2018年4月18日水曜日

【新連載】ヤンキー小田悠太の慟哭 14   使徒、・・・襲来




==========




■ 作者多忙につき、通常のブログ更新を休載します。まるで少年チャンプみたいでしょ。


 諸事情で仕事の依頼がひっきりなしで、全然終わらないので、自動運転に切り替えます。


 おおむね2日おきに続きを更新しますので、どうぞ。


 キリスト教とはいったいなんなのか!信仰とはどういうことなのか!ということが中学生でも理解できる名作です。


■ はやく続きが読みたい人は↓ べ、べつに課金なんかないんだからね。

 https://talkmaker.com/works/b0c04591422427ceda5bc3fbf689e1ff.html




===========


14



「やっぱりダメだ。ジェシー兄ちゃんを危険にさらすのは、やっぱりやめよう」

急にそんなことを言い出した悠太に、ジェシーは怪訝な顔をする。再び二人きりの時間を捉えて、悠太は今回の計画の中止を言い始めたのだった。

「何を言ってるんだ。私のことより、マリアをまず助けないと」

「それはわかってる。わかってるけど・・・・・・」

 ごくんと唾を飲み込む悠太。

「けど、ジェシー兄ちゃんは、きっと捕まったあと・・・・・・殺される」

 最後のほうは、小声だった。そういうのがやっとだった。信じてくれないのはわかっている。それでも、それだけは伝えておかないと、と思った。

「そこまでのことはないだろう。仮にそうなりそうだったら、うまく逃げるさ。腕力で祭司団に負けるとは到底思えないしな」

 いやたぶん、それでも兄ちゃんは負けるんだ。『どういう状況かわからないけど、ジェシーは逃げられないんだ』、と思うけれど、それをうまく説明できないのが、もどかしかった。

「悠太。君がやるべきことは何だ」

ジェシーがまっすぐこちらを見ている。

「・・・・・・マリアを助けること」

 兄ちゃんを助けること、といえば、怒られる気がした。

「わたしにもやるべきことがある。わたしも、マリアを助けたいんだ」

 そのために自分が犠牲になってもですか、と悠太は思った。

「じゃあ、逆に聞こう。悠太、君が私とおなじ立場だったら、どうする」

 それを聞いて、悠太はドキッとした。

 死ぬかもしれない。

 殺されるかもしれない。

 それでも、それがマリアを救う手段なのだとしたら、きっと自分もそうするだろう。もしそれが、勝ち目のないケンカや戦いであったとしても、きっと自分もそこへ行くに違いない。それは、ヤンキー時代の悠太でも、そして今の悠太でも、変わることのない事実だった。

「・・・・・・わかったよ。兄ちゃん。その代わり、マリアが、マリアが助かったら、俺は全力であんたを助けに行く」

「ああ、そうしてくれると、嬉しい」

 ガシッとジェシーが、悠太の手を取った。

  ジェシーはイエスキリストかもしれないけれど、もしかしたら違うかもしれない。これは単なる何かの偶然で、ジェシーを助け出すことだってできるかもしれない。

 悠太は必死で自分に言い聞かせた。確かかどうかわかんねえことに振り回されないで、目の前のことをやればいいんだ。マリアさえなんとかなれば、それこそ俺は、俺は死んでもジェシーを助けに行くだろう、と悠太は決意した。



 過ぎ越しの祭りの夜には、特別な食事をするという風習がこの国にあるのを、悠太はもちろんその晩はじめて知った。ファンの家に招待された13人のチーム雅璃羅屋のメンバーだけで、小さなお祝いの食事をすることになり、メンバーがテーブルについている。

 いつもと違う、硬いちょっとパサついたパンと、苦味の利いた野菜、それから毎度おなじみの赤ぶどう酒が質素ながら丁寧に並べられている。

「さあ、それでは神に感謝の祈りを捧げて、いただこう」

 ジェシーはいつものように、神様にお祈りをして、それから食事が始まった。しかし、さすがのジェシーも、今夜ばかりは緊張した面持ちで、口数が少なくなっていた。

 悠太も、黙って味のしないパンを食べ、ぶどう酒をちびちびと飲んでいる。

「町のみんなは、今度はジェシーのことを王だと言い始めてるぜ」

 サイモンがそんなことを言う。

「正直に言えば嬉しいとは思わないけれど。私の本当の気持ちは、みんなが神のことを思う正しい生活に戻ってくれることだけなのだが」

「あんまり当局を刺激するのも、まずいかもしれませんね」

 フィリップの言葉に、悠太はギクリとする。おまけにジェシーがこんなことを言い出して、生きた心地がしなかった。

「もし、私が捕まったら、みんなはどうする?」

 ジェシーが尋ねたので、ピーターが言う。

「そりゃあ、もちろん、どこまでだってついていくぜ!」

「うそつけピーター、真っ先に逃げ出すんじゃないか?」

「『ジェシー?そんな人は知りません』、とか言いそうだ」

 のんきなもので、けたけたと笑うメンバーがいる。冗談にしても、間が悪い、と悠太はひや汗をかいている。すると、あまり食欲がなさそうな悠太のことを察したのか、ジェシーは

「今夜は長くなるだろう。悠太、食事はしっかり取っておいたほうがいい。ほら、私の分も食べておけ」

と、乾いたパンをぶどう酒に浸して渡してくれた。

「このパンは、過ぎ越し祭だけに食べる特殊なパンでね、食べ慣れていなければ美味しくないだろう。そういう時は、こうやってぶどう酒に浸して食べると、美味しいんだ。・・・・・・しっかりしろ。君にはやるべきことがある」

「・・・・・・ありがとう」

 悠太は、そのパンの味を、一生忘れることはないだろうと思った。そして、夢の中でみたイエスから流れた血とおなじ色をしたぶどう酒の色も、絶対に忘れないと感じていた。

 そして、こうして最後に交わされた二人の言葉の意味を知るものは、誰一人としていなかった。



「済まないが、今日はなんだか一人で考えたい気分なんだ。ゲッセマネの園へでも出かけてくるよ」
 食事の後、ジェシーがそんなことを言い出したのでみんなは驚いたが、

「なんだよ。水くせえ。散歩がてら俺たちもついていくよ」

と結局ぞろぞろ彼についていこうとしたので、ジェシーは苦笑いするしかなかった。

 ゲッセマネの園は、庭園のようになっていてオリーブ山のすぐ近くにある。あの日のピクニック以来、メンバーはオリーブ山から見る景色が気に入っていた。

 ゲッセマネについてからは、ジェシーは一人で座り込み、瞑想するように神に祈りを捧げているようだった。

 ついては来たものの、取り立ててすることがないメンバーの中には、月明かりを浴びた夜風の心地よさに、居眠りを始めるものもいた。

 悠太は、そんなのんびりとした光景を落ち着いて見ている余裕はなかった。祭司団の姿はない。こちらが早く到着しすぎたのか、それとも既にどこかに潜んでいるのか。いてもたってもいられなくて、一人ジェシーたちの居る場所から離れ、あたりを伺うように歩き始めた。

 すると、少なくない人数の、それもしのび足とわかる足音が、遠くから近づいてくるのがわかった。遠くだったたいまつの火が、しだいに大きくなってくる。先導しているのは、祭司団の使いの男だ。悠太は近づいた。

「・・・・・・約束通り。ジェシーはあっちにいる。他のメンバーには危害を加えるな」

 声を潜めて悠太が言うと、男は

「お役目ご苦労様ですな」

とわざとらしく言う。

「あの男はどこだ」

と低い声でこの先を伺う声には聞き覚えがあった。祭司長だ。

「早く、早く捕らえろ」

「まあまあ、お慌てにならずとも」

 そんな会話をしている祭司団の連中に、悠太もはやる気持ちで言う。

「マリアは、マリアはどこだ。早くマリアを返せ」

 ・・・・・・マリアさえ奪還すれば、ジェシーを助けられる。そう考えたが、

「まだですな。まだ奴を捕らえてない。ふもとに宿があるから、そこで女は解放されるでしょう」
と、ここにマリアがいないことを聞かされただけだった。



「ジェシー、様子がおかしい。何かあるぞ」

 一方のジェシーたち。園の周囲の異変をひと早く察知したのは、サイモンだった。

 体をかがめながらあたりを伺い、すっと短剣を抜く。すばやい身のこなしで、小走りに走り始める。サイモンはすぐに、ちょうどこちらへ進んでくる悠太たちを見つけた。

「悠太!これはどういうことだ・・・。祭司団の連中。お前、まさか裏切りやがったのか!」

「ち、ちがう!そうじゃない!」

 そういうのが精一杯だった。説明しても、この状況ではわかってくれるわけはなかった。そして何よりも、結果としてジェシーを裏切っているのは事実だ。その重さが、それ以上悠太に弁明をする気持ちを失わせる。

「ちがう!ちがうんだ!」

 そう言うのがやっとな悠太の声は

「かかれ!」

という祭司長の命令にかき消された。

 すばやく、祭司団と神殿兵らしき武官と、ローマ兵がジェシーたちを取り囲んだ。

「この野郎、ぶっ殺してやる!」

 ナイフを胸から前に突き出しながら、サイモンが叫んで突進した。祭司の一人に切りつけ、鮮血が散った。

「やめろ!サイモン。いいんだ。誰も傷つけるな!」

「で、でもジェシー」

「剣をしまえ。やつらの狙いは俺だけだ。何も手出しするな」

 すぐにジェシーは捕縛され、周囲を神殿兵とローマ兵が取り囲む。悠太は、思わずジェシーに駆け寄ろうとした。

「なんのために来たんだ!早く行け!」

とジェシーは怒鳴った。

 悠太はもう何も言えず、ただ飛びつくようにジェシーに抱擁した。涙がボロボロこぼれて、二人の頬を伝った。

「行け!いけえええええ!」

ジェシーが叫ぶ。

「うわああああ!」

と悠太は後ろを振り返ることができず、走り出した。

「この際だ!全員捕らえろ!」

 祭司長が叫ぶ。その声を聞いて、チームのメンバーも一目散に逃げ始めた。あたりは怒号が飛び交った。



 走り続けた悠太は、ふもとの宿へ飛び込む。番をするように表に何人もの下級祭司と神殿兵が立っているのですぐにわかった。

「ジェシーは逮捕された!マリアを解放しろ!」

 その気迫に、全員がたじろいだ。

「しかしまだ、許可が出ていない・・・・・・」

「つべこべ言わずにあれをみろ!」

 悠太が指さした山中腹では、いくつもの明かりが右往左往ゆらめいている。祭司団や神殿兵のたいまつのあかりがせわしなく動く様子だ。

「ジェシーは捕まったんだ!もういいべや!さっさとマリアを渡せ」

 怒鳴り散らし、中へずかずか入り込む悠太の声を聞いて、奥からマリアが駆け寄ってきた。両手を縛られているものの、それ以外は自由のようだった。

「マリア!怪我はないか!」

「悠太!あたしは大丈夫!あなたは・・・・・・」

「心配ない。さあ、逃げるぞ!」

「あ、こら!待て!」
 
 慌てる祭司たちを尻目に、二人は走り出した。とりあえずは、どこかのファンの家にでもかくまってもらおう。それからこの町を出る。その前に、俺はジェシーを取り戻す!

 だが、それには一つだけ当初の計画から大きな誤算が生じていた。

「俺は、裏切り者なのか・・・・・・」

 サイモンの顔が浮かんだ。きっと仲間たちは、本当に俺がジェシーを売ったと思っているに違いない。あの様子でバラバラにされちゃ、あいつらも一緒に行動できないだろう。

 つまり。

 つまりは、俺がたった一人で、ジェシーを救い出さなくてはいけない、ってことだ。

 しっかりマリアの手を取りながら、悠太は走った。走りながら、これからやるべきことの覚悟をしっかり決める。

『俺は、必ずジェシーを助ける』

 悠太は、そう決意した。




(13へつづく)

0 件のコメント:

コメントを投稿