2018年4月16日月曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 13   夢幻の住人




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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13


 翌日、

「ジェシー、話がある」

 ジェシー一人を物陰に呼び出し、悠太は誰にも聞かれないように気をつけながら、ジェシーに昨日のことをひっそりと伝えた。

「時間もねえし、誰かに見られるとまずい。・・・・・・マリアが捕まった。神殿の祭司団が黒幕だ。ジェシー兄ちゃんの身柄と交換に、マリアを引き渡すと言ってる」

「なんだって!マリアは無事なのか?」

 自分のことより、まっさきにマリアのことを心配するジェシーの姿に、わかっていることながら悠太は惚れ直すような気持ちになった。

「今は無事らしい。だが、昨日接触してきた神殿野郎の話では、俺が約束を違えば即座にマリアを殺す、と言ってる」

「相変わらず汚い真似ばかりするな。・・・・・・約束とは、何をさせようとしている?」

「兄ちゃんをどこかで捕まえるつもりらしい。だから、活動計画を漏らせと」

「狙いは私一人か。仲間にも危害を加えるつもりは」

「それはなさそうだ。ジョン師匠が亡くなってから、目障りなのは兄ちゃん一人って感じだ。俺たちが見くびられたことはショックだけどね」

 それを聞いて、ジェシーは少し考え、

「わかった」

と言った。

「・・・・・・捕まろう。私一人でいいなら、私が捕縛されるくらいかまわない。まずはマリアを助けるのが先だ。それから後は、なんとかなるだろう」

「兄ちゃん・・・・・・!」

 それは、意外であって意外でないような答えだった。悠太としては正直に話し、打ち明け、心から相談するつもりではあったが、こんなにあっさりとジェシーが捕まることを容認するとも思わなかったからである。

「私を誰の弟子だと思ってるんだ。・・・・・・伊達に身体を鍛えてるんじゃない。いざとなれば、チャンスをみつけて逃げ出すことだってできるだろう」

 そう、ジェシーは力強く言った。それは確かに、ジェシーならそれくらいのことはやってのけそうな力強さだった。

「じゃあ・・・・・・」

「悠太、君はマリアを助け出すことに全力をかけろ。こっちのことは任せてくれて構わない。ただ、私の捕獲で多くの群集を巻き込むわけにはいかないな・・・。人々のいない時のほうが、好都合だ」

 あくまでもみんなのことを考える、それがジェシーの人の良さだった。

「・・・・・・そうだ!ゲッセマネの園がいい。夜のあそこなら、人通りはほとんどない。誰にも迷惑がかからなくていいだろう。そう漏らしてくれ、過ぎ越し祭の本祭の夜、私がそこにいると。心配するな!後のことは私もよく考えてみる」

 そう肩を叩くジェシーに、思わず悠太の声は涙ぐんだ。

「兄ちゃん・・・・・・」

「悠太が悪いんじゃない。これも神から与えられた試練だ。さあ、行け」

 ジェシーは、そう励ましてくれた。それから悠太は、仲間の誰に見られないよう、涙をぬぐって足早に部屋を出た。



 日が十分に昇った頃、泉の広場に一人で向かう悠太の姿があった。広場につくと、明らかに怪しげな目つきの男が、手持ち無沙汰そうにたたずんでいた。

「雅璃羅屋の者だ」

 独り言のように悠太はつぶやく。

「お待ちしておりやした。お話だけ、お伺いしますぜ」

 男も、何気ない風を装って、目も合わそうとせずそう言った。

「しばらくは無理だ。あちこちでトークショーをやるから、大勢人が来る。聞きに来てくれているみんなを危険にさらすわけにはいかないし、人に紛れて逃げられるかもしれない」

「さすがの人気ですな。いつも町はあんたらの噂でもちきりでさあ」

「祭の夜、ゲッセマネの園へ行く。そこなら誰にも迷惑がかからずにやれるだろう」

「過ぎ越しの夜に、ゲッセマネ…・・・っと。本当でしょうな。」

「もちろんだ。てめえらこそ、マリアを傷つけたりしてないだろうな」

 精一杯ドスの効いた声で言う。

「ご安心を。今日のところは生きておりやす」

 そういうと、男は黙って、その場を立ち去っていった。



 その夜、悠太はなかなか寝付くことができなかった。ジェシーは捕まってもかまわない、と言ったが、果たしてそれから後はどうなるのか。

 いきあたりばったりみたいな旅でここまできた「チーム雅璃羅屋」だったが、今回ばかりはそんなノリで済むとは到底思えなかった。

 マリアと救世主の話をした時に感じた「もやもや」というか「悪寒」というか、あの変な汗をかく感覚が、ずっと背中に続いている。

 これは一体なんなんだ。何が俺の身体に起きてるんだ。

 目を閉じても、祭司団の連中の嫌な顔ばかりが浮かんできて、何も考えたくないような気分だった。救世主イエスキリストのチームと、俺達が似ている。そう思うたび、汗はいっそう止まらず、じっとりと服がまとわりついてくる。

 マリアはどうしているだろう。縛られたり、どこかに繋がれたり、あるいは殴られたりしてるのだろうか。

 マリアの顔を思い出すと、それはもう牧田真理恵の顔になっている。制服を着たまま縛られた真理恵が、顔にあざを作っている姿が思い浮かんで頭から離れなかった。



 気が付くと、悠太も制服を着ていた。起き上がって周りを見回すと、石狩川高校の玄関ロビーのベンチだった。

 さっきまでジェシーたちといたのに、なんで高校にいるんだろう、と悠太はぼんやりと頭を巡らす。ああそうか、これは夢を見ているんだ。あっちの世界にいたときの、夢だと悠太は思った。

 高校のロビーには、大きな絵が飾ってある。中央にはロン毛の兄ちゃんがやや首をかしげてこちらを向いており、その周りに何人かの人物が並んでいる。テーブルの上には、水差しのようなものも見える。

 なんだっけ?レオナルドディカプリオとかいうおっさんが描いた絵だ。入学してすぐ、校舎案内の時に担任の先生がなんか言ってたな、と思う。

『これはイエスキリストが、最後の晩餐をした時の様子よ』

 そんなことを確か言ってたような気がする。

 最後のバンサンってなんだ。お食事会のことか。なんで最後なんだっけ、お別れ会?卒業式?引越しだっけ?

 まだ頭はぼんやりしている。そういや、腹がぜんぜん空かない。ジェシーのことで、メンタルやられてるもんな、マジ凹むベ。と悠太はうなだれた。



 次に頭を起こすと、全然違う場所に座っていた。学校の敷地内にある礼拝堂だった。いつの間にか、クラスの連中が回りにびっしり座っている。

 正面の奥にはステンドグラスが七色の光を放ち、十字架が壁にかけられている。磔にされた等身大のイエス像が、だらりと両腕をたらしていた。

 クラスの連中は、賛美歌を歌い始めた。女子たちの透き通るような声が聞こえて、はっと見ると、真理恵もいた。まっすぐ前を見つめながら、賛美歌を歌っている。

 剃りこみを入れた奴や、金髪の奴、リーゼントのクラスメイトまでが、一生懸命賛美歌を歌っているのが見えた。

 おい、おまえら賛美歌なんて歌うガラじゃねーだろう。いつもは礼拝堂の裏でタバコしか吸わねえのに、なんで真面目にやってんだよ。

 そう言おうとするが、声にはならなかった。

『・・・・・・ううう、』

といううめき声がどこからか聞こえて、悠太はあたりを見回した。

『神よ、・・・どうして私にこのような試練をお与えになったのですか』

 そう聞こえた。悠太が驚いて正面を見ると、十字架にかけられたイエスが、生身の人間になっていた。わき腹から血をだらだらと垂らして、両手に打ち付けられた釘からも血が垂れている。

「じぇ、じぇ、じぇ。ジェシー!!!」

イエスキリストだと思っていた磔の像は、紛れもなくジェシー兄ちゃんの姿をしていた。

「兄ちゃん!今、今助けるから待ってろ!おい、おいみんなあれ見ろよ!頼むよ、兄ちゃんを下ろすの手伝ってくれよ!」

 今度はしっかり叫んだが、誰もが悠太を無視して賛美歌を歌い続けている。

「頼むよ!みんな見えるだろ!ジェシーだよ!俺の大事な友達なんだ!」

 駆け寄ろうとするが、誰もよけてはくれない。かきわけようとしても、周りはびくともせず、小さな空間すらできない。

『ぐふっ!』

と、磔のジェシーが血を吐いて頭をかくんと落とすのが見えた。

「ジェシーーーー!!!」

 ありったけの声で叫ぶ。けれど賛美歌の声はいっそう大きくなって、悠太の声を掻き消した。



 がばっと起き上がった悠太は、はあはあと荒い息で額じゅうの汗がしたたり落ちるようだった。

「夢か・・・・・・」

 夢の中で、これは夢だとわかっていることはよくある。これもそうだ、これは夢だとわかってはいるけれど、その中でもがきつづけるしかないこともよくあることだ。

「イエス・・・・・・、キリスト・・・・・・」

 ずっと背中に張り付いていた悪寒の正体が、やっとわかった気がした。

 よくわからないけれど、ジェシーはやっぱりイエスキリストなんだ。救世主と呼ばれて、磔にされた、あの学校で教わったイエスキリストなんだ、と悠太は思った。

 悔しいのは、石狩川高校で、イエスキリストの授業をこれまでほとんどまともに聞いていなかったことだった。彼の生涯、何をやった人なのか、なんで死ななきゃならなかったのか、そういうことを一切、気にしないまま高校生活を送ってきたので、ジェシーとイエスが、結局どういうわけでこんなに似ているのか、悠太には説明することができなかったのだ。

 だが、悠太のわずかな記憶が忠告していることがひとつだけあった。それは、

「ジェシーは、捕まったらきっと死ぬんだ。それも、磔になって処刑されるんだ」

ということだ。それだけは、これから起こる未来の予言を的確に表している気がする。きっとそうだ!そうに違いない、と悠太は確信した。




(14へつづく)

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