企てていることは、チーム雅璃羅屋の誰もが知る由もなかった。これが、のちに悠太の生き様にも大きく影響を及ぼすことさえ、神のみぞ知るところだったのである。



(9へつづく)

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