2018年4月22日日曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 16   ああっ神様っ!




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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16




 再び悠太が意識を取り戻した時は、すでに石牢の中だった。窓がなく。格子の向こうに火がかすかにともしてあるだけの冷たい部屋であった。

 体中がズキズキと傷む。どうやら胸にしまった短剣も、奪われているらしい。意識が戻るにつれて、悠太は涙が伝うのを感じた。

 ダメだった。ジェシーに近づくことすらできなかった。たった一人では、何をすることもできなかった。そんな無力感が、悠太を包む。

 すると、ガチャガチャと金属のすれあう鎧の音がして、誰かが牢の前に立った。

「出ろ、異邦人」

 牢番のローマ兵だ。鍵をおもむろに開け、悠太を引きずり出す。

「総督さまは忙しい。・・・・・・お前など相手にしている暇はない」

 悠太には、自分が許される理由が全くわからなかった。

「どうして、どうして出られるんだ!」

 思わずそう尋ねると、ローマ兵は首をかしげながら言った。

「そもそも、お前はどこの者だ。エルサレムの者でもない、ましてやローマ人でもない。ローマ属州にお前のような者がいる土地はない。そして、誰もお前のことを知る者もいなかった」

 それがなんなんだ、と悠太は思う。ローマ兵は、さっさと出ろといわんばかりに追い出そうとする。

「お前を裁く法がないのだ。それに、今日は処刑やら裁きが立て込んでいて、忙しい」

 処刑、と聞いてビクッとする。

「ジェシーは、ジェシーはどうなったんだ?」

「ジェシーとは誰だ」

 番兵は、エルサレムのことなどまるで興味がなさそうだった。

「総督が裁いた罪人は、どうなるんだ」

「ああ、それならゴルゴダの丘で磔だ。そうだな、ちょうど今頃か。そんなことはどうでもいい、お前こそさっさと消えてしまえ。次に暴れたら今度こそ磔にしてやる」

 蹴られるように牢を出て、悠太は官舎の外へ転がり出た。

 もう、日が傾き始めていた。

 礼拝堂のイエスキリストの姿が、浮かぶ。人通りの無くなった馬車道の石畳の上で、悠太は声を上げて泣いた。激しく拳を地面に叩きつけ、慟哭した。天を仰いで、頭を石畳に打ちつけた。胃液だけを何度も吐いた。一生分の涙を流し続けた。



 それから、どこをどう歩いたのか。歩く気力すらあったのかどうかわからないまま、悠太はゴルゴダと呼ばれる丘についた。遠くに三本の十字架が立っているのが見えた。

 哀れな傷だらけのジェシーの姿を遠くに見て、悠太は膝をついた。もうそれ以上、近づくことすらできなかった。すでに涙は枯れ果てていた。

「・・・・・・悠太、悠太でしょう!」

 急に、背後から声をかけられて驚いた。振り向くとマリアの姿があった。

「マリア・・・・・・。間に合わなかったよ・・・・・・」

 そう言うのがやっとだった。マリアは悠太を抱えるように抱きしめた。

「もういいのよ、何もかも、もういいの・・・・・・」

 それ以上何も言わず、マリアはただ悠太を抱く。

 マリアと一緒に来ていた人たちが、悠太とマリアの姿を見て神に祈りを捧げていた。人々は手にいろいろな道具のようなものを持ち、荷車と、それに大きな麻布が何枚も積まれている。それは、ジェシーの遺体を包むためのものだった。

 彼らは、ジェシーの支援者たちだった。マリアも同行して、遺体を引き取りに来たという。チームの仲間たちは、逮捕を恐れてまだ散り散りになっているらしい。マリアとて、安全な身ではない。しかし、彼女は言った。

「これは、あたしにしかできない最後の勤めなの。だから、あたしがやらなくちゃいけないことだと・・・・・・」

 その気持ちは、痛いほどよくわかった。そして、そうなってしまったことを、心から悔いた。
そしてまた、そう思わせてしまったことも、激しく後悔した。



 それから数時間後のことである。

たいまつのともし火を厳かにかかげながら、悠太は岩をくり抜いて作られた大きな墓の中で、いつまでも布をまかれて横たわったジェシーと向き合っていた。大きな石の戸でふさいでしまえば、もうジェシーと二度と会うことはない。傍らではマリアもじっと黙って座っている。

「祈りましょう悠太。ジェシーのために」

「ああ」

 二人は並んで、両手を組んで祈った。悠太は心の中で願う。できることなら、ジェシーを生き返らせてください。それがダメなら、どうか彼の魂が永遠に安らかであるように、と。

 けれど、神様は本当にいるんだろうか、とも思った。ジェシーやマリアは、確かに神を信じていた。しかし俺には、わからない。もし本当に神がいたなら、どうしてジェシーがこんなことになってしまったのか、その理由だってわからないじゃないか、と。

 エルサレムがローマに支配されていることだって、裕福な人たちと貧しい人たちがいることだって、みんなが救世主を望んでいるこんな時勢だって、全部神様が見ているのなら、どうしてこんなことになっているのか、それも全然わからない。

 神様を呪う気持ちはないけれど、せめて、そのどれか一つでも理由を教えてほしかった。でも、きっと神様は何も答えてくれないのだ、と悠太は絶望した。

「さあ、もう行きましょう」

 マリアが言う。

「あたしたちには、まだ彼の遺志を継ぐ仕事が残っているんだもの」

「・・・・・・そうだな」

 悠太も頷いて、立ち上がろうとした時だった。

 それはまさに天から降ってきたような、そんな思いというか感覚だった。

 そうだ、そうだ、・・・・・・そうだ!

「マリア!まだだ、もう一つだけ、きっともう一つだけチャンスがある」

 そう悠太は叫んだ。突然のことに、マリアはきょとんとしている。

「ああ、どうして俺はいままで気付かなかったんだ!きっとこれは神様の思し召しなんだ!マリア、マリア、ジェシーはなんとかなる。きっとなんとかなる!」

 有頂天で、悠太は狭い墓の中で跳び回っている。

「今すぐ、ジェシーをここから運び出そう。荷車に載せて、彼をひっぱるロバを借りてこよう!すぐに出発しなくちゃならない。行こう、すぐ行こうって!」

「行くって、ジェシーを連れて何処へ行くの?」

「よるだん川だよ!よるだん川へ行けば、ジェシーは助かるかもしれない。それが最後の望みなんだ!」

 何を言ってるのかさっぱり意味がわからない、そんなマリアをせきたてて、悠太はジェシーの遺体を背中にかついだ。ずっしりと彼の重みが両肩にかかる。そして、乗せてきた荷車にそっと寝かせると、墓の石扉を力づくで転がして閉めた。

 それから悠太は、荷車のジェシーの身体に布をかぶせて一生懸命引っ張りはじめる。

「本当に、ねえ!どうしたの!ジェシーはもう死んじゃったのよ!どこへ連れていっても、おんなじよ!」

 そんなマリアに、悠太は天の月を見上げながら言った。

「マリアとジェシーたちの神様を、俺は信じる。信じるから行くんだ。きっと神様はいて、だから俺も今ここにこうしている。俺には、神さまを信じられる、奇跡を信じられる証拠があるんだよ。・・・・・・なんで今まで気付かなかったんだろう!本当に俺はバカだ!」

 そして、荷車を引いて歩きながら悠太は、マリアに本当のことを話し始めた。

「マリア、説明してもわからないと思うが、俺は一度死んでいた人間なんだ。俺がいた遠い遠い国で、いや、遠い遠い世界で、死んでしまっていたんだと思う。でも神様は、どうしてかわからないけれど、俺を生き返らせてよるだん川のそばで助けてくれた。そこで俺はジェシーや師匠に出会ったんだよ」

「・・・・・・」

「だからよるだん川へ行けば、きっとジェシーは生き返る。こっちの世界では無理でも、俺が向こうからこっちへこれたように、こっちからあっちで生き返ることは叶うかもしれない。

 俺はもう、元の世界に帰れなくってもかまわない。でもチャンスがあるなら、このまま、ただジェシーが骨になっちまうくらいなら、あっちの世界で幸せになってほしい、とそう思うんだよ」

「・・・・・・そんなの、信じられないわ」

「じゃあ、どうして君らは神様を信じられるって言うんだ。毎日祈りを捧げて、神様を信じてるのに、俺がどうしてここにいるのかその理由を信じられないって言うのか?」

「わからない、そんなのよくわからない。」

「それでもいい。でも、それが最後のチャンスだと、俺は信じる。だから、ジェシーをよるだん川までどうしても連れて行くんだ!」

 こくん、とマリアは頷いた。よくわからないなりに、それでも悠太がそうしたいなら、それで納得できるならそうするべきだ、と彼女も彼を信じたからである。




(17へつづく)

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