2018年4月20日金曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 15   ローマの救出




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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15




  マリアに全てを話し、安全なファンの家に届けた頃には、もう朝が迫ろうとしていた。まだ、エルサレムの人たちにはジェシーが捕まったというニュースは広まっていなかったが、それが噂になるのは時間の問題だと思われた。

 とすれば同時に、そうなった原因が悠太であることもおのずと知られるようになるだろう。マリアだけは事情を汲んでくれたとしても、サイモンのように人々は悠太こそが裏切り者だと話すに違いない。

 ここから先は俺一人の問題だ、と悠太は思った。

 今は支援者やファンたちを頼ることができても、昼までには彼らすら俺のことを裏切り者だと思うに違いない。時間がないのだ。

「・・・・・・マリア、俺は行かなくちゃならない。君はしばらく身を隠しているほうがいい。また捕まったりしたら、今度こそどうなるかわからないから」

「ジェシーも捕まって、あなたはどうするの?」

「兄ちゃんを助けに行く」

「無謀すぎるわ!・・・・・・祭司団はすでにローマにも今回の根回しをしているのよ。ローマ兵がいたでしょう。もうこの町だけの問題じゃないのよ。・・・・・・あなただってどうなるかわからない」

「ごめん、まだ俺もちゃんとわかってないんだろうけど、ジェシーはこれからどうなる」

「エルサレムの裁きがあると思う。それから、・・・・・・恐ろしいことだけれど、ローマ総督の裁きも」

 チームのメンバーが以前言っていたとおり、この国は二重の支配構造になっているらしい。ヘロデをはじめとする王族が一応この国を支配し、祭司団はいちおう独立して民への影響力を持っているという。しかしその上にはローマがいて、本国から派遣された総督が、代官としてこの国を監督しているというのだ。

「ジェシーが裁きを受けるとしたら、祭司団のいる神殿の可能性が高いわ。あるいは王宮かもしれない。ローマ兵がいたってことは、それから最後の決定を総督にゆだねるはず・・・・・・」

「よし、その場所を全部詳しく教えてくれ。・・・・・・どこかでジェシーを奪還できないか、考えてみる」

「本当に無謀よ・・・・・・。きっと無理だわ」

「約束したんだ。マリア、君を助けた後は、かならずジェシーを助けに行くって」

「悠太・・・・・・」

 急に、マリアは悠太に抱きついた。

「本当に、本当に無事で帰ってきてね。せっかく助かったのに、あなたにもう会えないなんてことがあれば・・・・・・」

「大丈夫、必ず帰ってくる」

 悠太ははじめて、しっかり彼女の手を取って言った。

「必ず、帰ってくる。だからお願いがある。チームのみんなや、師匠の弟子たちともし会えたら、きちんと連絡をとりあって団結できるように手助けしてほしい。そしてみんな混乱しているし、マリアと俺のせいでこうなったことは、絶対に言うな。せっかくみんなの力がまとまらないといけないのに、俺はともかく、君のせいでジェシーがああなったと言い出すやつだってきっといるだろう。
 ・・・・・・裏切り者は俺一人でいい」

「そんな!すべてはあたしのせいなのに!」

 そう叫ぶマリアに、おだやかに悠太は言った。

「君のせいじゃない。本当に悪いのは祭司長と祭司団だ。ジェシーは俺に、『悠太が悪いんじゃない』と言ってくれた。俺だっておなじことを言うよ。マリア、これは君が悪いんじゃないんだ」

 二人はもう一度、しっかりと抱き合った。罪深い女がまた一線を越えたと、神はお許しにならないだろうか。一線って何だ。どこからが一線なんだ。それはもはや神のみが定めた基準であり、人には推し量ることのできないものなのだった。



 
 ・・・・・・ジェシー、何処へ行けば俺はたどり着けるだろう。

 ・・・・・・ジェシー、いつになれば、俺は許されるのだろう。

 まるで尾崎な詩を口ずさみながら、悠太は前を向く。

 マリアと別れた悠太は、懐にナイフを忍ばせて走りはじめた。ジェシーが捉えられたのは昨晩のこと。それから尋問のために神殿へ移送されるはずだ。

 祭司団の結論はわかっている。想定していたよりも、昨日の連中は重装備で、何よりローマ兵と一緒に行動していた。

 つまり、彼らは公的にジェシーを罪人として裁くつもりなんだ、と悠太は気付いていた。イエスキリストのことを知らなければ、せめてエルサレム追放か、ムチ打ちかそれぐらいで済むかもしれないと甘い期待を抱いたかもしれないが、マリアとの話でローマ帝国に立て付くことがどれだけ問題になるかを嫌というほど理解したつもりだった。

 救世主で、民衆に「王」と慕われたジェシーの罪状は、おそらく「ローマに反逆した罪」祭司団のやつらのことだ、それくらいは平気で言い出すに違いない。

 だから、イエスキリストは十字架にかけられ死罪になったのだろう。

 不勉強な悠太の頭でも、その程度の結論は出せる。だったら、ジェシーが殺されるまえに、奪還する以外、方法はないのだ。

『神殿での尋問は、きっと誰もわからない場所だわ。でも最終的な決定は、ローマのしきたりにのっとって公の場でされるはず・・・・・・。だとすれば、総督の官邸前広場が、裁判の場所になると思う』

 マリアの言葉を思い出しながら、悠太は町を走り抜ける。人々の噂、町の様子、ジェシーがどこへ連れていかれたか、それを探りながら。

 その頃、実際のジェシーは、何人かの司祭の尋問や、祭司団の尋問を受けていた。その日一日をかけて、“彼ら”の神を冒涜した、としてジェシーを死罪と認定したのである。しかし、その裁定を実行するには、マリアが説明したとおり、ローマからの代官である、総督ピラトの最終判断を仰がねばならなかった。悠太とマリアの読みは、当たっていたのだ。

「総督の官邸が、いちばん確実か・・・・・・」

 そして悠太は、その場所に狙いを定めようとしていた。



 すでに前日から周囲に潜んでいたピラトの官邸周辺が騒然となったのは翌日のことだった。祭司団から総督府へ引き渡されようとするジェシーの身柄が厳重な警戒態勢で移送されてきたからである。

 到着の頃には噂を聞きつけた群衆が詰め掛けており、エルサレムの中でも祭司団を支持する者達がジェシーを刑に処すべくシュプレヒコールを挙げていた。

 物陰からジェシー奪還の機会を伺っていた悠太は、一方でまた自分たちを非難する立場の人たちがこんなにも多くいたことに驚いていた。

 これまで、エルサレムではファンや支援者に歓迎され、手厚くもてなされることが多かったが、それもまた民衆の中の一部であり、逆に暴走する若者たちとしてチーム雅璃羅屋を快く思わない人たちもたくさんいたのだ、とショックを受けた。

 厳密には、祭司団を支持するのは裕福な者や現状のエルサレムで利益を得るもの、有利な立場にいるものたちであり、ピラト邸の門前に集まったのは、社会の上位を構成する人々であった。そしてまた、ジェシーを救世主とあがめたのは、弱い立場の者たちや貧しい者たちであり、だからこそジョンやジェーシーが希望となっていたのだと、改めて悠太は気付かされた。

「エルサレムの民よ!聞け!この者こそが、偉大なる神を冒涜し、みずからを救世主、そしてエルサレムの王であると虚言した罪人である!」

 祭司長の声が聞こえる。群集の興奮が高まっているのが見て取れた。

 縄で後ろ手に縛られたジェシーの姿が見え、悠太は少し涙ぐんだ。きっとひどい尋問を受けただろうに、それでもジェシーのまなざしが、しっかりと前を向いていることが誇らしかった。

 思わず声をかけそうになったが、ぐっと我慢した。今ここでジェシーを呼んでも、何の得にもならない、と気付いたからだ。



 しかし、その時、悠太は奇妙なことに気付いた。あれだけ興奮した祭司団の支持者たちは、必ず一定の距離をとって官邸に近づこうとはしない。祭司長ですら官邸広場の門前で、声を上げるのみでそれ以上中に入ろうとはしないのだ。ローマに近づいてはならない、そんな掟でもあるのかと不思議に思う。

 悠太にはその意味はわからなかったが、彼らがまるで汚物でも見るような雰囲気で、絶対に官邸に近寄ろうとしていないことは、勝機でもあった。

「・・・・・・あそこなら突破できるかもしれない」

 せめぎあう群集の中では身動きがとれないが、空間が空いていることで、走り抜けられる。

 この騒ぎで、いずれにせよ総督とやらが姿を現すだろう。今ならまだ、ローマ兵の数も少ない。

「今しかない!」

 悠太は、しっかりと胸元の短剣を握り締め、群集の中を掻き分けるように進む。そして、最後の空間が開ける最前列へ出ると、無我夢中で祭司団の方へ飛び出していった。

「何事だ!」

 祭司団の列が崩れ、どよめく。悠太は走る、走る、走る。だが、すぐに

「暴漢だ!捕らえろ!」

と怒号が飛び交う。

 あと30m、あと20m、あと・・・・・・。一直線に走る悠太の目は、ジェシーだけを見ていた。ジェシーは、きっと悠太を見た。いや、悠太にはそう感じられた。目と目が合って、ジェシーが驚きの表情、そして自分に微笑んだのをきっと見た。

 だが、悠太の記憶はそこで途絶えた。

  鎧をまとったローマ兵たちのタックルを真横から受け、大きく宙へ投げ飛ばされた悠太は、そのまま地面に叩きつけられたからだ。それから圧し掛かるように何人ものローマ兵が悠太の上に積み重なった。

 既に、悠太の意識はなかった。




(16へつづく)

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