2018年4月10日火曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 10   ジーザス☆クライスト☆スーパー☆。




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■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


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10




 救世主、という言葉がエルサレム市内で聞かれるようになったのはそれからほどなくしてのことだった。

「聞いたか、あのチーム雅璃羅屋の連中が、祭司たちをやりこめたらしいぞ」

とか

「あいつらなら本当にローマ支配に一泡吹かせられるかもしれねえな」

とか

「いっそヘロデ王なんて暴君にひっこんでもらって、あのリーダー。なんてったっけ?ジェシーに王様になってもらったほうがマシなんじゃねえか」

とか、

「チーム雅璃羅屋は、救世主だな」

とか、そんな市井の声が、ジェシーたち一行の周りで囁かれるようになってきたのである。

 ちょうどエルサレムの祭りの時期も重なって、盆踊りのゲストのように、あちこちへ招かれることも多くなったせいで、いっそうジェシーたちの名声は大きくなっていったのだった。

 その頃には、マグダラのマリアやその友達、あるいはファンの女の子などが遠征の差し入れなどをしてくれるようになっており、悠太はずっと彼女と親しくなっていた。

「悠太さんは、遠い異国からやってきたって本当?」

「ええ、北海道っていう寒いところです。ここと違って水は豊かですが、季節が変わると本当に寒くなるんです」

 二人はよく、ジェシーの活動の合間に身の上話をしたりした。

「そうだ!エルサレムではたぶん見たことがないと思うけれど、北海道では雪ってのが降るんすよ。雪ってまっしろで、フワフワで、空から落ちてきて、それがどんどん地面に積もっていっぱいになるんです」

「まあ、地面が真っ白になってしまうの?それは美味しいの?」

 おいしい、という発想が悠太にはなかったので、あははと思わず笑ってしまう。さすが文化の違う人は、思いつくポイントが違うな、とも感じた。

「美味しいかって言われたら、難しいっすね。そのまま食べても、きっと冷たいだけかな。あ、でも夏にはね、『かき氷』っていってその雪みたいなのを甘くして食べるんすよ。それはめちゃくちゃ美味しいな!」

「じゃあ、きっとマナね!」

 ぽん、と手を叩いてひらめいたようにマリアは言う。

「マナ?」

「そう!私たちの昔話に、マナという神様が与えてくれた食べ物があるのよ。その昔、私たちの先祖が荒野を彷徨っているときにね。食べ物がなくなってみんなは神様に祈ったの。そうしたら天から、そうまるであなたの言ってる雪のようなものが降ってきて、地面にふわっと積もるんですって」

「へえ!それはもう雪に間違いないっしょ」

「でも、冷たかったかどうかは、わからないの。甘くて美味しいんだけど、ほうっておくと解けてしまうとは聞いたことがあるわ」

「そりゃあ、きっと雪だなあ!天然のかき氷だ」

 二人は、そんな他愛もない話をよくした。けれど、マリアはずっと自分が罪人であることを恥じていて、悠太と手をつなぐことさえなかった。

 悠太も、彼女の昔のことは聞かないように心に決めていた。それが男ってもんだろ、と自分に言い聞かせていたからである。

「そういえば、ここのところずっと、ジェシーさんのことを救世主だって言う人が増えたわ。本当にユータやみんなが民を率いてくれたらいいのに、ってあたしだって思うもの」

 ふと、そんな話が出て、悠太は聞きなおした。

「キューセーシュ?」

「ええ、この国を救ってくれる人のこと。私たちの国には、マナみたいにいろんな伝説があって、神の預言者が現れてピンチの時は民を救ってくれるっていうのよ」

「へえ、でも救世主っていったらイエスキリストだよな」

 思わず、そんなことを言う。悠太はヤンキーで、学校の先生の言うことなぞこれっぽっちも聞いたことがなかったが、それでも自分の学校がミッションスクールだってことくらいは、知っている。

 イエスキリストを信じるキリスト教の人たちが、学校を建てたこと。イエスキリストって言やあ、なんかしらんけど世界を救った救世主ってことぐらいは、悠太だって知ってる。ここは胸を張っていいと自分でも思う。

「俺たちの世界でも、救世主イエスキリストってのがいて、なんだっけ。世界を救うヒーローみたいなもんだったらしいよ。あんまりよく覚えてないけど、最後の食事の絵をやたら先公に授業で見せられるんだよね。弟子が12人いて、オージーザス!って指で十の字を書くやつ」

 もはや賢明な読者諸君から見れば何を言ってるのかわけわからないが、悠太なりに断片的な知識を精一杯かっこよくマリアに伝えているつもりなのである。

 マリアはそれを見ながらクスクス笑っている。

「あなたの世界の救世主は、ほかに12人の仲間がいるのね!ほら、一緒じゃない?リーダーのジェシーがいて、それからみんなで13人。まるで悠太たちみたいだわ」

「ああ!言われてみれば!」

 悠太は、目を丸くする。そういえば、ジェシーと愉快な仲間たちも、イエスとのその弟子たちも全部で13人のチームなんだ、とはじめて思った。なんかすげえ、面白い!と一緒になって笑いながら、その顔が急に真顔になるのを悠太は感じていた。

『なんだこれ』

 マリアの笑顔は屈託がない。幸せなひとときだとわかっている。でも、何かが変なのだ。何か大事なことがすっぽり抜け落ちているような、そんな嫌な感じが急に、悠太の背中に襲いかかってきた。

『なんだ、なんだこの変な感じ』

 さっきまで元気だったのに、ゾクゾクする。まるで風邪を引いたみたいに、体のどこかが寒く震えるような気持ちになった。

「・・・・・・どうしたの?暑さに苦しくなった?」

 怪訝な顔をして、覗き込んだマリアに、悠太は必死で平静を装った。

「いや、・・・・・・いやなんでもないんだ。さあ、みんなのところへ戻らなきゃ」

 立ち上がりながら、悠太はきっとこれは何かの気のせいだ、と思う。溺れた時に頭を打ったかなんかで、嫌な記憶を忘れてしまってるのかもしれない、とこの世界に来た頃のことをふと思い出していた。




(11へつづく)

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